投稿者アーカイブ:岡本全勝

連載「公共を創る」第214回

2025年2月27日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第214回「政府の役割の再定義ー成熟社会にふさわしい政策への大転換」が、発行されました。

政治家が行うべきですが十分になされていないことの一つとして、政策の大転換を取り上げています。
憲法が改正されていないことも、政策の大転換が十分に行われていないことの、一つの表れでしょう。日本国憲法は1946年に公布され、その後80年近く改正されたことがありません。世界の成文憲法の中で、改正されていないものとして最も古いものとなりました。第2次世界大戦が終わった45年から2022年までに、米国は6回、フランスは27回、ドイツは67回、中国は10回、韓国は9回の憲法改正(新憲法制定を含む)を行っています。
近年に改正された各国の憲法は、環境保護、情報公開、プライバシー保護などの新しい人権の規定を盛り込んでいます。日本も事情は同じと考えられますが、これらについて、憲法改正の動きは見られません。

他方で、条文をかなり強引に解釈している実態もあります。社会の変化に憲法が追い付いていないのです。憲法第89条は、「公の支配に属しない教育」への公金支出を禁じていますが、「公の支配に属さない」私立学校の国庫補助が続いています。
また、憲法第24条第1項では「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」すると定め
ています。これに関して、同性婚を認めていない民法などの規定は憲法違反だと訴訟が起こされ、多くの判決は違憲としています。しかし条文を読んでいると、無理があるような気がします。憲法制定時は同性婚を想定しておらず、「両性」と規定したのでしょう。

歴代内閣は政策課題への取り組みを怠っているのでなく、懸命に取り組み、新しい取り組みも次々と打ち出しています。では、なぜそれが効果を上げているようにみえないのでしょうか。どのように変えれば、政策の大転換が進むのでしょうか。そのためには、「課題と政策の整理」と「解決への取り組み手法」を明らかにし、それを評価し変えていくことが必要でした。内閣は、それを怠ってきたのではないかと考えられます。
各府省は、それぞれ多くの政策群を抱えています。それらを実行しつつ、首相の示す「重点」「転換」に取り組むことになります。官僚機構は、与えられた方向でそれぞれの分野での政策を考え、実施することは得意です。しかし、各組織間、各政策間での優先順位付けはできず、政策の大転換もできません。

近年の「官邸主導」も問題です。首相が取り組む重点を絞っていないこと、首相官邸の官僚が各省の活動に口を挟むことから、逆に各省の大臣と官僚がその政策分野においての優先順位の判断ができず、さらには政策を考えなくなっていま。官邸と各省との分担が明示されていない官邸主導は、弊害が多いのです。
首相には、重要課題に集中してほしいのです。首相がいかに忙しいか、首相に考える時間を確保することも首相秘書官の役割であることを、私の経験を交えて説明しました。

日本独自のメンタルクリニック

2025年2月27日   岡本全勝

東京大学出版会の宣伝誌『UP』2月号に、下山晴彦・東大名誉教授の「”変なタイトル”の本の出版と、その背景―「心理職」国家資格化の顛末」が載っています。心理職が、相応の評価と待遇を受けていないことを紹介しておられます。

・・・皆様は、1990年代以降、都市部を中心に「メンタルクリニック」(精神科や心療内科)が急増していることにお気づきだろうか。「メンタルクリニック」は和製英語であり、精神科診療所としては世界でも類を見ない形態の、日本独特の医療機関である。心身の不調から日常的な悩みまで「メンタル」を巡るさまざまな問題が持ち込まれ、診断や治療がなされ、患者はメンタルクリニックへの接近と離反を繰り返す。
米国では、心の悩みの相談に行く専門機関は、通常、専門の「サイコロジスト」である心理職のオフィスである。それに対して日本では、「生きづらさ」を抱えた人びとが、コンビニのように街角にある「メンタルクリニック」、つまり医療機関に吸い寄せられていく。そのような人びとの中には、薬物療法が必要でない「悩みごと」を持った人たちもいる。そのような人にも診断名がつき、「患者」となり、薬物療法がされることもある。「メンタルクリニック」に勤務する心理職は、”医師の指示の下で”そのような「患者」を担当になることが多い。

全てがそうというわけではないが、多くの「メンタルクリニック」では、「生きづらさ」や「悩みごと」を病気(疾患)として治療する「医療化」が起きている。これは、日々の生活の中で生じる苦悩や困り事といった個人的問題に対して誰が相談に乗るのか、つまりどのような職業が管轄するかといういわば"管轄権”の問題と関わっている。
19世紀半ばまでは聖職者が”管轄権”を有していたが、近代化とともに相談による需要が高まったことで聖職者に代わる職業が求められることなった。米国などの欧米諸国では、心理的苦悩の相談を担当する管轄権を有しているのが心理職である。それに対して日本ではそれが「メンタルクリニック」、つまり医療になっているということである。日本では、他国とことなり、苦悩についての相談までもが「医療職」が管轄権を持つようになっている・・・

ウクライナ政府幹部講義3

2025年2月26日   岡本全勝

今日2月26日は、ウクライナ政府幹部に講義をしてきました。国際協力機構(JICA)が、日本に呼んでいます。復興に向けた準備をするためです。今回で3回目です。「ウクライナ代表団への講義2

