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物作り以外の日本の売り物

8月3日の読売新聞経済欄連載「コンビニ新時代」が、「日本流、アジアに拡張」と、日本のコンビニがアジアに進出していることを解説していました。セブン・イレブン、ファミリーマート、ローソンの大手3社で、アジアには4万店を展開し、さらに拡張しようとしています。
日本というブランド、日本流の丁寧なサービス、そして品揃えなどのノウハウが、強みなのでしょう。もっとも、記事では、他国企業との比較が載っていないので、どの程度日本が勝っているのか、わかりません。
日本は、これから国際競争において、何で勝ち抜くか。既に、電気製品や半導体などは、中国と韓国に追いつかれ、追い抜かれつつあります。40年前に、日本がアメリカや西欧各国の工業製品に追いつき勝ったことが、繰り返されています。
製造業では、諸外国のさらに先を行くこと。自動車や工作機械などは、これで勝ち残っています。これからも、頑張ってもらいたいです。例えば、伊丹敬之著『日本企業は何で食っていくのか』(2013年、日本経済新聞出版社)。
ところで、製品の競争というと、「安くて良い製品」で勝負しますが、そのような発想でなく、もう1つ次元を上乗せした「強み」があると思います。製造業の世界で同じ土俵(安くて良い)では、勝負しないのです。
それは、日本が持つブランド、安全と安心、ノウハウです。今回紹介したコンビニも、ものの輸出ではありません。ノウハウです。インドネシアなどで、ヤクルトレディが活躍していますが、これもノウハウでしょう。日本のミネラルウオーターが、中国やアジアに輸出されているとのこと。これは安全でしょう。
日本でも同等以上のモノを作ることができるのに、日本人があこがれる西洋のブランドもの。時計、鞄、ウイスキーなどなど。アメリカは、製造業の多くが空洞化しても、航空機産業などの先端的物作り、インターネットを使った商売、ハリウッド、医薬品などで、他国を寄せ付けない強さを作り続けています。製造業の分野で日本に負けた西欧各国が、生き残りをかけた道です。
安くて良い商品で競争するだけでなく、高くても買ってもらえるもの。それは、日本ブランド、安全と安心、ノウハウです。クール・ジャパンも、そうです。漫画、アニメなど。製造業が産業の核であることは違いないでしょうか、物作りだけが産業ではないのです。
私が指摘する以前に、識者は主張し、挑戦しておられると思いますが。

グローバル化と国家の役割

木村雅昭著『グローバリズムの歴史社会学ーフラット化しない世界』(2013年、ミネルヴァ書房)を、先週ようやく読み終えました。寝転がりながら読むには、ふさわしくない本と思いつつ。
(グローバル化は失業者も作る)
インターネットの急速な普及と、東西冷戦の終結に続いた金融・経済・産業の国際化(グローバル化)によって、情報、お金(金融)、モノ(製品)、産業(物作り)が、国境をものともせず行き来することになりました。国際化とかフラット化と呼ばれています。しかし、それが国民みんなを豊かにし、幸せにするか。どうやら、そうではないようです。成長を続ける国や産業と、そうでない国や産業とに分化しています。国民にあっても、それを利用して豊かになる一部の人と、他方で失業したりより貧しくなる人に分かれます。
(急速な変化に対応できない。格差を拡大する)
情報、カネ、モノが国境を越えるとき、地域の産業や人が、世界規模の市場経済と直接対面することは、大企業や一部のエリートを除いて困難なことです。それは、これまでの国内経済にあっても同様です。全ての地場産業が、国内市場と向き合っていたのではありません。大手の取引先を通じて国内市場とつきあい、あるいは地域経済の中で頑張っていたのです。突然、「国際市場で競争せよ」と言われても、無理です。アマゾンで、世界中から品物を輸入できることは、消費者にとっては便利ですが、地元の本屋や商店を寂れさせます。
一方に冷徹な経済合理性の市場があり、他方で生身の人間の暮らしがあります。地域の産業や人は、そう簡単に海外に移住することは、できないのです。また、労働者はそう簡単に転職できません。農家も、すぐには栽培する作物を、変えることはできません。
国際競争に負ける地場産業、それによる大量の失業者、国内での好調な産業・地域とそうでない産業・地域、貧富の格差の拡大・・。世界各国で生じている事態です。
この項、続く

