投稿者アーカイブ:岡本全勝

消費低迷は年金への不安

2024年10月28日   岡本全勝

9月30日の日経新聞経済教室は、小川一夫・関西外国語大学教授の「個人消費低迷、年金制度への信頼回復が急務」でした。

・・・家計消費の低迷が続いている。「家計調査」によれば、2人以上の1世帯あたり1カ月間の実質消費支出は、1992年にピーク(35万4581円)を付けた後、趨勢的に低下しており、2023年には27万8406円となった(家計調査年報の名目値を20年基準消費者物価指数で実質化した)。

家計を取り巻く環境の不確実性が高まれば、家計は消費支出を減らし、予備的な貯蓄を増大させる。日本経済は阪神大震災、東日本大震災や新型コロナウイルスの感染拡大をはじめ、家計の不確実性を高める様々な事象に直面してきた。一方、08年の世界金融危機は、世界規模で人々の不確実性を高めた経済的なショックだ。これらの事象はいずれも事前に予測が困難な負のショックであり、家計を取り巻く不確実性を高め、負の影響を及ぼした。
しかし不確実性を高める事象が、すべて予期不可能なものばかりではない。その事象がある程度予想できるにもかかわらず、適切な対処がされず不確実性が高まることもある。日本の高齢化の進行はその好例だ。
高齢化の進行は、日本経済に内在した構造的な事象であり、将来の人口推計などにより進行の予想はある程度可能だ。政府もこうした状況を考慮に入れて高齢化対策を講じてきた。それが公的年金制度の設計だ。
公的年金の制度設計が盤石で、家計が全幅の信頼を寄せるならば、家計への影響は最小限にとどまるだろう。だが公的年金制度が高齢化に対し脆弱であると家計が認識すれば、不安のない老後生活を送るために公的年金の受給を補完すべく消費を抑制して、予備的な貯蓄を増大させるだろう。まさに日本で観察される趨勢的な消費水準の低下は、家計による公的年金制度の脆弱性を補完する行動ととらえることができる・・・

・・・まず毎年8割を超える個人が老後の生活に不安を抱いている。そうした世帯はなぜ老後の生活に不安を抱いているのだろうか。
第1の理由は「公的年金だけでは不十分」であり、8割前後の個人が公的年金だけでは十分でないと考えている。家計による公的年金の位置づけをみると、「自分の老後の日常生活費は、公的年金でかなりの部分をまかなえる」という考え方に「そうは思わない」と回答した個人も8割近くに及ぶ。大部分の家計は、老後の生活を安定的に維持していくうえで公的年金の支給額が不十分であると考え、公的年金に対しネガティブな評価を下している・・・

・・・つまり高齢者が継続的に働くことで、勤労所得の増加を通じて年金受給が補完され安定的な所得が確保される。しかも基礎年金の拠出期間延長が可能となり、すべての被保険者の基礎年金給付が充実し、年金制度の脆弱性の是正にもつながる。このように家計が抱く不確実性が軽減され、予備的な貯蓄の減少を通じて消費の活性化につながる・・・

仕事ができる人は「ありがとう」を言える人

2024年10月27日   岡本全勝

日経新聞・私の履歴書、ヘンリー・クラビス・KKR共同創業者兼会長。10月26日の「黄金律」から。

・・・KKRへの入社を希望する候補者を面接する際、私たちはファイナンスについての識見、戦略的な発想、リーダーシップのスキルを超えた能力に注目する。「ライク・アンド・トラスト」を備えているかを見て、人柄の理解に努めている。KKRと文化的に合うかを確認したいのだ。

例えば夕食に連れ出し、ウエーターが食事や飲み物を運ぶ度に心から「ありがとう」と言うかを見る。会社では、面接担当者以外の人にどう接するかも観察する。印象づけたい相手以外の人にどんな態度を取るのかに、本当の人柄がにじみ出るからだ。
傲慢な人は試験に落ちる。人に好かれずフォロワーシップを持たない人は、パフォーマンスと過去の実績がすべてだと勘違いしている。実績は表計算ソフトの上にあるだけではない。知り合いとも、そうでない人たちとも関係を保てる優れた実績が欲しい。

私たちの価値観に由来する。ジョージ(ロバーツ共同創業者)と私は両親から「黄金律」を植え付けられた。「自分がしてもらいたいように、人にもしてあげなさい」。これを実践してほしいのだ・・・

衆議院選挙投票

2024年10月27日   岡本全勝

先日、衆議院選挙の期日前投票に行きました。
東京の小選挙区は5つ増え、杉並区は2つに分割されました。私の住んでいるところは8区のままなのですが、近所の道路で線が引かれ、その先は27区になりました。地下鉄の駅の前では、8区の候補者と、27区の候補者が演説をしていて、紛らわしいです。

期日前投票の投票所に行くと案内人がいて、「8区ですか、27区ですか」と聞いてくれます。同じ建物に、2つの投票所があるのです。これは、案内人がいないと、混乱するなあと思いました。
投票を終えて出てくると、NHKの出口調査員がいました。協力しようとすると、「27区をやっているので、8区の方は残念ですが対象外です」とのこと。

