歴史を捏造する人工知能

6月5日の朝日新聞オピニオン欄「生成AIと歴史」、大知聖子・名城大学准教授の「コスパ社会の危険な「知の革命」」から。

―歴史学者として、生成AIの急速な進化をどう見ていますか。
「研究者が評価・検証することが前提ですが、情報処理や単純作業など、歴史学研究で生成AIを活用すると便利な場面はあります。ただ、一利のために百害を生み出しかねない、というのが私の感覚です。生成AIが作り出す『歴史』が、現実社会の歴史認識をゆがめる可能性があるからです」
「グーグルなどで調べものをすると、生成AIの『答え』が上位に出てくる時代です。歴史的な写真や映像のフェイクも既に生成されているようです。例えば、過去の日本軍の侵略を美化する画像が大量に流布したら、多くの人の考えに影響を与えてしまうのではないかと危惧しています」

―歴史の捏造や改ざんは有史以来あります。生成AIの何が特別なのでしょうか。
「リスクが三つあります。(1)偽情報を誰でも簡単に低コストで大量生成できる(2)生成されたコンテンツは『公平・中立で正確』と誤解されやすい(3)近い将来、権力者を含め、誰も制御できなくなる恐れがある、です」
「生成AIは、人間の過去の創作物を集め、バラバラにして並べ替え、吐き出すにすぎない。ブラックボックスから出てくる、生成過程の分からない『答え』を多くの人がうのみにするのは、占いで意思決定をしていた前近代に近い状態と言えます」

―ブラックボックスというのは。
「生成AIが学習する手法の中には、技術や仕組みが開示されていないものがある。プロセスが不明なので、私たちからはどうやってその答えにたどり着いたのか検証できず、偏った意見に調整されていても検証できません」
「歴史学は、科学的手法を用いて史料の信頼性を見分けてきました。経験的証拠、再現性、反証可能性の三つの観点から、ある仮説が本当にあり得るものかを検証していきます」
「経験的証拠とは、いつどこで誰が書いたかが分かる『史料』のこと。複数の研究者から見ても、同じ史料から同じ仮説が得られるのが再現性です。反証可能性とは、ある仮説が経験的証拠によって否定される可能性があるということ。何度も検証や反証される過程で、有力視されたり覆ったりします。生成AIがつくる『歴史』はそもそも経験的証拠、再現性、反証可能性の手続きを経ていないので史実とはみなされません」

―生成AIによる偽歴史が巧妙になり、研究者もだまされる日がくる?
「歴史学では、先述の手続きを経ない仮説は史実として扱いません。が、偽史料にはだまされるかもしれません。史料の検証がより重要になってきます。専門家の声よりセンセーショナルな偽画像の方が拡散力があるので、世間に偽歴史が広がり収拾がつかなくなることもあり得ます」

人事院初任行政研修

今日6月17日午後は、北区西ヶ原にある研修合同庁舎で、初任行政研修の基調講義をしてきました。
対象者約800人が7組に分かれて受講します。私の担当のE組は、113人です。ほかの班は、別の講師が別の主題で基調講演をします。
政策事例研究なので、東日本大震災の対応を話しました。駆け出しの官僚向けに、「明るい公務員講座」もいくつか話しました。私もいろいろな経験をしてここまで来たことなどです。「一人で悩むな」「心の回復力」も。
皆さん、熱心に聞いてくれました。2時間の講義と、30分の質疑にしました。次々と手が上がり、時間を超過しました。うれしいですね。

主題については、課題を与えます。参加者は、18の班に分かれて議論し、次回にそれを発表します。次回は、入間市の研修所です。「2024年度

研修生の皆さんへ、話題にした資料にリンクを張っておきます。
「明るい公務員講座」3部作
私のホームページ「人生の達人
Public Administration in Japan』(2024年、Palgrave Macmillan)の「第19章 Crisis Management

事なかれ主義の社内を改革する

5月29日の日経新聞夕刊「私のリーダー論」は、長谷川隆代・SWCC会長の「暗黙の了解」に挑み続ける」でした。

・・・非鉄業界で初の女性社長を2018年から7年間務め、4月に会長となったSWCC(旧昭和電線ホールディングス)の長谷川隆代さん(65)。社長就任前、同社は90億円の最終赤字を出すなど苦境が続いていたが、経営の効率化を図ると業績が向上し24年度は過去最高益に。事なかれ主義だった社内で改革を断行できた背景には「正しいと思うことを言い続ける」という信念がある。