法学部を重用する会社と社会

朝日新聞8月4日、「日曜に想う」山中季広記者の「強さ・速さ・美しさ、囲碁が映す三国志」から。かつて日本が圧倒的に強かった囲碁が、今や中国、韓国、台湾に追い抜かれたことを紹介した後に、次のように書かれています。
・・わずか四半世紀ほどの間に、勢力が日韓中→韓日中→中韓日と移ったわけだが、この興亡順は多くの産業でも見られた。とりわけ製鉄や半導体など、日本がかつて優位を誇った業種が、同じ経過をたどっている。
たとえば造船業界をみると、日本は50年代半ばから完工トン数で世界一を保った。後発国に技術を教える立場だったが、その韓国が2000年に日本を抜く。11年後、中国国営企業群が韓国から首位を奪いとる。
「囲碁も造船も同じ。日本が100年以上かけて築いた高みを、韓国は20年ではい上がる。中国はわずか10年で抜き去るのです」と話すのは、海外職業訓練協会アドバイザーの小川真一さん(67)。造船マンで、工業技術の海外転職に詳しい。囲碁ファンでもある。
ソウルやロンドンに駐在した経験から、痛感したことが一つあると言う。「中韓に比べると、日本は理工学部卒のエンジニアを大切にしない。会社でも政治でも、日本は法学部卒を重用しすぎる。ものづくり業界が学生に不人気なままでは、政財界の中枢にエンジニアが多い中韓に対抗できません」
言われて、法学部卒の私は答えに窮したが、日韓中→中韓日の荒波をかぶった世代ならではの気迫を感じた・・
私も法学部卒ですが、思い当たる節があるので紹介します。

立ち止まって考える

また、あっという間に1週間が終わり、7月も終わって、今日は8月3日。毎日、昼も夜も忙しく、仕事も進んでいるのですが。立ち止まって振り返ると、「はて、今月は何をしたっけ」と、直ちには成果が頭に浮かびません。
私は、しばしば部下に、「長い説明は不要なので、3つだけ言ってくれ」と、要点だけを求めます。他人にはそれを求めておきながら、我が身を振り返ると、整理できていません。
さらに、部下には、「3か月、6か月、1年という期間で、仕事の計画を立て、成果を計ってくれ」と言っているのに・・。
今日は土曜日。職場でゆっくりと、たまった書類の片付けをしつつ、手帳を見ながら、1か月を振り返りました。ところが、毎日の仕事をいくら細かく見ても、1か月間の成果は出てきません。手帳では、1か月や半年の仕事について、計画を立て、結果を評価することはできないのです。
拙著『新地方自治入門-行政の現在と未来』で、フランスの歴史学者フェルナン・ブローデルの考えを借りて、私たちの生活時間を、「短い時間」「中くらいの時間」「長い時間」の3つの次元で考えるべきだと、述べました(p254)。毎日忙しくしている仕事と、1か月で行った主な仕事と、半年間の成果は、別の次元・別の種類のものなのです。
復興庁では、7月は、2日に官邸で復興推進会議を開きました。その場で、与党から追加提言をもらい、他方で「新しい東北の創造」の方針を説明しました。今月は、この2つの課題を進めました
住宅やインフラの復旧は、着実に進んでいます。担当班が、工程表を見直してくれました。29日には、総理に、石巻市で完成し入居したばかりの住宅を見てもらいました。
とは言いつつ、復旧は被災現場で行われ、それぞれの課題については各参事官ががんばってくれています。私の仕事は、彼らの相談に乗ることと、全体の段取りを考えることです。「これだけのことを達成した」とは、言いにくい職務です。
庁内では、霞ヶ関での人事異動とともに、たくさんの職員の異動がありました。新しく来た職員には、オリエンテーションが必要です。また、昨今のソーシャルメディアの利用方法や情報管理については、全職員に注意喚起や研修も必要です。復興庁は出先を入れて450人の組織ですが、組織となると、このような「職員管理」も必要になります。
他方で、各省の幹部の知人が、おおぜい退職し、挨拶に来てくださいました。寂しいことです。

夜の残業から早朝勤務への転換

2日の日経新聞が、伊藤忠商事が、社員の労働時間を朝方にシフトさせ、残業を減らすための賃金制度を導入すると、伝えていました。時間外手当の割増率を、夕方以降の残業より、早朝勤務の方が高くなるように、見なおすのだそうです。
公務員もそうですが、夜に残業したら残業手当が付くのですが(管理職はつきません)、早朝に時間外勤務をしても、手当は付きません。伊藤忠の新しい制度は、よい試みですね。さらに、夜10時以降の深夜残業を禁止し、完全消灯するのだそうです。
課題は、社員が自宅に仕事を持ち帰る「サービス残業」への対応だとも、書かれています。
霞が関の公務員の場合は、仕事量の多さの他に、国会待機という「退庁できない仕組み(慣習)」があるので、これが大きな課題です。