10月19日の朝日新聞夕刊、鎌田真光・東京大大学院・医学系研究科講師の「「仕事で座り過ぎ」はダメ?」から。
・・・産業構造の変化や機械化などに伴い、仕事中の体の活動量が減っていることは、多くの人が実感しているだろう。では、実際にどれくらい減ったのか。東京大学大学院の鎌田真光講師(運動疫学)らが調べたところ、過去70年間で少なくとも約1割低下したと推定されることがわかった。「人類の進化とのミスマッチが起こっています」。鎌田講師は、危機感を持つべき問題だと警鐘を鳴らす。
鎌田講師らは、総務省の労働力調査で329に区分された仕事の就業者数に、それぞれの仕事の活動強度を掛け合わせて、それらを合算。日本における職業上の活動強度の平均値を年ごとに出し、8月に研究結果を発表した。
活動強度は、米国の先行研究で全職業について算出された強度を用いた。例えば、引っ越し業に携わる荷役従事者は、かなり高い。農林漁業従事者や建設作業者、宅配業の配達員、介護職員、看護助手なども高い方に分類される。一方で、デスクワーク中心の管理職や事務、販売従事者は、活動強度が最も低い層だ。記者職も低い方に分けられる。
そうして算出した活動強度の平均値を、1953年から2022年まで年ごとに比較した。すると、職業分類方法に大きな変更がない1962年から2010年の48年間では、9・6%の低下がみられた・・・
・・・「例えばさらにさかのぼり、江戸時代と比べれば、身体活動の減り幅はもっと大きいはずです。そもそも、人類は高い強度の身体活動に適応するようデザインされ、進化してきました。人類進化生物学の研究によると、二足歩行が始まり、狩猟採集で食べ物を得た時代は1日平均、9キロ~15キロは歩いたと言われています。そうした長い期間でみると、時計の針をちょっと巻き戻した70年間だけで、1割も減った。急速に進む非活動化は、人類の進化とのミスマッチとみるべきなのです」
このミスマッチはどんどん広がる。例えば、厚生労働省は2000年に、10年間で1日の平均歩数を1千歩増やすことを目標とした。しかし、14年の調査では、平均歩数は約1千歩減少し、その後も減少傾向にある。
身体活動量の低下がこのまま進むと、どういったことが起こるのか。
「がんや循環器疾患、2型糖尿病など様々な疾患のリスクにつながります。デスクワークでずっと座っている働き方は体にとって自然でないととらえるべきです」
「座りっぱなしは筋肉の働きが抑えられ、代謝が低下し、血液の流れも悪くなります。そこで、立って仕事ができる高さのデスクの活用や、30分間に1回、軽いストレッチなど、仕事を中断して短時間でも身体を動かす時間をとることが推奨されます。それも個人に任せるのではなく、『それが当たり前』と会社を挙げて推進するくらい、積極的な採り入れ方が必要でしょう」・・・
・・・世界20カ国への調査では、日本人の平日の平均座位時間は1日7時間と最も長い結果が出たこともあり、日本は世界トップクラスの「座り過ぎ国」と指摘されるという・・・