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政府が多文化共生に責任を

2026年1月3日   岡本全勝

12月17日の朝日新聞オピニオン欄に、鈴木康友・静岡県知事の「外国籍住民とともに 395万人の生活者 国が一元化すべき 地域での社会統合」が載っていました。詳しくは記事をお読みください。

・・・外国人の入国、在留の管理をより厳格にする検討を、政府が進めている。静岡県知事の鈴木康友さんは、全国知事会が今年、多文化共生社会の実現に責任をもって取り組むよう政府に求めた提言の取りまとめ役を務めた。日系ブラジル人住民が多い浜松市長も経て直面した、地域社会の切実な課題とは何か・・・

――全国知事会はなぜ、このような提言をしたのですか。
「今年6月末現在、395万人もの外国人が日本で暮らしています。それなのに、国はその存在をもっぱら労働力としてしか見ておらず、生活者である、という視点を欠いてきました」「労働力が足りなければ入れればいい、という程度の認識かもしれませんが、この方たちはロボットではなく血の通った人間です」
「政府は『移民政策はとらない』という一方、技能実習制度や留学生によるアルバイトなどで労働力を確保する、ダブルスタンダードを続けています。あいまいなまま受け入れ、実際の対応は、地域に『丸投げ』の状態でした」
「国が受け入れについて明確な方針を作り、国と地方、それぞれの役割を規定すべきだと考えています」

――浜松市は2001年に外国籍住民が多い他の自治体に呼びかけて「外国人集住都市会議」を設立し、鈴木さんは市長として国に政策提言を重ねていました。
「自治体にとって、外国人はそこに暮らす生活者であり、向き合わざるをえない存在です。日本語教育や生活支援、子どもの教育といった課題は、受け入れ自治体に任せられてきました」「文化の違いからくる生活習慣の違いなど、さまざまな課題がありますが、とりわけコミュニケーションの問題が大きい。日本で生きていくには、生活全般で日本語が必要になります」
「これに直面したのは、浜松市長だった2008年のリーマン・ショックのときでした。多くの日系ブラジル人が雇い止めにあいました。製造業の現場では、仕事さえ覚えればコミュニケーションはさほど必要なかったのですが、いざ転職を迫られたときに障害になったのが、日本語ができないということでした」「そこで、浜松市と合併した旧町の庁舎に外国人向けの学習支援センターをつくりました。今でもその施設は活動を続けています」

――家族で在留している人たちもいますね。
「併せて、子どもたちの教育にも力を入れました。しっかり教育を受けてもらわないと、成人してから日本での独り立ちが難しく、就職などで苦労があります」「市の予算でポルトガル語やスペイン語の分かる支援員を学校に派遣しました。今もNPOなどと協力して続けています」
「就学していない子どもを追跡調査して、教育を受けてもらうことにも努めました。外国人には『教育を受ける権利』はあっても、『教育を受けさせる義務』は課されていない。親が勝手に学校に行かせないと判断してしまったり、日本語が分からず授業についていけずに不登校になったりと、さまざまな事情がありました。細やかな対応が求められます」

――国に求める役割とは、どんなことですか。
「知事会の提言では、日本人と外国人が共生する施策の根幹となる基本法を作ること、外国人施策を一元的に進める、たとえば『外国人庁』のような組織を作り、しっかり予算を確保してください、と求めています」

企業経営陣育成の遅れ

2026年1月3日   岡本全勝

2025年10月28日の日経新聞経済教室、ニコラス・ベネシュ会社役員育成機構ファウンダーの「トップ育成の現代化急務」から。

・・・(日本企業に対する)こうした厳しい評価の背景には、最も重要な「人的資本」である経営陣・取締役層の育成プロセスが、いまもなお実効性を欠いているという現実がある。中間管理職層も同様の停滞が見られるのは偶然ではない。日本企業の構造的な問題がそこにある。

海外、特に米国では労働市場の流動性が高く、多くの従業員が複数の企業で経験を積む。異なる企業文化の中で培った柔軟性や新手法の習得はキャリア形成に不可欠である。他社に自らを売り込む必要性から、「マーケティング」「人事」「財務」といったポータブルスキルを獲得する強い動機が生まれる。このような環境が、管理職や役員の質向上につながる。
企業も従業員が最先端の知識を獲得することに積極的で、専門的な外部研修機関を活用する。従業員が長く在籍しなくても、「あの会社出身なら優秀だ」という評判が新しい人材を引き寄せる好循環を生む。こうした人事方針は企業価値の向上に寄与する。

昇進基準は年齢や国籍、ジェンダーではなく業績と能力である。多くの企業では特定の職務(ジョブディスクリプション)に必要なスキルや知識を客観的に習得したと認められなければ、昇進できない仕組みが整っている。成果の上がらない管理職は降格・解任されることもあり、必須の研修を受けるほか、自ら進んで夜間講座などから学ぶ。
社外取締役を含む取締役も同様である。全米取締役協会の2020年調査によれば、独立取締役は年間平均33時間を教育に充てていた。日本の平均の10倍以上と推測される。

