6月16日の朝日新聞、西沢和彦・日本総研主席研究員の「少子化対策、実態はばらまき」「財源、消費税中心に見直しを」から。
政府が13日閣議決定した「異次元の少子化対策」では、児童手当の拡充など幅広い支援策が並んだ一方、財源の詳細は年末に持ち越した。この分野に詳しい日本総研の西沢和彦・主席研究員に、財源のあるべき姿や、給付と負担からみる持続可能な社会保障について聞いた。
――政府が示した少子化対策をどうみますか。
「少子化対策の名を借りたばらまき政策で、出生率の上昇にはつながらないだろう。例えば、児童手当の拡充策はすでに生まれている子どもに対する政策で、出生率を上げるためには無意味だ。婚姻率を高め、子どもを産みたくなる環境づくりがより重要になる。財源もあいまいで、持続可能性がある制度なのか、疑問がある」
――社会保険料への上乗せが想定される「支援金制度」が検討されています。
「そもそも、社会保険は個人が病気や要介護などのリスクに備えるもので、少子化対策に使うには無理がある。そのうえ、社会保険は高齢者に比べて現役世代の負担が大きく、高齢者や高所得者を優遇することにつながる。例えば、厚生年金保険の場合、徴収対象は賃金に限定され、年金や資産所得は対象外。正義に反するやり方といえる」
「企業は負担が増え、賃上げの流れに水を差される。負担増を嫌って非正規雇用に切り替える動きがでれば、生活が不安定になって逆に少子化を促してしまうだろう。子育て世代にフレンドリーな政策ではない」
――なぜ、社会保険の給付抑制や負担増を打ち出せないのでしょうか。
「政治は、人口割合の大きな高齢者や業界団体の反発をおそれて、給付の抑制や診療報酬の引き下げなどを打ち出せない。社会保障の高齢者への給付が7割に迫るなか、給付の抑制を訴えることは、政治が道筋をつけるべき仕事だ」
――少子化対策の財源をどこに求めるべきですか。
「消費税を中心とした、税体系の見直しでまかなうべきだ。消費税は逆進性が目立つが、所得税の控除を組み合わせるなどして、低所得者の負担感を和らげることができる。税だと、高所得者や金融資産にも課税が可能で、社会保険料よりも公平な制度にできる」
――少子化対策はどうあるべきですか。
「税を中心とした支援にしたうえで、例えば、児童手当の拡充は、低所得者の貧困層対策に限定すれば、使い道の納得感が高まるのではないか。財政が厳しいなかでお金を効果的に使うために、誰に向けた政策なのかを明確にする必要がある。政策に効果があるのかどうかをきちんと検証する仕組みも重要だ」