1日の朝日新聞連載「検証構造改革」は、辻陽明記者の「地方分権かけ声倒れ、ムダ生む構造なお温存」でした。
補助金削減といっても、国の権限を残したまま補助率を引き下げたりで、自治体の裁量範囲はほとんど広がらなかった。地方への負担の押しつけもあった。
所得税が3兆円税源移譲されたが、交付税率を変えなかったので、交付税は1兆円削減となっている。補助金削減4兆円と税源移譲3兆円との差額1兆円と併せ、地方は2兆円損をした、との解説です。
「歴代政権が手を付けなかった難題に数値目標を設けて挑もうとした首相に、地方自治体は当初、期待した。だが、最終局面で詳細な設計を官僚任せにした改革は、不発に終わったと言ってもいい」と厳しい評価がされています。こう言われても仕方がない部分もありますが、3兆円の税源移譲は評価して欲しいですね。どうでしょうか、辻さん。
6月7日の経済財政諮問会議。地方6団体の代表からの意見聴取後、改革を振り返った小泉首相の発言は、敗北宣言とも受け取れるものだった。「地方が自由にできることをやってあげないといけないが、全部の府省が抵抗している」との記述もあります。重い発言ですね。
東京新聞1日の社説は、「地方分権、流れを止めてはならぬ」でした。(8月1日)
4日の産経新聞は、「ポスト小泉、三位一体改革どう継承」を書いていました。「破綻への道?新型交付税、危ぶむ地方」「参院選で一人区反乱?おびえる自民」です。(8月4日)
(今後の進め方)
三位一体改革の今後の進め方を、学陽書房の本(9月刊行予定)に書きました。詳しくはそれを読んでもらうとして、ここでは少し違った角度から、政治学的に分析してみましょう。
三位一体改革には、二つの意図がありました。「財政の分権」と、「財政の再建」です。この二つは、全く方向の違ったものですから、別々に考える必要があります。そして、それぞれ、「主たる担い手」「内容」「手続き」を考える必要があります。
1 担い手
まず、担い手です。分権は、国(各省)は反対です。総務省の力だけでは、無理でしょう。進めるとしたら、地方から働きかけるしかありません。
再建は、地方も担う必要があります。しかし、交付税と地方歳出削減によって国の歳出削減を進めようとするなら、国が地方に働きかける必要があります。
2 内容
次に、実現を目指す内容、すなわち相手方に提案する内容です。
(分権ー具体リスト)
分権にあっては、廃止する補助金リストと金額、移譲してもらう税源の税目と金額を、地方から提示しなければ進みません。もちろん、このような補助金廃止・税源移譲といった財源の分権でなく、規制の緩和を当面の目標にすることも考えられます。その場合は、どのような項目について規制を廃止・緩和してもらいたいのか、そのリストを提示する必要があるでしょう。いずれにしても、具体的項目を提示しないと、議論は進みません。
(再建ー国が率先して行革)
再建にあっては、国と地方を含めた、歳出削減項目と金額(削減割合)を、国が提示すべきでしょう。この点、「骨太の方針2006」では歳出歳入一体改革を示し、2011年までに必要な対応額(歳出削減か、さもなくば増税)を示しました。今後、それぞれの歳出項目で、具体化されるでしょう。
その際に、「地方歳出を削減せよ」と言っても、地方団体は納得しません。地方団体は、国以上に職員数削減や給与カットをし、国がやっていない配置転換や出先の統廃合もしています。「国は地方を見習って、もっとやったらどうですか」という首長も多いです。全体的には、「国と同一歩調で進めます」がせいぜいのところでしょう。国は「国はこれだけも削減したから、地方もつきあってくれ」と範を示すべきだと思います。
3 手続き
(分権ー政治主導)
分権については、地方団体は意見書「七つの項目」を内閣と国会に提出しました。今のところ、はかばかしい回答ではないようです。その中で、「新分権推進法」が具体化に入っています。これがどのようなものになるか。もっとも、力学的には、総務省をのぞく全霞ヶ関が反対ですから、通常の法案作成手順では実のある内容は期待できません。三位一体改革は、官僚をパスし、政治主導で進んだのです。どのような政治主導が発揮されるか、そのような道筋をつけるかが課題でしょう。
