正規・非正規の待遇格差、是正は道半ば

2026年1月8日   岡本全勝

2025年12月2日の日経新聞経済教室、水町勇一郎・早稲田大学教授の「正規・非正規の待遇格差、是正は道半ば」から。

・・・雇用形態による不合理な待遇差を禁止し、非正規という言葉をこの国から一掃してまいります」――。2018年の通常国会冒頭の施政方針演説で、安倍晋三首相(当時)はこう述べた。時間外労働の上限規制と並び、正規・非正規労働者間の不合理な待遇格差の禁止(いわゆる「同一労働同一賃金の原則」)を定めた働き方改革関連法は、同年6月に成立した。
同一労働同一賃金に関する部分は20年4月(中小企業は21年4月)に施行された。現在、施行5年後の見直しが検討されている。

改革の目的は、日本的雇用システムがもたらした弊害の解消にあった。正社員を中心とした日本の雇用慣行は、正社員の過重労働と非正社員の低処遇・不安定雇用を深刻化させた。
1990年代後半以降のグローバル競争は、低賃金で雇用調整が容易な非正社員を増加させ、日本全体の実質賃金の停滞や労働生産性の相対的低下につながった。また人口減少・人手不足のなか、多様で魅力的な働き方を広げ人々の能力をフル活用することも重要な課題となっている。改革には社会的不公正の是正とともに、日本の労働生産性や成長力の回復という経済政策としての側面もあった。

働き方改革関連法による同一労働同一賃金の改革によって、実務には一定の変化がみられた。短時間・有期労働者については、通勤手当、法定外休暇、慶弔休暇、賞与等の諸手当・福利厚生の面で待遇改善が進んだ(労働政策研究・研修機構「同一労働同一賃金の対応状況等に関する調査〈企業調査〉」2023年)。
基本給も格差は縮小傾向にある。非正社員の所定内給与額平均は、正社員比で19年の64.7%から22年には67.5%に上昇した。ただ23年以降は正社員給与の増加幅が大きく、24年は66.9%と低下した(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。
もっとも住宅手当、家族手当、退職金など改善が不十分なものもあり、基本給格差もなお小さくない。
派遣労働者については、かつて低待遇であった事務系派遣、製造業派遣も含め賃金は上昇傾向にある。一般労働者と比較しても高水準で推移している(厚労省「労働者派遣事業報告〈年度報告〉」等)。
以上のように待遇改善は一定程度進んでいるが、それが改革の効果なのか、人手不足や最低賃金引き上げの効果なのか明らかでない部分もある。また改革の趣旨に対する理解が十分に及んでいない点もあり、改革はなお道半ばといえる・・・

・・・正規・非正規の壁をなくし、潜在的な労働力も含めた働き手全体の活躍を促していくためには、日本的な正社員制度そのものを見直すことも重要である。
人口減少とデジタル化が進むなかで、日本企業でも正社員制度を、多様で本人の主体性を重視するものに変えていこうとする動きが広がっている。生活関連手当を縮小・廃止して職務価値や生産性を重視する基本給制度への移行、同意のない転勤制度を縮小・廃止して職種や勤務地を本人が希望・選択できる制度への移行、企業主導の人材育成から本人の意思に基づく自律的キャリア形成への移行、週休3日やフルフレックス制といった柔軟な働き方を実現する動きなどである。
この動きは、拘束度や負担の重さの違いといった、旧来の「正規・非正規の壁」の前提を消失させていくものといえる。正社員と非正社員の区別を相対化し、多様な人びとを包摂できる公正な人事制度や人材活用制度を作り上げていくことが、改革の目的達成に向けた最も有効な道である・・・