福祉サービスの地理学

2026年1月7日   岡本全勝

久木元美琴執筆「福祉サービスの地理学の視点からみる行政領域」月刊「地方自治」2025年12月号(ぎょうせい)を紹介します。少しだけ試し読みができます。

「保育・子育支援のサービス需給に関する地理性や空間性」を研究する学問があるのですね。地理学にそのような分野があることを知りませんでした。
「地方自治体が担う福祉サービスは多岐にわたるが、なかでも保育サービスは保護者による日常的な送迎が必要である場合が多く、自宅と勤務地を含む日常の生活空間の範囲(生活圏)と行政領域の地理的な範囲との齟齬が生じた場合に困難が生じる」とあります。
地方行政と地理学というと、地方財政学での「足による投票」や、税負担と行政サービスのずれ、広域行政などを思い浮かべます。しかしそれは、自治体行政からの視野です。住民の暮らしや社会の在り方から考える必要がありました。

特に「長距離通勤のために、通勤者は朝早く家を出て、夜遅くに帰宅する。そのため、平日は家族と過ごす時間がほとんどなかった。他方で、女性はサービス経済化の進展や男女雇用機会均等法の施行などによって、雇用労働力として大きな社会的役割を担うようになっていた。このように、日本の大都市圏の日常生活における空間と時間が劇的に変化しようとしているなか、大都市郊外では仕事と家庭の両立困難が鋭く顕在化した」という指摘(6ページ)は、新鮮でした。
住宅と勤務地が離れた長距離通勤は、朝早く出勤し夜遅く帰宅する父親だからできたものです。夫婦で子育てをする場合には、難しいものがあります。
通勤地獄、長距離通勤、寝に帰るだけのベッドタウン・・・。昭和の経済成長期に、私生活を犠牲にして、会社勤めを優先しました。大きな問題と指摘されながら、一向に対策は打たれませんでした。行政の課題とならなかったのです。しかし、女性が社会進出し、他方で少子化が問題になり、男社会を前提にした通勤のおかしさが目に見えてきました。

私は、連載「公共を創る」で、働き方改革と男女共同参画が「この国のかたち」の結節点であり、日本を変えると主張しています。ちょうど連載で、通勤と保育園の問題を書いていたので、参考になりました(これも、娘夫婦の子育てを見て気づきました。霞ヶ関勤務だけではわかりませんでした)。持論を補強することができました。
都心の住宅費高騰も報道されています。大都市での通勤と子育ては難しくなりました。さて日本政府は、この問題にどのように対処するでしょうか。住宅整備、都市整備、産業振興といった視点からは、この問題は解決できません。生活者、住民の視点から考えなければならないのです。しかし、行政の組織と仕組みはそのようになっていません。