(地方交付税という言葉)
財政再建議論で、「地方交付税」がよく出てきます。何か複雑だという印象で、分かりにくいものだというラベルが貼られています。そんなに難しいものではないのですが。もう一つ、これらの議論が混乱するのは、「地方交付税」という言葉を、いくつもの意味に使うからです。
①地方財政計画の仕組みを指して使われる場合
「交付税は、地方団体の財源不足を補う仕組みである」と言われる場合は、交付税とは「地方財政計画」と、計画による財源保障を指しているようです。地方財政計画によって、地方団体全体(マクロ)の収支が合うかどうかを判定し、不足するときは主に交付税で穴埋めします。
すなわち、この場合は、地方財政計画による、地方団体全体の財源保障の仕組みを指しています。
「地方の歳出が多いので、あるいはムダがあるので交付税を減らすべきである」と言われる場合も、この意味だと思います。
②各地方団体へ配分する仕組みを指す場合
これは、地方交付税の算定を指して言う場合です。この場合は、個別団体に対する財源保障の仕組みを指しています。「算定方法が複雑だ」とか、「不交付団体が少ない」と言う場合は、これを指しているようです。
③地方交付税総額を指す場合
上の2つが、仕組みを指しているのに対し、金額を意味する場ありもあります。
まず、総額を指す場合があります。この場合にも、二通りあります。一つは、国の一般会計歳出に計上される金額。もう一つは、地方団体が受け取る総額です。国の特別会計で加算する場合があるので、二通りの数字があります。
なお、このほかに、国税5税の一定割合が、最も狭義の交付税総額です。この金額に特例が加算され、前者の総額になります。最も広い意味では、交付税の身代わりである臨時財政特例債を含めて、交付税総額と言う場合があります。
④各団体への交付額を指す場合
これは、各団体が受け取る額です。
⑤財政需要額を指す場合
交付税を計算する場合は、全団体の場合も各団体の場合も、地方団体が必要とする額(基準財政需要額)を決め、そこから入るであろう税収など(基準財政収入額)を差し引いて、交付税必要額を算出します。しかし、この場合の財政需要額を、交付税という場合があります。「交付税措置がある」というのは、これです。
この場合、ある事業に交付税措置があっても、不交付団体は交付税が配分されません。
また、「地方債に交付税措置がある」という場合は、マクロでは地方財政計画歳入に計上された地方債は、その元利償還金が後年度に地方財政計画歳出に計上されます。その意味で、交付税措置があります。地方債はその年度は歳入ですが、実質的な財源ではなく前借りですから、その償還金の財源を手当てしないと財源手当になりません。
一方、それぞれの団体が発行した地方債に、個別に交付税措置があるかどうかは、これとは別です。多くの場合、その意味での交付税措置はありません。発行した額に従って交付税配分額を増やすと、地方団体は地方債を発行した方が交付税を多く配分してもらえることになるからです。地方財政計画歳出に計上され、各団体に地方債発行額に応じて配分していない元利償還金は、人口や面積で配分しています。(5月18・19日)
22日の朝日新聞社説は「交付税改革 分権進めて『共有税』に 」でした。「地方交付税といわれて、ピンと来る人がどれだけいるだろうか。『そんな税金を納めていたかな』といった反応が一般的かもしれない。その交付税に注目が集まっている。政府の歳出・歳入一体改革のなかで、財務省などが大規模な削減を唱えているからだ。交付税制度が果たしている役割を考えると、『まず削減ありき』の議論は乱暴すぎる。税源も権限も自治体に移し、その結果として交付税が抑えられる。そうした分権の手順を踏むのでなければ、国のツケを回すだけに終わる」
「昨年までの三位一体改革では、三本柱の一つとして交付税に関しても5兆円余が削られた。しかし、政府内部には、さらに切り込む意見が根強い。たとえば、財政制度等審議会は『5税の法定率引き下げ』を唱える。自治体はむだ遣いが多く、まだまだ絞れる。そんな地方への不信が根底にあるようだ。 だが、自治体の仕事の大部分は、政府の法令などで決まっている。国が権限を握ったまま交付税だけを削れば、貧しい自治体ほど身動きが取れなくなる」
「交付税改革は金額の話だけでは済まない。めざすべき地域社会の姿を描き、その実現を支える仕組みであるべきだ」。 (5月22日)