私の講義は、東日本大震災からの復興です。戦争で壊された町、また一時的に避難してから戻る町もあります。そこで、津波被災地と原発事故被災地の両方を説明しました。
言葉で伝えるより、写真がわかりやすいです。

マリナ・デニシウク地方・国土発展省次官をはじめ、13人の高官が参加してくださいました。マリナ次官が、次々と鋭い質問をされました。それに答えることで、理解が深まったと思います。

マイケル・サンデル教授「働く尊厳、取り戻すために」2

2025年2月26日   岡本全勝

マイケル・サンデル教授「働く尊厳、取り戻すために」」の続きです。

―ただバイデン政権は、学位のない人にも雇用を生むインフラへの投資など、ニューディール以来と言われる野心的プロジェクトを手がけたはずです。
「確かに新自由主義的路線から脱却しようとしたことは正しい。あまりにも長く放置された公共インフラへの投資やグリーン経済化で政府に積極的な役割を与え、独占禁止法を厳格に執行してハイテク企業への権力の集中に対抗しました。しかし、こうした投資は恩恵が行き渡るのに時間がかかり、彼は政治的利益を得られませんでした」

「新たな統治の哲学を示せなかったことも大きい。ニューディール時代、当時のルーズベルト大統領は公共投資や社会保障、労働組合の支援など多くのプログラムを手がけました。それがまったく新しい経済の姿なのだと国民にわかりやすく、感動的な言葉で語りました。だから今でも私たちはニューディールを覚えています」
「しかしバイデンは、自身の政策が象徴する大きな意味、つまり経済における政府の役割の転換について、説得力あるメッセージを打ち出せなかった。それがいかに労働の尊厳を取り戻すことにつながるかも説明できませんでした。彼の強みは議会との交渉にあり、レトリックにはたけていない大統領でした」

―私たちは「消費者」のアイデンティティーにとらわれすぎていた、と指摘しています。
「グローバル化は衣料品などの国外生産のコストを下げ、消費者としての米国人を助けました。しかし、その代償として生産者としての米国人に深刻な打撃を与え、中西部各州の工業都市は空洞化しました。こうした激戦州では今回、トランプが全勝しました。消費者としてのアイデンティティーに気をとられすぎた結果、生産者としての米国人を支える政策の重要性が軽視されたのです」

――人々を「生産者」としてとらえ直すことが大事だと。
「良質な雇用を維持するという意味で経済的に重要なだけでなく、労働の尊厳の観点からも、政治哲学上も大切です。自らを消費者とだけ考えていれば、単に安い商品を追い求めるだけになってしまう」
「しかし、自らを生産者と位置づけるとき、自分の仕事や育んでいる家族、奉仕する地域社会を通じて、私たちは共同体の『共通善』に貢献する役割を担っていると気づきます。それが国づくりにもつながるのならば、私たちは単なる消費者ではなく、政治的な発言権を持つ『市民』なのだと考えられるようになります。それは、政治的な無力感の克服にもつながるはずです」

社会の変化に追いつかない意識

2025年2月25日   岡本全勝

先日「増えた大卒、希望する職とのずれ」を紹介しました。ここ30年で高卒就職者は7割減ったのに対し、大卒就職者が4割近く増え、製造や建設などの現場が人手不足に苦しむ一方、事務職は求職者が求人を17万人上回っています。

2月18日の日経新聞夕刊、曽和利光さんの「就活のリアル」に「新卒の3年内離職率35%」が載っていました。
・・・大学の新卒入社の3年以内離職率は高まり、直近のデータでは約35%となっている。学生側が優位の売り手市場とあって、企業側のみならず、学生の側にも原因があると専門家は考えている。
大学の新卒入社(2021年)の34.9%が3年以内に離職していることが厚生労働省の調査でわかった。これは直近15年間で最大だ。企業は離職防止努力はしている。採用基準を精査し、面接担当者にトレーニングを施し、管理職にマネジメント力向上研修を実施している。しかし、残念ながら数値が改善される様子はない。

ただ、離職の増加は企業だけのせいではない。学生の側が自分に合う会社を見誤っているという側面もある。自己分析や企業研究が曖昧であれば、「なんとなく」合っていると思う会社を受け、深い吟味をせず入社する。当然ミスマッチとなりやすい。売り手市場で内定が取りやすいので、そんなことも起こりうる・・・

詳しくは記事を読んでいただくとして。
多くの人が高卒で就職し、大卒が少なかった時代の意識が、まだ続いているのではないでしょうか。
そのような時代だと、大卒は「選ばれた社員」で、幹部候補として育てられました。しかし、大卒が増えると、増えた分は、それまで高卒の社員が従事していた仕事に就くことになります。みんながみんな、かつての大卒のようには出世できません。
また、農業や自営業が多かった時代は、企業、それも大企業に就職することは、憧れでした。そして、テレビなどでは現場の作業員ではなく、事務職がきれいな職場で働く姿が描かれます。会社も募集活動の際に、「うまくいった先輩」の例を示し、そうでなかった先輩の事例は説明しないでしょう。学生は、職場の実態を知らずに就職し、描いていた理想像と異なることに悩むのでしょう。
しかし、大卒の新卒入社の35%が3年以内に離職するとは、驚きです。

「高卒男子を囲い込む」政策の失敗」も、社会の変化に追いつかない意識の一例でしょう。「30年という時間、体感と社会の変化」で、この30年間の日本社会の変化は少なかったと書いたのですが、この点では違っています。