月別アーカイブ:2026年1月

冷めた風呂現象?

2026年1月21日   岡本全勝

ゆでガエル現象」ということは、聞かれたことがあるでしょう。
カエルを水に入れてゆっくりと温度を上げると、カエルは気がつかずに、そのまま茹でられて死ぬという話です。実際は、逃げ出すでしょうが。緩やかな変化は気づかずに、致命的な状況に陥るという警告に使われます。

この30年間の日本経済の停滞は、これに当てはまりますが、温度が下がるので逆だと思います。徐々に経済力が落ちて、国際的には先進国と言えない状況にまでなりました。国内では給与は上がらず、非正規が増え、貧しい国になりました。しかし、徐々に変化した、というか変化しないうちに世界は成長していたので、危機感を持ちませんでした。

この状況は水温が上がったのではなく、暖かいと思って浸かっていたお風呂が、徐々に冷めて冷水になったと言った方がよいでしょう。どこかで風呂から出なければならなかった、そして追い焚きをしなければならなかったのですが、外も寒いので「もうしばらく浸かっていよう」と考えたのです。「冷めた風呂」とでも呼びましょうか。
「ゆでガエル」という表現に対比するなら、どんどん冷たくなって、ついには凍ってしまう「冷凍ガエル」でしょうか。

と書いたら、肝冷斎が、「まあまだいいか」という言葉を使っていました。
そうですね。気づかないうちに危機になる場合と、気づいていても対策を先送りする場合とがあります。もう一つ、間違った対策を打ち続ける場合もあります。この30年間の日本は、二番目と三番目だったようです。

「パートは低待遇」当たり前ではない

2026年1月21日   岡本全勝

2025年12月7日の朝日新聞「「パートは低待遇」当たり前ではない 日独の経済史研究、田中洋子さんに聞く」から。

フルで働けないのなら、転勤ができないのなら、非正規雇用で低賃金――。日本社会で長くまかり通ってきたこの常識が、働く人を貧しく、忙しくしてきたと、日本とドイツの経済史を研究する田中洋子さんは指摘します。名目GDP(国内総生産)で日本を抜いたドイツの働き方から学べることとは。

―パートなどの非正規雇用の待遇が異なるのは「当たり前」という感覚があります。
パートやアルバイトは、「男性が大黒柱として働く」という日本的な雇用が安定化した1970~80年代までに、「女・子どもの賃金は安くていい」という補助的な働き方として広がりました。バブル崩壊後には正規雇用を非正規雇用に置き換える人事政策が多くの産業に拡大します。人件費削減は「善」となり、リストラすると株価が上がる。この流れが30年続き、完全に社会に定着し、もはや疑うことすらできなくなっています。私がおかしさに気付けたのは、たまたまドイツの研究をしていたからです。

―どんな違いがあるのですか。
ドイツのパートは「非正規」ではなく、「正規のパート」です。「働く時間が短い正社員」とも言えます。パートであっても、仕事が同じなら同じ給与表にもとづいて、働いた時間分の賃金が支払われ、無期雇用です。
日本のパートの賃金は「最低賃金プラスアルファ」程度で、基本的にはずっとそのままでたいした昇給もない。そのかたわらで、2、3年で異動していく正規の人は、同じ仕事をしていても全く異なる賃金体系で、昇給も昇格もある。現場について誰よりも詳しくても資格があっても、働く時間が短いというだけの理由で「非正規」となり、低待遇が正当化されています。

―なぜドイツではそんなことが可能なのでしょうか。
90年代まではドイツも日本と似ていました。パートは「主婦の補助的な仕事」というイメージがあり、給料の低い仕事が与えられていました。
大きく変わったきっかけは、2001年の「パートタイム法」です。この法律によって、短く働くことは、労働者の権利になりました。男性も女性も、管理職でも裁判官でも、誰でもです。経営者は労働者の希望を実現する責務を負います。「パートは低賃金」というイメージはどんどん崩れていきました。
日本はドイツと正反対に、「現場労働者を安く使う」ことが広がり、正規と非正規の分断や処遇の格差が大きく広がってしまいました。でも、これは企業が勝手に始めたことです。だから、企業は「勝手にやめる」こともできる。変える気になれば変えられるのです。