「中央集権型から地方分権型に国のかたちを大きく転換することが簡素で効率的な行財政システムを構築し、財政規律を確立する道だという意見もあるが、どう思うか」という質問には、知事79.5%、市長64.9%が「そう思う」と回答。国会議員は46.4%が賛成、51.2%が「一概に言えない」と回答。
「三位一体改革の目的について、国と地方との間でどの程度の合意が形成されていると思うか」については、国会議員51.5%、知事86.4%、市長58.8%が、国と地方の間でしっかりとした合意は形成されてこなかったと回答。
三位一体改革の決着内容を現時点でどう評価しているかについては、国会議員は52.8%が「評価している」、43.6%が「評価していない」。知事の63.7%、市長の44.8%が「評価していない」と回答。
「地方分権改革はポスト小泉内閣の最重要課題の一つか」については、国会議員の82.7%、知事の95.5%、市長87.7%が「そう思う」と回答。
税源配分を国と地方の最終支出の実態に即した形に見直していくため、地方への更なる税源移譲が必要かどうかは、国会議員79.4%、知事95.5%、市長92.7%がそう思う(必要)と回答。また、第2期改革でもさらなる国庫補助負担金を廃止すべきかどうかを質問したところ、国会議員の79.7%、知事の72.7%、市長の75.3%が「そう思う」と回答。
「国と地方の協議の場」は今後どうあるべきかを質問したところ、国会議員の43.9%が「法制化などさらに制度として確立すべきだ」と回答、43.3%が「現在の協議の場をこれまで同様に継続すべきだ」と回答。「今後、協議の場は必要なし」と回答した議員は1名にすぎない。
これについてのコメントです。
佐々木毅 21世紀臨調共同代表(前東大総長)
政治システム全体にとって地方分権改革の持つ意味合いについて、国会議員と首長との間で基本的に共通の認識があることが分かった点が何よりも興味深い。また、これまでの三位一体改革の成果についてはなお不十分であり、今後も最重要課題であるという点についても概ね共通の理解が見られた。地方交付税などの扱いや地方の行財政改革の進捗状態については相違が見られるが、これは立つ位置の違いに帰せられよう。厳しい財政状況の中で中央・地方両政府が共倒れ的に衰弱し、弱体化するのを防ぐためには早急に中央・地方政府の役割を明確にする作業を基礎とした大胆な改革が必要である。そのためには先ず公務員制度改革を含め中央政府のあり方について政治がもっと積極的な構想力を発揮することが不可欠であり、問題解決を中央・地方の綱引きに任せていることの限界を改めてはっきり認識することから新たに出発し直すべきである。
西尾 勝 21世紀臨調共同代表(東京市政調査会理事長)
1)三位一体改革関係の設問に対する回答では、知事の回答と国会議員および市長の回答との間にかなりの開きがある。この改革に賭けた知事たちの熱意と真剣さ、そしてその帰結に対する失意の深さに比べ、国会議員および市長の態度はまだ多分に傍観者的である。
2)知事および市長の約半数は第2期三位一体改革の遂行を当面の最優先課題としているのに対して、国会議員では早くも三位一体改革と道州制論議とが混線し始めていて、当面の改革の道筋についてのコンセンサスが崩れて来てしまっている。憂慮すべき事態である。
3)知事および市長の回答と国会議員の回答の間に大きな落差があるものは、地方行革の進捗度合の評価、地方交付税問題、国と地方の協議の場の法制化等々少なくないが、なかでも地方議会・地方議員の改革を必要とする国会議員が88.8%にも達していることは目を引く(知事では54.5%、市長では75.7%)。これを政党別にみると、民主党96.4%、自民党85.7%、公明党81.3%で、地方議員を後援会組織の中核にしている自民党国会議員においてさえ、地方議会・地方議員を見る目は冷たい。国会議員と地方議員の間で率直な徹底討論が行われるべきではないか。
4)ローカル・マニフェスト運動の効果については知事および市長よりもむしろ国会議員の方が高く評価していて、首長選挙におけるビラの頒布解禁に賛成する比率も国会議員の方が高く、70.6%に達していることは、マニフェスト選挙の普及と発展に希望を抱かせる。
(5月22日)