投稿者アーカイブ:岡本全勝

総理の指示書と閣僚の評価

2026年9月12日   岡本全勝

時事通信社「コメントライナー」への寄稿、第29回「所管のみ、目標なき役所」(7月10日配信)で、次のようなことを指摘しました。
「役所の各部局には、「任務と所管」は定められていても、「目標」は与えられていない。各省設置法や組織令には任務のほか、所掌事務が詳しく書かれていますが、その目標は書かれていない。何が課題なのかを考え、それら課題に優先順位をつけ、いつまでにどのように進めるのかを考える。そして、大臣や首長の了解を取って、部下を指揮して解決に導く。それが幹部の役割だ」

9月9日の日経新聞に「内閣改造、首相指示書が占う「高市人事」」が載っていました。「指示書」と聞いても、知らない人が多いでしょう。総理は内閣発足時に、各閣僚に何をしてほしいかを紙に書いて渡します。それが指示書です。
総理の政策の重点は、国会での所信表明演説や施政方針演説で示されますが、それを各大臣に示したものと言えるでしょう。各省からすると、各省設置法による任務(各省とも広範です)の中で、この内閣が何に力を入れるかが示されることになります。

内容には具体的なものとそうでないものが含まれているようです。しかし、このように項目として指示が出されると、どこまでそれを達成したかが評価できます。もっと知られてもよいことであり、そしてこれによって閣僚を評価するべきです。

ところで、この指示書は役所の文章としては、どのような位置づけにあるのでしょうか。各大臣からは、職員に対しどのようなかたちで指示が降りてきているのでしょうか。
また、これも秘密事項以外は国民にわかるように、総理官邸のホームページなどに載せればよいと思います(すでに載っていたらごめんなさい)。「高市早苗首相の18閣僚への指示書、全文明らかに」(2025年10月23日づけ日経新聞)

図書館の二つの形

2026年9月12日   岡本全勝

東大出版会の広報誌『UP』9月号、今橋映子・阿部賢一・邵丹・沼野充義さんの座談会「いまだに死ねない文学のために(AIニモ負ケズ)――比較、翻訳、世界」で、阿部さんが次のようなことを紹介しておられます。
「現代フランスの文学研究者ウィリアム・マルクスが、『心の中の図書館』で、「図書館には二つの形がある。一つは物理的な、目に見える具体的な図書館。もう一つは、非物理的な目に見えない、心の中の図書館です。後者は、一人一人の心の中にある、これまでの読書体験や人生の記憶が積み重なって形成された、独自の文学の蓄積です。」

なるほどと思います。
人工知能が、世界中から情報を集めてくれます。世界中の本もです。それと、各人の頭の中にある情報との違い、さらには人生との違いを表しているように思えます。

サヘル諸国講師

2026年9月11日   岡本全勝

今日9月11日は、国際協力機構の依頼で、「サヘル諸国・周辺国における地方行政能力強化による強靭な地域・社会形成」研修の講師に行ってきました。去年に引き続きで、もう4度目になります。好評のようです。
参加は、ブルキナファソ、ブルンジ、コートジボワール、モーリタニア、チャド、マリ、ニジェールから11人でした。9月日から広島市で研修を受け、東京に移動して、30日に帰国します。あいにくの天気で、富士山は見えなかったとのこと。

私の担当は、「日本の発展を支えた行政機構」です。この講義は最近しばしばやっています。それを踏まえ資料を加筆し、話す内容の重点も変えています。フランス語の通訳です。言葉より、写真や図が伝わりますね。
講義を繰り返しているうちに、日本の行政機構が機能したのは、社会にそれだけの素地があったからだと痛感しました。国民の資質と努力、社会の安定などです。公務員の汚職に悩んでいる国もあります。それらのよい条件がないと、いくら行政が頑張っても、効果が出ません。社会的共通資本のうち、関係資本や文化資本が重要なのです(「公共を創る」第256回)。そして社会の発展には、官共業のうち、共と業の貢献も必要です。

質問時間を30分取ったのですが、様々な質問が出て、20分延長しました。
講義の内容を理解してもらうことも重要ですが、日本を好きになってもらうこと、「我が国も日本のように発展しよう」と思っていただくことも重要です。

在宅勤務を見直す動き

2026年9月11日   岡本全勝

8月26日の朝日新聞に「在宅勤務、そろそろ見直す時期? 連携強化へ出社義務を増 働き方選択制、進捗確認は課題」が載っていました。在宅勤務は従業員にとって便利です。働き方の選択肢も広がります。しかし、職員の仕事ぶりをどのように管理するか。その点が重要ですが、むつかしいですね。

