読売新聞ネット版10月11日、熊谷徹さんの「働き方改革、ドイツに学ぶべき点はここだ」から。
・・・OECDによると、ドイツの14年の労働生産性(労働時間あたりの国内総生産)は64.4ドルで、日本(41.3ドル)を約56%上回っている。
ドイツの労働生産性が日本を大幅に上回っている理由は、ドイツの労働時間の短さである。ドイツの例は、労働時間が短くても経済成長を維持し、社会保障システムによって富を再分配することが可能であることを示している。
ドイツは「時短」大国だ。OECDによると、14年のドイツでは、労働者1人あたりの年間平均労働時間が1371時間だった。
これは、OECD加盟国の中で最も短い。日本(1729時間)に比べて約21%も短い。日本よりも358時間、OECD平均よりも399時間、韓国よりも753時間短いことになる。
ドイツでは、1日10時間を超える労働は法律で禁止されている。労働条件を監視する役所が時折、労働時間の抜き打ち検査を行い、1日10時間を超える労働を組織的に行わせていた企業に対しては、最高1万5000ユーロ(約172万5000円)の罰金を科す。
企業は罰金を科された場合、長時間労働を行わせていた課の管理職にポケットマネーから罰金を払わせる。このため、管理職は繁忙期でも社員が10時間を超えて仕事をしないよう、細心の注意を行う。
ドイツ企業では、「短い時間内で大きな成果を上げる」社員が最も評価される。成果が出ないのに残業をする社員は、全く評価されない。
このためドイツでは、長時間労働による自殺や過労死、うつ病は日本ほど大きな社会問題になっていない・・・
・・・休暇の取り方も半端なものではない。ドイツ企業で働く人の大半は、毎年30日間の有給休暇を全て使う(企業は、法律によって最低24日間の有給休暇を社員に取らせるよう義務づけられているが、大半のドイツ企業は社員に30日間の有給休暇を与えている)。
管理職以外の社員が、2~3週間の休暇をまとめて取っても全く問題は起きない。休暇中に業務用のメールをチェックする義務もない。社員が交代で休みを取るので、ねたまれることもないし、休暇先でお土産を買ってきて同僚に配るといった気遣いも不要だ。
誰もが休暇を取るのは当然の権利だと理解しており、やましい気持ちは全くない。日曜日や祝日の労働は禁止されているほか、土曜日にオフィスで働く際には上司の許可が必要だ・・・
・・・企業文化や商売の慣習が異なるので、ドイツの制度をそのまま日本に当てはめることは難しい。ドイツでは物を売る側と買う側がほぼ対等の立場にある。日本のように「お客様は神様」として顧客を絶対視する意識はない。
したがって、顧客を満足させるために、長時間残業を行うようなことはない。ドイツでは効率性が極めて重視される。彼らが常に念頭に置くのは「サービスを行うことのコストと収益性」である。
1日10時間以内に仕事を終えなくてはならないので、時間と労力ばかりかかって見返りが少ないと思われるような業務は、初めから手をつけない・・・(2016年10月19日)