投稿者アーカイブ:岡本全勝

連載を振り返って1

2017年11月8日   岡本全勝

「私の目指したもの」
連載「明るい公務員講座・中級編」を書き終えて、ほっとしています。2年間も続けたのです。執筆を振り返って、思っていることを書いておきます。

この連載の趣旨は、「後輩たちに同じ悩みをさせず、楽をしてよい仕事をしてもらう」です。

「先輩のやっていることをみて覚えよ」「体験して身につけよ」というのが、これまでの多くの職場の流儀でした。私も公務員になった駆け出しの頃、そして課長になったとき、それぞれの場面で「新人」でした。体験して悩み、失敗を重ね、先輩に教えてもらって身につけました。
そしてたどり着いた結論は、「みんな同じようなことに悩んでいる」ということでした。そこで、後輩たちが、無駄な悩みや苦労をしなくて済むように、私が経験で得たコツを活字にしたのです。

経験者から見ると、初心者はつまらないことで悩んでいます。すると、新人には、「私も経験して覚えたんだから、あなたも経験して覚えなさい」と言うより、「この本を読んで勉強してね。分からないところがあったら聞いてね」と言う方が、効率的です。
ところが、案外このような教科書はないのです。ビジネス書はたくさんあるのですが、処世訓やビジネススキルであって、「仕事の基礎の教科書」はないのです。

私の目指したものは、次のようなことでした。
1 職場で仕事をする上での基礎知識を伝える。
2 知識の羅列でなく、体系化する。
3 わかりやすい読み物とする。
4 抽象論でなく、私の体験に基づいた、実例を入れた実践的なものとする。
次回以降、順次説明しましょう。

日本人は優秀だ?

2017年11月7日   岡本全勝

11月7日の朝日新聞経済面「波聞風問」は、堀篭俊材記者の「不正続く製造業 経営も現場で5回の「なぜ」を」でした。
日本を代表する世界的製造業で、不正が相次いでいます。法令や社内基準を満たしていない製品を出荷していました。さらに、ことが発覚して、社長がおわびの会見をしてからも、不正を続けていました。
現場の監督者も本社の幹部も不正を知っていた(らしい)のに、社内調査では「ない」と報告していたことも。結果として、社長に恥をかかせたのです。
何度も不祥事でおわびをした経験者から見ても、まずい対応ですね。

さらに、「日本の××は、優秀だ」という通説は、疑ってかかる方がよいかもしれません。残念なことですが。
かつては、官僚や銀行、電機メーカーをはじめとする経済界が、このような評価をもらっていました。でも、そうでないことが、次々と分かってきました。

小坂井敏晶さん、フランス大学事情など

2017年11月7日   岡本全勝

小坂井敏晶著『答えのない世界を生きる』(2017年、祥伝社)が、興味深かったです。
著者は、パリ在住の社会心理学者です。ホッケーをするために早稲田大学に入りますが、日本代表選手になれません。アルジェリアで日仏技術通訳などをして、フランスへ。カーン大学、社会科学高等研究院で学んだ後、リール第三大学准教授を経て、パリ第8大学心理学部准教授になります。
このように、「通常の」研究者の道を歩まず、フランスの大学で教員になります。この半生が興味深いです。やっている研究も、社会心理学の主流ではないと、本人が言っておられます。

この本は、著者の半生記と、彼が「自分の頭で考えた」学問についてが載っています。面白いです。
かつて、『責任という虚構』(2008年、東大出版会)を本屋で見つけて買ったのですが、読まずに本棚にあります。『社会心理学講義:〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉』(2013年、筑摩選書) も面白そうだなと思いつつ、読まないだろうと買いませんでした。
しかし、『答えのない世界を生きる』を読んだので、買って読み始めました。多分、この本を読まなかったら、『社会心理学講義』は途中で投げ出したでしょう。

中根千枝著『タテ社会の力学』

2017年11月6日   岡本全勝

先日の『タテ社会の人間関係』の続きです。集団の分析としては、『タテ社会の力学』の方が、より詳しい分析をしています。詳しくは読んでいただくとして。今日は「鋭い指摘だなあ」と苦笑した文章を紹介します。

・・・実際、日本社会では、相当地位が高かったり、有名な人々の中にも、相手が誰であろうと得意になって一座の話題を独占してしゃべりつづける社交性を欠いた人々が少なくない。また、うちとけた席では、その中で相対的に地位も低く、年齢も若い人が自己中心的な話に終始したりする。そのいずれの場合も、話者が、その場を小集団的集まりと認識することからくる現象と思われる。つまり、自己中心の振る舞いが許される環境に自己がおかれていると思っているわけである・・・p94。

・・・事実、集まりでよくしゃべる人の話には、いかに自己中心の話題が多いかは驚くほどである。日本人の自己顕示欲というのは、こうした場においては、他に類例をみないほどである。相手がいかなることに興味を持っているか、自分の話に興味があるかないかなどということは、ほとんど考慮に入らない。往々にして、その集まりにおける自分の役割さえも忘れている。まさにお酒に酔ってしまっているのに似た現象である。もちろん、お酒が入れば、この傾向は倍加することはいうまでもない・・・p95。

