朝日新聞オピニオン欄11月11日、ビクター・セベスチェンさん(ハンガリー生まれイギリス在住の作家)の「ベルリンの壁崩壊25年。新冷戦は幻だ」から。
ロシアは資源大国として影響力、発言力を強め、ウクライナの一部を併合して欧米と対立しています。これは「冷戦への逆戻り」「新冷戦」ではないのでしょうか、という問に対して。
・・冷戦と今とでは、全く状況が異なります。冷戦時代、私たちは常に、見かけにとどまらない真の脅威を、ソ連から直接受けていた。それは軍事力でも核戦力でもありません。私たちの人生観を変えかねない「共産主義」というイデオロギーでした。
いかに残忍な結果を生んだとはいえ、共産主義は宗教に匹敵する壮大な思想であり、資本主義とは全く異なる生活感覚、歴史観、世界観を提示しました。実際に、多くの人々の暮らす世の中をつかさどり、経済を運営していたのです。
一方、プーチン大統領が持ち込んだロシア・ナショナリズムには、何のイデオロギーもありません。ロシア人を多少満足させられても、ロシアの枠を超えることはないでしょう。共産主義はかつて、第三世界に解放の希望を与えた。プーチン主義は、それが主義と言えるかどうかはともかく、途上国にいかなる希望も与えません・・