2026年2月13日

スティグリッツ著『資本主義と自由』

2026年2月13日   岡本全勝

知人に勧められて、ジョセフ・スティグリッツ著『資本主義と自由』(原著2024年。邦訳2025年、東洋経済新報社)を読みました。内容も難しくなく、訳も読みやすいです。とはいえ本文は約400ページ、分厚いです。2度ほど半分くらいまで読みすすんだのですが、他の案件で忙しく中断。すると、読んだ内容を忘れていたので、3度目にようやく読み通しました。

著者の主張は、ごく短く言うと次の通りです。私の関心からですが。
新自由主義資本主義は、過去40年間にわたり欧米諸国を支配してきたが、失敗だった。成長率がそれ以前の数十年よりも低下し、格差が拡大した。さらに、社会を分断し、国民の間の信頼関係を損なっている。
フリードマンやハイエクは、経済を自由化すれば経済は発展し、自由も広がる、政府の介入はそれを損なうと主張したが、間違いだった。彼らや経済学が主張しているのは、現実とは離れた「理想的な状況」での競争である。「全員が平等で、完全な情報を得て、対等に交渉する。時間はかからず、即座に均衡に達する。個人の判断は一生変わらない」とする。しかし現実は違う。成功した者は努力の結果だと言うが、親から引き継いだ有利な条件があったからこそ成功している。自由で平等な競争ではない。そして何より、外部経済を無視している。
自由主義経済と言うが、契約を実行しない場合に履行させること、独占を排除することなど、政府が規制をしているから「自由な経済活動」ができる。しかも、2008年の金融危機が起きると、政府の支援を求めた。
行きすぎた経済の自由化は格差を生み、社会を分断させた。トリクルダウンは起きなかった。富裕層とソーシャルメディアは、それを加速している。そしてそれは国内だけでなく、国際的にも広がっている。貿易の自由化はすべての国を豊かにすると言うが、貧しい国はいつまで経っても貧しいままである。アメリカの製造業が中国に移動した。アメリカで失業した労働者はより高い賃金の職を得たかというと、そうなっていない。

公正な社会をつくる経済システムはどのようなものか。これが、著者が経済学を志したきっかけだそうです。
経済学の教科書を読んでいて物足りないのは、本書が指摘しているように、ごく抽象的な状況での経済均衡を分析しているからです。現実は、「雑音」が多くて、そんなに簡単なものではありません。本書はその経済学の限界を指摘し、外部経済を扱うこと、そして政治の役割を縷々述べます。私が、共感を覚えたのは、この点です。
内包と外延、企業評価」の続きにもなります。これは、経済学にも当てはまります。

新自由主義的改革は日本でも支配的な言説となり、国民の頭に入るとともに、多くの改革が行われました。日本にとっても必要だったと思いますが、それが長く流行し、他の問題に取り組まなかったことが問題です。それは、連載「公共を創る」で書いています。
アメリカでは、富の格差がとんでもなく広がり、それは社会と政治の分断を招いています。日本は、まだそこまで行っていないようですが、非正規労働者が4割近くなっています。今後この分断と対立が明らかになるでしょう。

わかりやすい文章と議論なのですが、もう少し短く書くことはできませんかね。せっかくの良い主張なのに、多くの人は最後まで読まない、あるいは分厚さを見て読むことを躊躇するでしょう。

次世代へ投資する社会保障

2026年2月13日   岡本全勝

1月16日の朝日新聞オピニオン欄「ほころぶ社会保障」の続きです。橋本努・北海道大学教授の「次世代へ投資、少子化対策にも」から。

―社会保障に対する不安が高まっている背景には何があるのでしょうか。
「少子化による人口減への不安です。人口減によって国力や経済力が落ちていくことが明らかだからこそ、社会保障を維持できなくなるのではないかという不安が引き起こされている、という構図でしょう」

―昨年刊行の共著「新しいリベラル」で発表した意識調査が注目を集めましたね。日本の有権者がどのような福祉国家を求めているのかを探る調査でした。
「私たちの調査が可視化したのは、『子ども世代や次世代に投資する』という形の新しい社会保障の実現を求めている人々が2割以上いるという実態でした」
「もちろん2割は多数派ではありません。しかし、これまで見えていなかった2割の存在が可視化されたことには意味があります」

―どういう特徴を持つ人々だったのですか。
「従来の『弱者支援』型の社会保障とは異なり、個人の成長を支援する『社会的投資』型の社会保障を求める人々でした。個人の潜在能力の成長を可能にする社会的環境は『自由』の基礎です。それを求める人々という意味で『新しいリベラル』と名付けました」
「また調査では、従来型のリベラルには高齢世代への支援を重視する傾向が見られた半面、新しいリベラルの人々は子ども世代や次世代への支援を望んでいました。具体的には、子育てや教育などへの支援です」

―社会保障というと、年金や医療を思い浮かべる人が多そうですよね。
「ええ。欧州の国々と比べたときの日本の社会保障給付の特徴は、年金と医療の占める割合が高く、それ以外の割合が低いことです。次世代への投資は『それ以外』にあたります」

―調査結果の分析は、「新しいリベラル」の人々の社会保障ニーズに応える政党は存在していないと結論づけられていました。
「政党や政策について尋ねましたが、積極的に支持されている政党は見当たりませんでした。調査時期が2022年だったことには注意が要りますが、子どもや次世代への社会的投資が必要だと思う人々のニーズをすくい上げる政党がなかったことを示しています」