11月7日の読売新聞に「高速船浸水隠し 安全二の次」が載っていました。
・・・JR九州の完全子会社「JR九州高速船」(福岡市)が、博多港―韓国・釜山港間を結ぶ旅客船「クイーンビートル」で浸水を隠蔽しながら3か月以上運航していた問題は、海上保安庁が10月に船舶安全法違反などの容疑で強制捜査に乗り出すなど波紋を広げている。背景には安全意識の著しい欠如と、親会社・JR九州のガバナンス(企業統治)の機能不全がある。同社は運航再開を目指すが、ハードルは高い。
なぜ浸水は隠されたのか――。JR九州高速船(社員約70人)が10月31日に国交省に提出した改善報告書に詳細が記された。
発端は2月12日。釜山港で船長が船首に約3リットルの浸水を確認した。報告を受けた運航管理者は「浸水量が少ないことなどから経過観察とし、関係機関へ報告は不要」と判断。安全統括管理者も「安全運航に支障はない」などと考えた。2人は船員経験が長い。
翌日、当時の田中渉社長(56)と両管理者、運航管理者代行の4人が打ち合わせをした。田中氏は両管理者から「(国に)報告すれば運航停止が必至」と聞き隠蔽を決めた。
船は1月にも浸水し、約2週間の運休後に再開したばかりだった。報告書は、田中氏の判断には予約のキャンセル対応で営業社員に再び相当の負担がかかるのを避けたいという思いもあったと記した。安全より会社の都合を優先した形だ。田中氏はJR九州の人事課長や長崎支社長などを経て2023年6月にJR九州高速船社長に就任。田中氏は今年8月13日に、両管理者は10月31日に解任された。
運航管理者は浸水が確認された翌日の2月13日、船長に外部に出さない裏管理簿に浸水量を記載するよう指示。量が増えた5月28日には運航管理者代行の指示で浸水警報センサーを上部にずらした。社長らも問題ないと判断した。
報告書によると、船長は疑義を持っても指示に従わざるを得ないと考えた。船員の多くも疑問を持っていた。2日後にはずらした警報センサーが鳴るほど浸水し、社長らは「営業運航不可」と判断。初めて浸水を把握したように国交省に虚偽報告をした。
航海士の養成経験が長い神戸大の若林伸和教授は「前代未聞で言語道断だ。航行中に亀裂が広がり浸水が急増すれば、沈没の恐れもあった。安全意識が欠如している」と非難する。14年に約300人が犠牲になった韓国のセウォル号沈没事故や、22年に26人が死亡・行方不明となった知床半島沖の観光船沈没事故に触れ、「根底にあるのは利益優先。甘い考えで悲惨な事故が起きてきた」と話す。
JR九州は16年に株式を上場。配当金支払い(昨年度は計146億円)など株主への利益還元の圧力にさらされていることが、問題の背景にあるのでは、との見方もある・・・