北村亘教授の官僚意識調査

2024年10月26日   岡本全勝

北村亘・大阪大学教授が、10月5日に名古屋大学で開催された日本政治学会で、「何が官僚の業務負担感を左右するのか− 2019・2023年官僚意識調査から見る官僚の認識–」という報告をされました。先生たちが行っている官僚意識調査に基づく分析です(2023年調査)。
報告の内容は学会員でないと読むことができませんが、先生からいただいた論文を元に少し紹介します。なお、この内容は、いずれ書物として出版されるとのことです。

・・・調査直後のコロナ禍以降、官僚たちが何に対して業務負担を感じており、どのような官僚がより業務負担感や離職意思を有しているのかという点を改めて分析する必要性が生じている。
そこで、本報告では、2019年調査、2023年調査の結果を用いて、まずは官僚の属性ごとに業務負担感がどの程度、離職意思に関係しており、とりわけ離職を考えている官僚にはどのような特徴があるのかを分析する。その後、2023年調査で新たに追加した質問に着目し、国会対応と訴訟リスクという観点から官僚の業務負担感について説明する。従来から指摘されてきた国会対応のみならず訴訟リスクにも目を向けることで、政治と司法のはざまでもがく官僚像を浮き彫りにできるだろう・・・

結論
・業務負担量の認識が離職行動にやはり大きな影響を及ぼしている。
・ただし、単純にすぐに離職というわけでなく、職場環境の改善などで離職意思を緩和することが可能である。
・業務負担量を左右しているのは国会対応であることが確認されたけれども、それだけでなく、行政訴訟の要件緩和が行政への大きな圧力としてかかっている。

最後に、次のような記述もあります。
・・・ただ、2 回の調査から、議院内閣制における二大統治エリートの一角を占める行政官僚が大きく傷ついていることが明らかになった。かつてのような活動型官僚が主軸であった行政を復権させることは現実的ではないが、ただ、このままでいいとは思えない。政治主導の土台はすぐれた行政の企画立案能力と実施能力にある。いたずらに選挙目当てで、もともと少ない公務員数をさらに削って功績顕示をするようなことは政治家自らの政策能力を低下させ、拍手喝采を送った国民も苦しむことになっていくだろう。民主主義における健全な行政には官僚の健全な職務環境が必要である。
政治家の行動原理に影響を与える制度的要因が選挙制度であるならば、官僚の行動原理に影響を与える制度的要因は在職保障と業務量に連動しない給与体系を中心とした公務員人事制度である。さらに業務の執行の仕方として特徴的なことは官僚の打ち出すことには強制力が伴うということである。事務次官経験者も民間大企業の幹部職員との違いとして所管範囲とそれに見合った法令を常に意識しつつ、法的強制力を伴うことから社会への権力行使には慎重さが必要だと指摘している(岡本 2024)。こうした制度の下で、公務員数が近年まで削減されてきたのに業務だけが高度専門化し増えていると一気に彼らのモチヴェーションは低下し、最終的には離職行動につながりかねないということが本稿で明らかになったことである。民間企業と異なり、行政における組織目標を外在的に定義するのは政治家の役割である。論壇でも行政の役割をそもそもから再定義することを求める意見が強い(たとえば待鳥2024)。公務員にはできるところから少しでも職場環境を改善していくことが求められているが、なによりも根本的な点は政治家でないと解決できない。政治家には、十分に専門家の意見に耳を傾けつつ、公務員数削減競争に陥らないことが「日本の行政」にいま求められていることだろう・・・

文中「岡本 2024」は、「公共を創る196 政府の役割の再定義46 転換を迫られる公務員の人事政策」『地方行政』11317 号(8月29日)です。

「大課長」問題

2024年10月26日   岡本全勝

10月4日の日経新聞・私見卓見、林宏昌・リデザインワーク社長の「「大課長」問題を克服せよ」から。

・・・多くの会社で部長や事業部長が課長と同じような仕事をしている「大課長」問題が発生している。部長や事業部長が「今月の数字や成果のことばかりを気にしている」「現場がすべき実務を抱え、各論に口を出している」「日々の仕事を回すことが中心で、人材育成に手がまわっていない」「現在の延長線上で未来を語っている」「今いる人たちだけで業務を何とかしようとしている」――。このうち3つも当てはまっていれば、大課長問題を抱えているはずだ。

大課長問題によって引き起こされる悪影響は、まず多重管理になり、報告業務や社内作業が増え、生産性が下がることだ。
本来、今月の数字や成果などの責任は課長が担い、部長や事業部長は年間計画や長期への責任を担う。だが、各階層が同じ短期成果に目線が寄っていると、課長が部長に短期成果についての報告を行い、部長が事業部長に同様の報告を行うことになる。これにより課長も大課長に向けた報告業務が増え、課長も短期業績の責任を担いきれないので、ただの大課長の調整役になりかねない。

また、事業の未来に向けた重要な議論が抜け落ちてしまう。部長や事業部長が大課長になっている場合、現場の各論に強く、短期成果に業務シェアが大きく取られているので、中期の戦略を描き、業務を大幅に見直して生産性を上げる業務改革が進まない。
さらに組織の未来に向けた重要な議論が抜け落ちてしまう。1年後、3年後にどんな組織をつくっていきたいか、そこに向けて不足する人材やポストはどこか。将来について考える時間が不足しているため、内部の育成・登用や外部採用の計画を立てることができず、必要な人材を確保できない・・・