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日本男児の引っ込み思案

3月22日の朝日新聞オピニオン欄「秋入学は日本を救うか」、志賀俊之・日産自動車最高執行責任者の発言から。
・・就職内定者の懇談会で、私のテーブルに最初に集まってくるのは、外国籍の人か日本人の女性です。10秒でいいから自分をアピールしたい、と。一方、日本人男性の多くは隅っこの方で固まっています・・・
中国や韓国、インドの若者は「私はこういうことをやりたい。やらせてくれるのか」と迫ってきます。目標が明確で、達成のためには努力を惜しみません。新興国の勢いの源は、そこにあるのです・・

動き始めた特区制度

復興特区が、順次、認定され、産業の復興に向けた動きが出ています。
3月23日には、塩竃市での観光関連産業(遊覧船、釣り船、飲食店、宿泊施設など)振興、石巻市での駅前での商業集積(小売り、サービス業、飲食店、宿泊、介護業など)と、カントリーエレベーター整備について、税制や農地法の特例を認めました。
被害を受けた産業を復旧するだけでなく、復興に持っていこうとする試みです。被災地は、インフラの復旧だけでは、街は復興しません。各種サービスとともに、働く場、産業が必要なのです。
もっとも、産業の復興は、国や市町村が応援しますが、成功するかどうかは、参加する経営者さんたちのがんばりにかかっています。

努力と付加価値の違い

3月16日の朝日新聞「沼上幹の組織の読み筋」から。
半導体のDRAM製造で世界第3位のエルピーダメモリが、経営破綻したことを取り上げて。
・・つい1年前に1個2ドルだったパソコン用2ギガビットのDRAMが、昨年11月には70~80セントにまで低下した。円にすると60円くらいという感覚だろうか。
「最先端の技術を使っているのに、おにぎり半分の値段にしかならない」。エルピーダの坂本幸雄社長もこう嘆く。国内の最優秀層の人材を投入し、しかもその優秀な技術者たちが人一倍精力的に日夜知恵を絞って「付加価値」を生んできたつもりなのに、その血と汗と涙の行き着いた先が「おにぎり半分」なのである。このやるせなさを経験すると、「ハイテクになるほどもうからないのだ」とぼやきたくもなる。
しかし、当たり前のことだが、もうかるかどうかは、製品に盛り込まれた技術が高度か否かで決まるのではない。自社以外に、同等品を提供できる会社が何社あるかで決まっている。たとえ盛り込まれている技術が高度であっても、同じくらい高度な知識を製品に盛り込める会社が世界中に何社も存在するなら、残念ながら利益は手に入らない。
・・「付加価値」は、自分が努力した量に基づいて判断するものではなく、買い手の立場に立って自分がどれほど取り換えのきかない存在なのか、自分がいなくなったらどれほど周りが困るか、という観点から考えなければならない・・
冷酷ですが、その通りですね。行政組織も、いえ、私たちサラリーマン個人も、同じです。

過信による失敗

3月14日の朝日新聞オピニオン欄「がんばれソニー」、ピーター・バラカンさん(ラジオのディスクジョッキー)の発言から。
・・ソニーの衰退を決定的に示しているのが、インターネットの時代に、素早く対応できなかったことだと思います。アップルのスティーブ・ジョブズが、携帯デジタルプレーヤー「iPod」とネット音楽配信事業「iTunes」で、ネット時代の音楽の聴き方を提示して見せた。ソニーのウォークマンの市場を一気に奪いました。
一方、ソニーは90年代に発表したミニディスク(MD)の普及に成功しました。メディアの技術革新は進んだが、ネットへの対応がうまくいきませんでした・・自社で開発したMDを否定したくない、と思っていたのかもしれません・・
ネットと消費者指向への遅れは、日本の製造業に共通した病気です。「日本はものづくりに秀でている」という過信が招いたのではないかと思います。私の母国、英国は50~60年代に植民地が次々に独立し、70~80年代に大きく落ち込みました。ただの小さな島国になってしまったのに、まだ実力があると勘違いして没落しました。日本の製造業の現状が、かつての英国の姿に重なります・・

日本的経営の強み

先日22日の「弱み」に対して、今日は、日本的経営の「強み」を。3月19日の読売新聞「一家言」、小池和男法政大学名誉教授の発言から。
・・日本の貿易収支が赤字となり、「ものづくり大国」の将来に不安が持たれているが、私はそれほど心配していない。
高賃金の先進国の企業が海外に工場を移していくのは自然な流れで、イギリスなどの欧米企業は、海外直接投資を増やし、海外に工場を建設したりサービスを展開したりして、そこで稼いだお金を国内に環流している。日本も海外での稼ぎを国内に持ち込み、国内経済を支えていくしかない・・
工場が海外移転しても、現地に技能を伝える日本人は必要になるから、全ての工場や店舗が海外に移ることにはならない。むしろ外国人を指導できる日本人人材の需要は、これからますます増すだろう。
問題は日本企業が海外で他国企業に勝てるかどうかだが、日本企業には強みがある。「職場の中堅層」を生かす現場が、海外工場でも実現していることだ。日本企業には、非エリートの「庶民」からなる職場の中堅層が積極的に発言し、生産工程を改善したり、商品の形状を変更したりして、高品質を作り出していく伝統がある・・欧米企業は、日本企業ほど現地の「庶民」を活用できていない。
ただし、「発言できる」だけの技能のある中堅層を育てるには、長い時間が要る・・グローバル化が進んでも、現在の金融資本主義のように短期的収益に振り回されるのではなく、産業やサービスの長期低な発展を重視する経済社会の構築が求められる・・