(再建ー信頼と参加)
再建については、地方団体をどれだけその気にさせるかです。もちろん、地方団体の意向を無視して進めることも可能でしょうが、長期的に見て良い手法とは考えられません。政治的には愚策です。一回は強引に進めることができても、次が進みません。相手が喜んで取り組むことは無理としても、「信頼関係」の上に進める方が上策です。
その際には、内容以上に手続きが重要です。簡単に言えば、「発言と責任」です。歳出削減と増税は、誰だっていやなことです。どんな内容であっても、反対者がでるでしょう。その際には、その決定過程に地方団体にも参加してもらうのです。
内容に不満があっても、手続きに参加したら、人間は納得します。内容による正統化以上に、手続きによる正統化が重要だと思います。これは、民主主義の基本であり、負担の配分の際の王道です。「代表なくして課税なし」です。具体的には、「国と地方の場」の格上げでしょう。(8月24日)
昨日、今後の進め方を書きました。その続きで、分権推進法について書きます。平成7年に分権推進法が定められ、その一部は第一次分権改革として成就しました。今回、新分権推進法を定めるとすると、どのような点がポイントとなるかです。
私は、旧分権法の功績は、分権の理念を法律に定めることで分権を国家の政策と定めたこと=動かなかった分権を動かしたこと、そして推進委員会で基本計画を定め機関委任事務を廃止したことだと思います。では、これと比べると、新分権法はどうか。
分権の理念は、その後分権が進んだこともあり、共有されています。事態は進展して、理念から実行の段階を進んでいます。地方六団体は、「7つの提言」をまとめ、国に意見書として出しました。この項目を、どれから順に、どの程度実現するかが問題となっています。
次に、第三者機関=審議会方式です。第一次分権はこの方式で成功したのですが、その後継機関である地方分権改革推進会議は、失敗でした。三位一体改革の過程で見えたのは、官僚に任せては進まない、第三者機関でも進まない、責任ある政治家が決断しないと進まないと言うことでした。
新法をつくるには、旧法のうち何が残されているのか、項目を洗い直すことと、どのような手法をとったら進むのかを検討すること、この二つが重要になると思います。(8月26日)
19年度地方財政計画の試算が発表されました。現時点での見通しです。骨太の方針に則り、いくつかの推計を置いた数字です。うーん、これが総務省の地方財政のHPからは、たどり着かないのですよね。(8月31日)
「自己責任を問うのならば、やるべきことがある。 まずは自治体に権限や税源をもっと移し、自立できる基盤をつくることだ。それなしに責任だけ求めるのでは筋が通らない。分権を進めつつ、自立に見合った責任を問う破綻(はたん)処理策をつくってゆく手順が欠かせない。 自治体の場合、破綻したからといって日々の行政サービスを止めるわけにはいかない。会社更生法のような再生型の制度にするのは当たり前だ」 (9月1日)
持田信樹先生編の「地方分権と財政調整制度-改革の国際的潮流」(東大出版会)が出版されました。財政調整制度改革の動きが先進国共通の潮流であり、交付税改革もその中で位置づけるべきだという考えから、編まれた論文集です。10か国との比較と、それを踏まえた地方交付税のあり方が論じられています。
日本の交付税改革では、国の歳出削減のための改革論や、事務の義務づけを無視した人口面積での配分を論じる人がいます。私は「諸外国を学べ」という主義者ではありません。しかし、世界的な、21世紀の福祉国家、新自由主義主潮の中に交付税を位置づけ、相対化して考えるのは良いことだと思います。そうすることによって、単純に歳出削減のために交付税を改革するという主張がおかしいこと、逆に交付税を「死守する」という発想もおかしいことがわかると思います。
私も、少しだけお手伝いをしました。ご関心ある方は、お読みください。(9月3日)