安倍総理「気力がわかなくなった」

11月24日の朝日新聞「「安倍政治」の内幕に迫った 「宿命の子」著者、船橋洋一・元朝日新聞主筆に聞く」から。

――著書では、森友学園側に16年に国有地が8億円余り値引きして売られた問題も取り上げています。財務省での公文書改ざんや職員の自殺へと広がりました。

妻の昭恵氏が森友学園の名誉校長だったことをめぐり、安倍氏は昭恵氏から「どこが悪いの?」と言われ、口論となります。一方で、腹心の今井尚哉政務秘書官から昭恵氏の「道義的責任」を認めるよう求められ、反発します。政権の危機の瞬間でした。

――安倍氏の後援会が「桜を見る会」に参加する地元支援者らを対象に開いた前日の夕食会の費用を、安倍氏側が補填(ほてん)した問題もありました。首相辞任後に東京地検特捜部が政治資金規正法違反(不記載)の罪で秘書を略式起訴、安倍氏を不起訴とします。

安倍氏は弁護士や学者から告発された後、秘書を問い詰めて補填があったらしいと知ります。「もうファイトがわかない。答弁を修正する気力がわかない」と今井氏にもらします。「田中角栄もああなったし……」とロッキード事件で逮捕された田中元首相に自身を重ねていました。
安倍氏は事実と異なる国会答弁を繰り返していた。退陣後に衆院で謝罪しましたが、政治と政治家に対する国民の信頼を傷つけた責任からは免れられません。身内を信じて甘くなり、死角が生まれた。足元のガバナンス(統制)が弱かったと言えます。

藤田直央・編集委員の解説
・・・安倍政権を綿密に検証した船橋氏の著書には、政治記者の私が詰め切れないでいた多くの疑問への答えがあった。中でも驚いたのは、20年8月の唐突な首相辞意表明の裏に「政治とカネ」の問題があったことだ。
安倍氏は、桜を見る会の前日の夕食会について問題なしとの国会答弁を繰り返してきたが、違うとわかった。答弁訂正から逃れたい、東京地検に立件されるのでは――。歴代最長の計8年8カ月にわたり政権を担った政治家が、自らの脇の甘さからそこまで追い込まれていた。
事実を明らかにしないまま首相を辞め、秘書が立件されると初めて国会で謝罪した。自民党としての処分もなかった。後に裏金問題で露呈する自民党の政治資金管理のいい加減さや不透明さと通ずる・・・