年別アーカイブ:2025年

野中郁次郎さん、外国への発信

2025年4月29日   岡本全勝

4月18日の日経新聞夕刊追想録は野中郁次郎さんの「経営とは生きざま」でした。

・・・野中氏といえば、「失敗の本質」や「知識創造企業」(いずれも共著)があまりにも有名だ。だが、もう一つ他の経営学者と違ったのは著書の外国語訳にこだわった点だ。
教壇に立ち始めた1970年代は日本の経営学も米研究の「解釈学」といわれていた。だが、日本にも暗黙知と呼ばれるものに裏打ちされた優れた知識創造の経営はあった。それを発信し続けた・・・

法学にしろ政治学にしろ、日本の社会科学の多くは、欧米の学問の「輸入業」でした。欧米への発信だけでなく、アジアへの発信もしてこなかったのではないでしょうか。

渡邉雅子著『論理的思考とは何か』2

2025年4月28日   岡本全勝

渡邉雅子著『論理的思考とは何か』の続きです。
91ページ以降に、「ディセルタシオンの誕生ー市民の論理と思考法」が書かれています。これは、日本の作文教育、学校教育だけでなく、法学部での教育と比較して、深く考えさせられます。

・・・ディセルタシオンは、自律して考え判断できるフランス市民(国民)育成のために18世紀末に起こったフランス革命後、100年余りの試行錯誤の中から創られた。フランス革命は人権宣言を理念的な柱とし、法の下の平等、人民による人民のための政治を宣言して「政治的主体としての市民(国民)」を誕生させた。これ以降、フランスは統治者である国民の育成という大事業に取り組むことになる。そのため公教育の目的は、憲法をも真理として扱わず事実として教え、完成している法律の称賛ではなく、「この法律を評価したり、訂正したりする能力を人々に附与すること」を求めることとした。近代の学校が国家を支える労働者と国家防衛のための兵士の育成を第一の目的としたのに対し、フランスはフランス革命の理念の実現を公教育の第一の目的にしたのである・・・

・・・実際にディセルタシオンの登場によって「暗記と模倣」が中心だった伝統的な教育は、生徒自らが構想し批評する教育へと大きく変化した・・・
・・・こうした歴史に照らしてディセルタシオンの構造を見ると、政治領域には欠かせない「既存の法律を評価したり訂正したりする能力」を育成し、「自立的に考え破断すること」「批判的にものを見ること」が論文構造に否応なく組み込まれていることが確認できる・・・
参考「できあがったものか、つくるものか

変わる終身雇用への備え

2025年4月28日   岡本全勝

4月5日の朝日新聞夕刊、広川進・法政大教授の「変わる終身雇用、必要な備えは」から。

・・・定年まで同じ会社で働き、老後は余生を楽しむ――。こんな人生を思い描いた人もいるのでは? でも、いまや終身雇用は崩れ、長寿社会のなかで老後の年金に不安が募るなど「定年まで」の時代は終わりつつある。会社をやめて次のステージに進んだり、定年後も働き続けたりするため、どんな備えが必要か。自らも40代で会社を辞め、臨床心理士になった法政大キャリアデザイン学部教授の広川進さん(65)に心構えを聞いた。

そもそも、大学を出て新卒入社した会社に「定年まで勤める」という働き方は本当にできなくなったのだろうか。
「いままでは、55歳になってキャリアの終盤で不本意な仕事になっても、あと数年我慢すれば定年まで勤めることができた。でも、これからは畑ちがいの仕事でかなりの期間、働くことも十分あり得ます」

企業は激しい競争にさらされ、すべての社員を安定して雇い続けることは難しい。
「言葉を濁さず、『このままだとあなたは社内では生き残れないかもしれません』と誠意をもって伝えるべきです。働く側も『会社が私を雇用し続けるメリットは』という視点を持たないといけない」

とくに1990年前後のバブル経済期に入社した人らが持つ「会社への根拠のない愛」に気をつけなければいけないという。
「超売り手市場で入社した世代。世の中が変わったのに『まだ会社は心変わりしていない』と現実を直視できない」
企業の研修などでは、そういう社員に「(会社もあなたを)愛しているけど、あなたの残り10年を保障するほどの体力がない」などと伝える・・・

公共政策理論のアメリカの教科書(翻訳)

2025年4月27日   岡本全勝

クリストファー・M・ウイブル編集、稲継裕昭翻訳「公共政策: 政策過程の理論とフレームワーク」(2025年4月、成文堂)を紹介します。
原著は1999年に初版が出て、この翻訳は2023年の第5版です。学生、研究者、実務家にとって公共政策研究・政策過程研究の入口となる書であり、最も定評がある教科書とのことです。
行政学や公共政策論については、日本の学者も本を出していますが、諸外国の動向は意外と紹介されていないのではないでしょうか。もちろん日本の行政の仕組みや特徴を知ることが重要ですが、諸外国と比較して日本の特徴を知ることも重要でしょう。

訳者はしがきで、稲継先生が次のようなことを述べておられます。
「アメリカで始まった理論の実証的適用が、欧州諸国のみならず、南米やアジア諸国、さらにはグローバル・サウス諸国へと広がりを見せている。そのような中で、日本の事例については、国際的なジャーナルへの投稿が極めて少なく、(自戒の念も込めて)海外へ発信されていない。2024年に『Public Administration in Japan』(Palgrave Macmillan)を出版した際、海外の学者から「日本の行政はこれまで謎だった」などと指摘された。具体的適用例についてはなおさらだ。だが、日本は事例に富んでおり、本書の諸理論を適用して分析すれば、国際的には非常に注目される実証研究となることは言うまでもない」

日産社外取締役、全員留任

2025年4月27日   岡本全勝

4月4日の朝日新聞「日産社外取締役「全員留任」の波紋 業績不振で社長交代、監督役に「何してきたのか」」から。

・・・日産自動車は、1日にイバン・エスピノーサ新社長が就任し、新体制に移った。同社では今春、前任の内田誠社長や3人の副社長らがそろって退任した。一方、「内田体制」を支えてきた社外取締役は全員が留任の方向だ。経営の監督役である社外取締役のあり方を巡り、議論を呼んでいる・・・

・・・ 一方、取締役会の監督責任については「責任の重大さは理解しているが、新体制を構築して皆さんに判断してもらうことを選択した」と説明。12人の取締役のうち、日産と筆頭株主の仏自動車大手ルノー出身者を除いた8人の社外取締役の全員が留任する方針を明らかにした。
この方針について、企業統治に詳しい牛島信弁護士は「内田社長ひとりに責任を押しつけているように見える。一人も辞めずにどうして改革ができるのか」と批判する。さらに、「業績は一日二日で悪くなったわけではない。社長を代えることもできたのにしなかった」として、取締役会の3分の2を占める社外取締役が監督責任を果たさず、機能していなかったと分析した・・・

・・・一方、社外取締役全員の留任が「ベストではないがベターな判断」とするのは、早稲田大学ビジネススクールの池上重輔教授だ。日産のような世界的企業の取締役に適した人材が見つけにくいことや、経営再建の重責を担わなければいけないことなどから、「辞めたところで人が見つからず、これまでより悪化する可能性もある」と話す。
近年の金融庁などの指針改定で、東証プライム上場企業は独立社外取締役が取締役会の3分の1以上を占めるようにすることが求めらている。そのため、社外取締役の要件を満たす人材が不足しているという・・・