―日本がドイツのようになったら、経営がたちゆかなくなるのでは。
日本は既成の仕組みを「絶対」と考え、その仕組みの中でなんとかしようとする人が多いですね。その結果、社会に不可欠な「エッセンシャルワーカー」とされる人たちは、構造的に過重労働と低賃金に追い込まれてしまっています。例えば訪問介護は人手不足で、スケジュールのやりくりも厳しく、賃金は上がらず、辞めていく人も増える。事業者は高い紹介料を払って人材会社から人を調達せざるを得ない。するとその分、元々働いている人にお金をまわせず、賃金は低いまま。うるおうのは人材会社だけです。
このままでは、現場で働く人が足りなくなり、サービスを受けたくても質量ともに十分に提供されなくなります。家族がやるしかなくなれば、仕事を辞めざるを得なくなるかもしれない。この悪循環を断ち切るには、人々の暮らしを現場で支える人たちの生活と仕事を守っていく必要があります。きちんとした水準の報酬のもとで、働く人が自らの希望に合わせて働く時間を選べる働き方へと、変わっていくべきです。

―「働く時間を自由に選べる正社員」で、現場が回るのでしょうか。
パートが多ければ、その分多くの人数を雇ってやりくりする。日本企業が非正規雇用を使ってやっていることと同じです。日本では長時間労働が難しい人の多くが非正規になってきましたが、非正規ではなくて「短時間働く正社員」でいいじゃないですか。「ワーク・ライフ・バランスが重要」と言っておきながら、バランスを取ろうとすると非正規になるしかないとは、おかしな話です。

池本大輔著『サッチャー』

2026年1月20日   岡本全勝

池本大輔著『サッチャー「鉄の女」の実像』(2025年、中公新書)を紹介します。
宣伝文には、次のように書かれています。
「サッチャーは、20世紀後半を代表する政治家だ。1975年に保守党党首となり、79年にはイギリス初の女性首相に就任。「鉄の女」の異名をとり、10年以上在任した。サッチャリズムと呼ばれた政策は、「英国病」を克服したと言われる一方、レーガン米大統領とともに新自由主義の急先鋒だとして批判も招いた。本書は、激動の生涯を追い、経済から外交までの政策を俯瞰したうえで、彼女の「遺産」を浮き彫りにする。」

サッチャー首相は、私にとっては同時代人でしたが、すでに歴史になりました。新書なので、若い人には適切な入門書です。
政治家の場合は、どのようにして上り詰めたかという過程もありますが、伝記として取り上げられるのは、困難なことを成し遂げたからでしょう。彼や彼女は何に対して戦ったか、どのようにして困難を乗り越えていったか、そして何を成し遂げたかです。
サッチャー首相の評価はさまざまありますが(最近も見直しがされているようです)、英国病と戦い、新自由主義的改革を進めた点では、一致しているでしょう。フォークランド紛争までは、支持率も高くなく、政権運営に苦労していたのです。労働組合との対決も、困難なことでした。それらを乗り切ることで、支持を固め、改革に進みます。

伝記について考えてみました。
伝記は、その人の一生を描くのですが、その対象に行動と内面があります。どのような環境で育ったのか、また大きな仕事を成し遂げる人格はどのようにできたかです。その際に、行動は外から見てわかりますが、内面は他者にはわかりません。本人が執筆する回顧録には書かれる場合がありますが、それも「後付け理屈」となることもあります。そして政治家の場合は、難しい判断をしなければならない場合に、どのように考えて、また周囲との関係を考えて、そのような結論に至ったか。それも重要です。
もう一つは、その人の行動を描くだけでは、評価になりません。どのような課題に対してどのような判断をしたのか、それがどのような変化を社会にもたらしたかです。本人の行動を描くだけでなく、外部への影響を描かなければなりません。ここにも「内包と外延」があります。

サッチャー首相に関しては、次のような記事も書きました。「サッチャー改革の見直し」「サッチャー首相の評価、敵は身内に

鋭い経済分析

2026年1月20日   岡本全勝

このホームページで時々紹介する。川北英隆教授のブログ。山歩きの記も楽しいですが、本業の経済分析は、鋭いです。
例えば、「金融政策依存症候群」「猫の手も労働力の変」「政府が最初に出すべきは知恵
新聞の経済記事より、わかりやすいです。

時々、世相のぼやきも載っています。「東京銀蝿」「画一が壊す食文化」「インバウンド消費なんて悪や
こちらも、納得します。

尼崎市幹部研修

2026年1月19日   岡本全勝

今日1月19日は、尼崎市役所の幹部研修講師に行ってきました。市長をはじめ、100人もの幹部と管理職が、熱心に聞いてくださいました。
主催者からいただいた題は「リーダーシップと危機管理」です。これだとあまりに広いので、いくつか論点を絞ってお話ししました。社会と職場が転換期にあること、幹部養成をやってこなかったこと、幹部は日々の執務で試されていること、幹部が試される危機の時などです。

抽象論は響かないので、数値や事例(私の失敗など)を入れて、一緒に考えてもらうようにしました。いつものことです。
最近の研修では、班別討議を組み合わせて、参加による効果を狙っているのですが、会場の都合で断念。宿題にしました。長めの質疑の時間を取ったら、鋭い・難しい質問がたくさん出ました。