首相を目指すには志と参謀が必要

8月20日の朝日新聞オピニオン欄「去る首相、逆風の自民は」、久米晃・元自民党事務局長の「志も参謀も欠き、不信拭えるか」から。

――岸田内閣の支持率が持ち直すことができなかったのはなぜですか。
「岸田さんは悪い人ではないです。しかし『諸課題に取り組んで結果を出す』と繰り返し言うばかりで、結果をまったく出していないと多くの国民は受け止めています。派閥の裏金問題でも中途半端なことしかやっていないので、政治不信が相当に高まりました」
「政治不信というのは、実は政治家不信なんです。政治というシステムへの不信ではなく、政治家に対する不信です。そもそも日本では、多くの人が政党に対して投票するのではなく、政治家という人間、個人に投票をするのです。岸田首相がしっかりと発信し、国民の不満や不安をしっかりと減らすような結果を出していれば、こうはならなかったわけです」

――政治不信の責任は岸田首相にあると。
「それが政治家たる首相の責任ですよ。この国でずっと投票率が下がっているのも、政治家に対する不信が続いている表れじゃないですか」

(総裁候補への心配について)
「岸田首相の次の総裁を目指す人とも実際に意見交換をしていますが、皆共通して自分を支える参謀たちが不在です。それが実は岸田政権にとっても最大の問題点でした」
「かつての自民党のリーダーには竹下登元首相を支えた『竹下派七奉行』だとか、安倍晋三元首相のお父さんの晋太郎さんを首相にしようとしていた『安倍派四天王』のような参謀のグループがありました。政策を練りあげるだけではなく、落としどころをさぐって政治の流れをつくる人もいました。いま岸田首相を含め、しっかりとした参謀グループを持っている政治家は残念ながらいません」

――政治家の質が変わっているのでしょうか。
問題となった裏金をもらうために集まっているような派閥ではなく、そのリーダーを首相にするために政治家が集まってくるような集団が派閥でした。また明治期や戦後、つい最近まで、どのような経歴を経て、何を実現させたくて政治を志したのかといった『個人の物語』を持った政治家がいました。世襲政治家が多いこともあり、国民に広く共感されるような物語をもった政治家はなかなか見つかりません」

――総裁選には期待できないでしょうか。
「まだ時間はあります。ただ、『選挙の顔』として一時的に衆院選で勝てるかどうかだけではなく、国民の不満や不安を取り除き、危機に対応できる政治家だということを訴えてほしいと思います。いま総裁選は事実上、内閣総理大臣を選ぶ選挙でもあるからです。南海トラフ地震などの自然災害、ウクライナでの戦争で浮き彫りになったこの国のさまざまな弱点や問題点、異次元の少子化など、国民の間にはもう長きにわたって不信や不安が積み重なっています。政治家にとって一番重要なことは、危機に対する対処をすることと、将来に対する展望を示すことです」
「総裁選で国民に『私ならこの問題に対してこうやります』ということを具体的に示してほしいのです。国民がそれに納得すれば、その人が自民党の総裁になり、首相になる。逆にそうした人が出てこないのであれば、自民党の再生はできないでしょう。そして野党を含め、政界の人材不足はとても深刻です」