橋本秀美著『孝経 儒教の歴史二千年の旅』(2025年、岩波新書)を読みました。儒教というと『論語』を思い浮かべ、『孝経』は思い浮かびません。でも、「身体髪膚これを父母に受く、あえて毀傷せざるは孝の始めなり」は、孝経に出てくるのですね。
孔子の言葉を記したもので、「孝」について述べ、つぎに天子、諸侯、郷大夫、士、庶人の孝を説明します。1800字と短く、それが約20章に分かれています。日本でも、江戸時代どころか、戦前まで広く学ばれたとのことです。難しくなく、短いからでしょう。私も、「身体髪膚・・・」を覚えています。どこで学んだのかな。両親からかな。
ただしこの本は、孝経の中身・教えについて解説したものではなく(最後に現代語訳がついています)、経典の来歴、解釈の争いについて書いたものです。目次を見てください。その点は、やや専門家向けです。
秦の始皇帝の焚書に逢って、儒教の経典は燃やされてしまいます。それをくぐり抜けたものが、前漢の初めに出ます。その後に、孔氏の書院の壁から「発見された」より古いと言われる文書が出てきます。少し異なっているのです。どちらが本物か、大きな派閥争いが起きます。唐の玄宗が統一します。
孝経には、儒教による社会秩序・人の道が書かれていて、良いことを教えてくれます。でも、本家の中国では、どれだけの人がこれを読んで実践したのでしょうか。王朝は次々と交代し、そのたびごとに戦争が起きます。新しい王朝も、すぐに権力争いが起きます。庶民は、支配層にいじめられます。孝経を読んで実践したと思えないのです。その辺り、孝経の社会的影響力も知りたいものです。
肝冷斎に聞けば、詳しく教えてくれるでしょう。(と書いたら、肝冷斎は途中まで訳したことがあるそうです。さすが)
なお、身体髪膚は、第1章に出てきます。その前に「子曰く、夫れ孝は徳の本なり。教えの由って生ずる所なり。」があります。その後に、「身を立て道を行ない、名を後世に揚げ、以って父母を顕わすは、孝の終わりなり。」が続きます。