サイバー戦、迫る危機

6月3日の朝日新聞オピニオン欄「サイバー戦、迫る危機」、 デービッド・サンガー記者(ニューヨーク・タイムズ)の発言から。

――コンピューターシステムに侵入し、破壊するサイバー兵器の出現によって、私たち人類はそれまでとは全く違う世界に生きていると訴えていますね。
「これまでの兵器とは全く異なる、世界を一変させうる兵器が出現し、実際に使用されているのに、核の時代が始まった頃のような基本戦略をめぐる議論が行われていません。サイバー兵器が世界をどう変え、どのような意味を持つのか、それをどう制御すればよいのかといった合意がないまま急速な軍拡が続いている状態です」

――核兵器の誕生が与えたようなインパクトがあると。
「核兵器が1945年8月に与えたようなインパクトです。安全保障の力学を根本的に変える可能性が高いですが、どれだけの変化をもたらすのか、すべてを見通すことができません」
「必ずしも明らかにされていませんが、私の取材では2012年には高度なサイバー攻撃が可能だった国は5カ国ほどでしたが、それから7年間で35カ国にまで急増しました。反体制派に対して使っている政府も多いです」

――具体的にはどんな事例があるのでしょう。
「もう10年以上にわたって報道していますが、米国のブッシュ(子)政権とオバマ政権は、大統領がイランの核関連施設へのサイバー攻撃を極秘に指示していました。何年もかけてUSBメモリーからイラン中部のナタンズにある地下核施設を制御するコンピューターに侵入し、遠心分離機を停止させました。米国はイランが核爆弾を持つことを防ぐため、デジタルの新しい『爆弾』をつくってしまったのです。この作戦がサイバー紛争時代の口火を切りました。すでに各国による何百件ものサイバー攻撃が行われています」

――日本の対応をどう見ていますか。
「政府の対応では、過去に驚いたことがありました。14年に日本のソニーの子会社(米国)が北朝鮮を題材にした映画の公開をめぐってサイバー攻撃を受け、数分間で7割のコンピューターが使えなくなりました。米ホワイトハウスでは、シチュエーションルーム(危機管理室)に当時のオバマ大統領をはじめとした高官が集まって、情報収集と北朝鮮に報復の制裁を発動するかなどを検討しました」
「私は安倍政権の関係者に、当時の官邸や政府でどのような会合を開いたのかを尋ねたのですが、担当者は『まったく開きませんでした』と答えました。ソニーは日本の企業なのに」