一方、日本では生涯1社型のキャリアが依然として主流であり、特定スキルの習得よりも「当社のやり方」に精通することが組織風土として重視される。他社で通用しにくい「スキル」に依存することは、必然的に外部の視点を遮断することにつながり、閉鎖的な発想を助長する。
近年、ようやく日本でも中途採用市場(ミッドキャリア市場)が発展してきた。しかし管理職に関してはまだ市場が未成熟であり、企業の閉鎖性やグループ主義が依然として強いため、中途採用者の昇進が難しいことが多い。このことが、経営者育成の停滞をさらに悪化させている。
研修についても社内で済ませることが多く、財務や戦略といった経営者全員が持つべきスキル獲得への投資は、極めて少ない。外部研修を依頼する場合でも、自社用にカスタマイズされた内容か、あるいは「他流試合」の意見交換があまりないものを希望する。他社事例をケーススタディーとして取り扱っても、「自社の仕事に早く戻るべきだ」と考える上層部の意向で、短時間になりがちだ。
こうした上層部の意識を反映して、昇進基準に具体的な知識習得が含まれることもまれである。統計データからもこうした組織風土がうかがえ、日本の人材開発費は国内総生産(GDP)比で主要先進国の3分の1以下にとどまっている。
財務や戦略に関する深い専門知識は、限られた研修の機会で習得できるものではない。優れた上級管理職や取締役を育成するには、管理職を複数の職務に配置し、異なる人々と協働しながら、長年にわたって財務や戦略スキルを磨く現場経験も不可欠である・・・
・・・新任取締役は、指名される前の段階では「まだ取締役ではない」と考え学習を避け、就任後は「指名されたのだからおおむね適格だろう」と考え、その地位に安住してしまう。一部の社外取締役は責任を軽視し、「あまり時間をかけずに良い報酬が得られる」と、無邪気に就任しているケースもみられる・・・

1月2日の富士山

2026年1月2日   岡本全勝

昨日1日は、雲がかかって見えなかった、富士宮市からの富士山です。今日2日は、よく見えたとのことです。

『Public Administration in Japan』閲覧者数

2026年1月2日   岡本全勝

2024年秋に出版された『Public Administration in Japan』について、昨年暮れに、国際行政学会(International Institute of Administrative Sciences IIAS)の編集長から、日本の編者に次のような連絡が来たとのことです。
「The book on "Public Administration in Japan" already has 110k chapter downloads.」

オープンアクセス(インターネット上での無料閲覧)の威力ですね。私の執筆した「第19章 Crisis Management」も5000を超えています。紙の本が5000部も売れたら、うれしいですが。

加速化する社会とリキッド消費

2026年1月2日   岡本全勝

2025年11月1日の日経新聞オピニオン欄、中村直文・編集委員の「「1日240時間」とリキッド消費」から。

・・・来場者数が2500万人を超え、「いのち輝く未来社会のデザイン」を掲げた大阪・関西万博が閉幕した。実は期間中、テクノロジーを皮肉った前衛的なSF映画が会場内で上映されていた。映画のタイトルは「1日240時間」。1970年の大阪万博時に制作された映画で、脚本は小説家の安部公房、監督は勅使河原宏と、ふたりの大物の手によるものだった。
映画の内容はこうだ。ある科学者が人間の行動が10倍速になる「加速剤」を開発し、世間に広がっていく。工場の生産性は10倍にアップし、社会は活気づくように見えた。しかし労働時間が減った分、ゴルフなど余暇人気が高まって大混雑する。しかも立ち読みや万引きがはびこり、社会が混乱に陥るというストーリーだ・・・

・・・加速剤はなくとも社会が自律的に高速回転する今。これを理論的に説明する社会学の本がある。「加速する社会 近代における時間構造の変容」(ハルトムート・ローザ著、福村出版)だ。技術革新によって労働の効率化が進み、時間を持て余すはずが、そうはならない。「私たちには時間がない。あふれんばかりに勝ち取っているのだが」。人類はパラドキシカル(逆説的)な世界に直面している。
同氏は時間の欠乏を促す要因を技術的加速、社会変動の加速、生活テンポの加速と3つに分け、論を展開する。技術的加速とは生産・物流・情報伝達でのスピードアップのこと。社会変動の加速とは、社会の制度や慣習が変化するスピードの高まりを意味する。
ローザ氏によるとラジオは5000万人の利用者に普及するまでには38年かかったが、テレビは13年、インターネットはわずか4年という。モノも制度もあっという間に「過去」になり、「現在が縮んでいる」。例えば「最近」という概念であれば、かつては1年程度だったが、今や1カ月ぐらいに縮まった感覚だ。もう一つの生活のテンポの加速とは、単位時間当たりでの行為や経験が詰め込まれるようになった状況を示す。

こうした変化を敏感に反映するのが消費社会で、流動化する環境になぞらえて「リキッド消費」という考え方が生まれた。工業・モノ中心の「ソリッド消費」の後継と位置づけられる。リキッド消費に詳しい青山学院大学の久保田進彦教授は「英国で2017年に提唱された概念で、複数の特徴がある」と説明する。
1つがはかなくも、瞬間瞬間を楽しむ短命性。ファストファッション、ファストフード的な消費シーンだ。2つ目が所有せず、必要なときだけ利用する「アクセスベース」消費。3つ目が脱物質化という。久保田教授は「ライフスタイルが必要に応じて購入する"ジャストインタイム"型になると同時に、興味が複数にわたる"小分け"型になるといった現象が背景にある」と指摘する。
とりわけ若い世代には先行き不安が漂うなか、目の前の時間を快適に楽しむという感覚が強いのだろう。例えばエンタメは「事前知識や予備知識が必要なオペラやクラシックより、見た瞬間に躍動感が分かるK-POPを選好する」(久保田教授)。リキッド消費は企業の成長源になりつつある。動画配信やメルカリのようなフリマアプリ、近年だと短時間アルバイトもリキッド分野だ。人材サービスのディップによると、単発や1カ月以内の案件は急増している・・・

・・・経済の大変動と消費者ニーズから現実化した1日240時間社会。利点も大きいが、常に不安定性と不安を抱え込む性質を併せ持つ。ただ減速は難しく、企業も個人もこの現実からは逃れられない以上、ディストピアに陥らない「地図」づくりが必要なようだ・・・