朝日新聞10月7日、佐伯啓思・京大名誉教授の「保守とは何か 奇っ怪、米重視で色分け」から。
・・・そもそも「保守」とは何か。今日の日本では、「保守」が政治的権力を掌握し、これに対して、「リベラル」がその対抗勢力であるかのように語られる。しかし、もともとは、「保守」の側が抵抗勢力であった。
フランス革命が生み出した自由、平等、人権などの普遍性を唱え、それを政治的に実現すべく市民革命によって権力を掌握した革命派がリベラル(左翼)であり、それに抵抗して、伝統的社会秩序や伝統的価値観を重視したのが保守である。
イギリスの政治家であったエドマンド・バークが保守思想の父と呼ばれるのは、彼が、フランス革命が掲げた革命的な社会変革や人権などの抽象的理念の普遍性を批判したからである。改革は漸進的で、その社会の歴史的構造に即したものでなければならない、と彼は述べた。なぜならば、人間は既存の権威を全面的に否定して、白紙の上にまったく新しい秩序をうみだすことなどできないからである。人間の理性的能力には限界がある。それを補うものは、歴史のなかで作り上げられた慣習的秩序や伝統の尊重である、という。これが本来の保守であり、今でもイギリスに強く根を張っている。
ところが、近代社会は、系譜的にいえば、フランス革命の革命派の流れの上に成立した。つまり、自由、平等、民主主義、人権主義などの普遍性こそが近代社会の基本理念になってしまった。これをリベラルというなら、近代社会はリベラルな価値によって組み立てられている。「保守」はいわばリベラルの暴走をいさめる役割を与えられたのだ・・・
この項続く。(2016年10月13日)