岡本全勝 のすべての投稿

2007.02.10

政と官」の記述が多くなったので、「行政機構」を独立させ、「官僚論」も整理しました。霞ヶ関の問題や省庁再編は、行政機構」に集めました。先日連載したお詫びの仕方とかは、「仕事の仕方」にあります。もっとも、そんなにきれいには整理できません。改めて読むと、何度も同じことを言ってますね。
これだけページが増えると(380ページ)、どこに何があるか、私も分からないです。目次を眺めて、「そうだ、こんなページもある」と思い出します。そのために、表紙の下に検索機能をつけてあるのですが。先日、新聞記者さんから、「岡本さんのホームページの中を検索しても、たくさん出てきて、探しにくいんですよね」と、苦情をもらいました。

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出版社「ぎょうせい」から、シリーズ「地方税財政の構造改革と運営」の発行が始まりました。「第4巻 行財政運営の新たな手法」と「第2巻 三位一体の改革と将来像・地方税・地方交付税」が、すでに出版されました。
第4巻は、自治体の管理と運営の、新たな動きや手法についてです。組織マネジメント、人事管理改革と行政評価、アウトソーシングと地域協働、PFI、公営企業改革、地方独立行政法人、規制改革、特区、地域再生などについて書かれています。第2巻は、三位一体改革の成果とこれからの課題、将来像のうち、地方税と交付税について書かれています。
(時代の変化)
地方行財政については、出版社「ぎょうせい」や第一法規から、これまでも何度もシリーズの本が出ています。自治の仕組み、行政分野ごとの制度、財政の仕組み、税制の仕組みなどです。私も公務員になったころ、買って勉強しました。もちろん、とてもすべては読めませんでしたが、興味のある分野は通読し、その他は必要に応じて参照するという読み方です。今も、何冊かは捨てずに持ってます。
それを見て、時代の変化を感じます。かつては、制度の解説が主で、教科書でした。一昔前の百科事典のように、本棚に鎮座していました。装丁も頑丈でした。近年のは、制度の解説より、何が変わったか、これからの課題は何か、進むべき道はという、論文集に近いです。体裁も、コンパクトになっています。かつては、数年並べておけましたが、最近のは次々と新しくなり、耐用年数が短くなりました。
(制度の解説から課題と将来像の提示へ)
これはもちろん、大きな制度の改正が続いていること、また運用も変化の時代に入っているからです。執筆者も、制度の解説だと、制度や先達の本をお勉強すれば書けました。今やその上に、課題を整理し、自らの考えを述べなければなりません。かつての本には私見は不要でしたが、今は私見のない論文は、役に立たないのです。
10年以上前、まだ私が自治省の課長補佐だったころ、若手補佐を糾合して、新しいシリーズを編集したことがあります。「分権時代の地方財政運営講座」です。編集代表は湯浅利夫財政局長(後に自治事務次官、宮内庁長官)にお願いしました。刊行の辞には、次のような文章があります。「従来の地方財政の解説書、教科書とは、形、内容とも大きく異なったものとなっている。まず、これまでのような制度、仕組みの解説ではなく、テーマ別にその実績、新たな動き、今後の課題と展望を論じる論説方式を採用した。実績については評価を、課題については政策を重視した記述、分析を求めたため、各論文とも執筆者の見解を踏まえたものとなっている」。
今と同じようなことを、言ってますね。この「論説方式」は、当時刊行されていた岩波講座「日本通史」にヒントを得ました。通史と銘打ちつつ、そこでは通史的な記述ではなく、テーマを立てて論説する方法をとっているのです。
財政運営講座は、各巻の構成も、地方財政の新たな展開、地域振興の戦略的展開、高齢社会、地域経済、地域経営、行政管理、資金管理と、それまでにないユニークなものでした。
こんな講座を考えたのは、地方行財政は拡大と安定の時期を過ぎ変革の時代に入ったこと、そして制度の解説では十分でなく課題と解決策を提示しなければならない、と危機感を持ったからです。もっとも、私たちが編集した講座が、それに成功したかは、やや心もとないです。後輩達が書いた本を見ながら、こんなことを思い出し、考えました。

省庁再編の軸

これから行政の使命は、これまでのような業界振興ではなく、生活者保護になるべきではないか、というのが私の考えです。そこで、省庁再編も、この哲学に沿って行えないか、と考えています。「生活省」をつくり、生活者保護を担うのです。
今、暮らしという観点で、内閣府にある組織が「暮らしの相談窓口」としてくくられています。クリックしてみてください。そこには、男女共同参画、配偶者暴力、消費生活、個人情報保護、NPO制度、公益通報、食の安全、インターネット上での違法・有害情報、交通事故被害、学校生活・友人関係等、社会生活における深刻な悩み、といった事項が並んでいます。
これらを見ると、これまでの官庁とは違ったイメージを、持たれるでしょう。道路を造ったり、農地を整備する仕事とは違った役割が、求められているのです。そして、一般の国民には、これらの方が切実なのです。
もちろん、各省にもそれぞれの分野で、業界でなく生活者・利用者側にたった施策、窓口があります。これらを軸に、生活省をつくれないかというアイデアです。地方団体には、すでに、生活部とか県民部、市民局があります。
次回に続く。

業界振興から生活者保護へ

私は、役割変化の方向の一つが、業界振興から生活者保護への転換だと思います。これまでの追いつき型行政・発展途上国行政では、業界を保護することで、各分野を振興しました。これは、工業・農業といった産業だけでなく、建設、運輸、金融、教育、医療といった分野もです。需要側でなく供給側を育成すること。この方法は、発展途上時代には効率が良かったです。しかし、その目的は達しました。多くの分野で、国が支援しなくても、民間は自ら活躍しています。独り立ちできるのです。
逆に、業界保護と消費者保護がぶつかった場合、官庁が業界寄りで、問題を大きくしました。公害問題はその典型です。水俣病でも、被害者救済が遅れました。最近では、薬害エイズの時の厚生省薬務局、不良債権問題の時の大蔵省銀行局、BSE牛問題時の農林水産省畜産局で、この問題がよく見えました。生活者や消費者より業界の利益を優先したと、批判されたのです。
そして、薬務局は解体再編、銀行局は大蔵省から分離、食の安全については内閣府に食品安全委員会を設置(食糧庁を廃止)しました。そこには、業界の振興と消費者の利益保護の2つの行政を、分離しようとする意図があるのです。もっとも、金融庁は、その2つが一緒の役所になりました。しかし、銀行などに対する業務停止命令を、たびたび発するようになりました。

行政の役割変化

官僚の役割と評価」を連載したので、関連する行政の役割変化について、ここでまとめておきます。
これからの行政のあり方を考える際に、これまでの行政と使命や役割がどう違うか、を踏まえておくことは重要です。私は、明治以来、行政の使命は、欧米に追いつき追い越すことだったと考えています。そして、先輩たちはそれに成功しました。行政サービスや社会資本整備だけでなく、産業や文化、暮らしにおいても成功しました。しかし、追いついたこと・成功したことで、目標は達成しました。これが、「新地方自治入門」の主張でした。では、これからの行政の役割は何か。これが、今日のテーマです。