7月8日の読売新聞解説欄「安倍氏銃撃1年 背景と教訓」、待鳥聡史・京大教授の発言から。
・・・安倍元首相は、外交・安全保障面で歴史的な足跡を残したと言える。
第2次安倍政権が発足した2012年12月以降、先進7か国(G7)など世界の主要国で、政治的に不安定になるケースが多くみられた。米国でもトランプ大統領(当時)が自国第一主義を掲げ、国際協調を軽視する方向に動いた。近年の米中対立やロシアによるウクライナ侵略などを踏まえても、安倍氏が一貫して自由主義に基づく国際秩序の重要性を世界に発信し続けた意義は大きかった。
15年に安全保障関連法を成立させたことも評価できる。集団的自衛権の限定行使が可能となり、日米同盟の強化につながった。日本は安保政策で国内の論理に引きずられて「一国主義的」な立場をとってきたが、国際的な常識と隔たりのある状況を解消することができた。
一方で、踏み込み不足が目立つ政策もあった。国政選挙のたびに「1億総活躍」や「全世代型社会保障」といったスローガンを打ち出した。ただ、小泉政権の「痛みを伴う構造改革」のような強いメッセージ性もなく、任期中に抜本的な改革は実現しなかった。
選挙を勝ち抜くために目新しさを重視した側面もあるのだろう。安倍氏は明確な「国家像」はあったが、結果として、日本の社会の中で個人がどういうふうにしたら幸せに暮らせるかといった「社会像」が不明瞭だった・・・