・・・自己中心的な話というのは、記述的要素が多く、その人の感情の流れに沿ったもので、反論しにくいものであるために、きく方も知的な刺激を受けることも少ない。したがって、ただ物語をきくということになる。ときどき合いの手を入れるくらいである・・・
・・・これでは、反論を楽しむなどという、同席している全員が参加しうる知的な議論の遊びはとうていもちえないことになる・・・(この引用は順番を変えてあります)p96。

私も、決して他人のことを批判できません(反省)。自分のことを棚に上げて、これは、常々感じていたことです。
私は自治省に採用されましたが、自治体への出向と内閣府への出向のほか、省庁改革本部や復興庁、総理官邸などで、他の省庁の職員と仕事をする機会が多かったのです。その際に、自治省で「身内」と話すことと、ヨソ者の中で話すことの違いを感じました。
前者はお気楽です。何を言っても許してもらえると、思っています。後者は、そうはいきません。
もっとも、これは公務員仲間ですから、社会から見ると「同じムラ社会」ですが。政治家や民間人、マスコミの人と話す際には、もっと意識します。その際の会話は「真剣勝負」で、気を遣います。その一端は、「明るい公務員講座」でも紹介しました。

少し視点を広げると、1つの会社に勤め続けることは、ムラ社会で暮らすことにつながります。これが、視野を狭めることになります。ぬるま湯と同じで気持ちはよいのですが、内向き志向(思考)では改革が遅れます。経営者たちが、その欠点を指摘しています。「純粋培養の時代は終わった」などで、紹介しました。

秘書官たちの権力争い

2017年11月6日   岡本全勝

10月31日日経新聞オピニオン欄、アド・マチダ氏(トランプ大統領の元政権移行チーム政策立案責任者)の発言に、興味深いことが含まれていました。ホワイトハウスの中枢幹部の混乱についてです。

「プリーバス氏が首席補佐官だった時は(イバンカ、クシュナー両氏を)警戒していた。そんな状態では困る。だから国土安全保障長官だったケリー氏を後任の首席補佐官に起用し、まず大統領執務室へいつでも予約なしに入れる『ウォーク・イン・ライツ(大統領との自由な面会権限)』を持つ人をなくした」
「普通は6、7人だがプリーバス氏の時は35人もいた。これではトランプ氏が仕事をできない。執務室へのウォーク・イン・ライツを持つ人をゼロにすることについて、イバンカ氏もクシュナー氏も了解してくれた。彼らも政策について大統領と話す時には事前の予約が必要になった」

アメリカ大統領だけでなく、総理大臣にしろ会社の社長にしろ、権力者を支えるスタッフをどのように管理するかは、とても重要かつ難しい課題です。
補佐官や秘書官、大臣や部局長、副社長や部長の間で、権力者に仕える競争(権力者を取り込む競争)が始まります。
権力者が、部下たちの状況を把握しておれば、部下たちの間に優先順位をつけます。ところが、個室に入った権力者には、すべての情報が過不足なく入ることはありません。個室からは外が見えず、入ってくる人と情報が限られるのです。部下からすると、権力者に近づくことができる権限が、重要になってきます。

本来、抱えている課題の重要度合と、権力者が取り組みたい順で、優先すべき課題が決まります。そして、それを担当している部下が執務室に呼び込まれる順番が決まるべきです。しかしそれは、自動的にあるいは計算すれば出てくるものではありません。
外交と内政、経済と福祉、誰と面会するかや、あすの晩飯はどこで何を食べるかまで、どれを優先し限られた持ち時間をどれに割くか。数学で解ける問題ではありません。

秘書官たちあるいは補佐官や取り巻きを含めて、直接権力者に会うことができる部下たちの間で、どのように序列ができるか。もちろん、権力者が指名して部下の序列を作るのですが、必ずしもそうなりません。
時間が経つと、補佐官たちに序列ができます。一つは、一番回数多くかつ長く権力者と会っている者が、第一人者になります。
もう一つは、権力者の執務室の扉のノブを握っている秘書官が、第一人者になります。それは、誰を執務室に入れるか入れないか(権力者に会わせる会わせないか)の決定権を握るからです。会社においても、副社長より秘書室長が権力を持つことがあるのです。

あわせて、権力者の日程を調整する者が、実権を握ります。仕事の優先順位は、あすの日程をどうするかに現れます。たくさんある課題の内、どれの説明を優先するか。たくさんある面会希望の内、誰を優先するのか。誰を会わせないのか。
ところが、権力者はとても忙しくて、あすの日程を自分で判断する時間はありません。仕事を効率的に処理する=あすの日程を作るには、権力者が信頼する筆頭秘書官が必要です。そして、彼が権力を持つことになります。

補佐官たちの権力争いとしてみると、このように分析できます。他方、権力者と筆頭秘書官からすると、これを認識した上で、補佐官たちを管理することや、日程を調整する必要があります。