・・・新しい働き方として広がった在宅勤務(リモートワーク)を見直す機運が高まっている。出社と組み合わせた「ハイブリッド型」にする企業が目立つが、望ましい働き方への考えは人それぞれ。模索は続きそうだ。
日本生産性本部が企業や団体に勤める1100人を対象に7月に実施した調査によると、自宅など会社以外の場所で働く人の割合は14・5%だった。新型コロナウイルス下の2020年5月の調査開始時(31・5%)と比べて半減している。

在宅勤務を見直す代表格が、IT大手GMOインターネットグループだ。熊谷正寿代表が7月14日、自身のX(旧ツイッター)で、コロナ禍以降続けてきた在宅勤務について「グループとしての推奨は完全廃止」と投稿。コミュニケーションや教育などの面で在宅勤務は「トータルではマイナス」と主張した。しかし、時間あたりのパソコンのタイピング数などに言及したため、管理強化の印象を持たれ、反発が相次いだ。熊谷氏は1週間後にXで「在宅勤務という働き方そのものを否定するものではない」と軌道修正した。
従業員に出社義務を課していなかったLINEヤフーも25年4月、部門ごとに原則週1回か月1回の出社日を設けた。26年5月からは原則週3回の出社を求めている。出社回帰の利点について、日常的な会話を通じた社員どうしの連携や迅速な意思決定をあげる。一方、在宅勤務に慣れた従業員からは不満の声が上がる。ある社員は「急な会社の方針転換に社員の反発は相当大きかった。退職を決めた同僚もいた」と話す。
現状では在宅か出社かどちらか一方ではなく、組み合わせたハイブリッド型の企業が目立つ。

22年7月から出社義務をなくしたNTTグループは、従業員19万人中、経営企画や営業などの一般職5万3千人を対象に住む場所も自由にした。出社は出張扱いで、新幹線代も出る。単身赴任者は約1600人減った。必ず毎日在宅で働かねばならないという縛りはなく、平均で週2~3回出社する従業員は多い。
富士通は20年から、出社か在宅勤務かを選べる制度を導入した。現在の出社率は2割ほどだ。ワークスタイル戦略室の赤松光哉室長は「時間を有効に使えるようになり、意思決定のスピードも上がった」と語る。
だが、課題がないわけではない。赤松室長は出社と在宅勤務が混在することでチーム内の小さな変化に気づきにくくなる点を指摘する。業務の進捗確認や部下の状況把握など、中間管理職の負担は増えているという。
仕事とプライベートの境界があいまいになり、結果として長時間労働につながるおそれもある。在宅勤務者が多い情報通信産業の労働組合でつくる情報労連は24年の春闘から「つながらない権利」を掲げ、勤務時間外の連絡ルールの制定を企業に求めている。

在宅勤務が抱える課題は働き方そのものだけではない。佐藤博樹・東京大学名誉教授(人的資源管理)は在宅勤務の浸透にあわせた適切なマネジメントやルールがないことが問題とみる。
佐藤さんらによる管理職約1300人への調査で、「生産性が低下した」と答える人が多かった職場ほど、オンライン会議で参加者が顔を出さず、声だけで参加する傾向が強かった。参加方法について、会社や部門でルールを決めていない職場が45・8%と半数近くを占めていた。
佐藤さんは「ルールを決めないことで起きた生産性の問題を、働き方の問題と取り違えている面がある」と指摘する・・・

「停止は退歩を意味する」

2026年9月10日   岡本全勝

「停止は退歩を意味する」。野村證券の創業者、野村徳七さんの言葉だそうです。野村證券のサイト「創業の精神十カ条」の第5番目。
「常に一歩前進することを心がけよ。停止は退歩を意味する」

個人にとっても、企業にとっても、役所にとっても、当てはまる言葉です。
特に競争の激しい産業界では、停止していると他社が進み、相対的に退歩になります。そして衰退します。日本経済の長期停滞の原因の一つです。企業が「リストラ」などに力を入れ、他方で新しい事業への挑戦を怠りました。縮小思考、失敗を恐れる保身哲学は、新しいことへの挑戦をためらわせ、現状維持に傾きます。
役所も行政改革の言葉の下で、新しい課題に取り組むことが遅れました。