――社外取締役からの推薦で社長になりました。常務など他の上席役員を飛び越しての抜てきでしたが、なぜ白羽の矢が立ったのですか。
「13年に役員になってから、末席で取締役会に出席して経営に携わっていました。誰も反論しない決議事項に自分なりの論を述べ続けたことが、社外取締役から評価されたのだと思います」
「取締役会の出席者は私以外全員男性。『根回しが済んでいるので会議では発言しない』という暗黙の了解がありました。私は違和感があれば質問や異論を述べました」
「他の出席者からは白い目で見られていたと思います。そもそも可決が前提の審議なので、意見を伝えても『参考にします』と言われるだけ。それでも5年間、めげずに声を上げ続けました。部門の代表としてその場にいるのだから、発言こそが価値だと考えていました」

―どこに問題意識を持っていましたか。
「会社全体に広がっていた、事なかれ主義の意識です。電線を手掛けるインフラ企業なので、よほどのことがない限り会社は潰れず、危機感を持たずに働けます。ただ、変化のスピードが速い社会での現状維持は退化になります」
「役員の頃、営業利益目標が90億円の年がありました。理由を尋ねると『90周年だから』といいます。非効率な経営体制と低い利益率を変えたいと思いました」

―変化を起こすために何から始めましたか。
「不採算事業を整理するという課題を解決するため、各役員に事業再編案を考えてもらうことから始めました。数日後、ある役員からできない理由が3〜4ページのリポートになって出てきました。抜本的には事業を見直さず、利益を増やすための提案がつづられていました。赤字でないのになぜ問題視するのかと、不満がにじんでいました」
「当たり前ですよね。どんな役員でも、担当する事業をどうにかして生かしたいと思うはずです。私が感覚的に問題だと話してもわかってもらえない。どう説明すべきかを悩みながら経営の本を読みあさりました」
「投資に対して効率的に利益が出ているかを示すROIC(投下資本利益率)という指標に出会いました。この指標を使うと、なんとなく続けていた不採算事業が浮き彫りになりました。国内生産拠点の再編と不採算事業からの撤退をして、担当社員の異動や再就職の支援をしました」

―リーダーは立場ではなく役割と説いていますね。
「役割は自ら見極めるものです。私の場合は、会社を変えることでした。社長という役割に徹して、最後には責任を取ります」
「リーダーシップの形はリスク時と平時で変えています。災害や危機対応といったリスク時にはある程度トップダウンで決めます。普段は全員の意見を聞いて進めます」・・・

今年も冷房地獄が始まりました

東京は、土曜と日曜日は雨でした。今日16日から、晴れて暑くなりました。
早速、地下鉄や電車は、冷房を効かせています。朝の出勤時は、外気温はまだ24度程度でしたが、車内はギンギンに冷えています。車内冷房は先日から入っていたのですが、強くしたのでしょう。
私は冷房に弱いので、困ります。薄着だった外国人観光客が、途中で1枚羽織っていました。膝の上に1枚かけている女性を見ることもあります。冷えるのでしょうね。

若い人は、これでも熱いのでしょうか。
かつて環境省は、夏の冷房は28度を推奨していました。さすがに28度は暑いと思いますが、24度でも冷房を入れるのですかね。
車内が混み合うと暑くなり、空気がよどみますが、誰も窓を開けようとしません。マスクをしている人も結構いますが、この人たちも、窓を開けませんねえ。私は、せっせと窓開けをしています。

車内で過度に冷えると、電車を降りたときが、きついです。
「寒さの夏はオロオロ歩き」(原文はカタカナ)は、宮沢賢治の詩「雨ニモマケズ」の一節です。
私は、車内で風邪を引かないように気をつけなければいけません。

地域共同体の維持

5月27日の読売新聞に「[戦後80年 昭和百年]町内会 維持へ試行錯誤」が載っていました。「地域運営組織」の続きにもなります。

・・・人口減や価値観の変化で地域コミュニティーの中心であった町内会も変革を迫られている。
タワーマンションが立ち並ぶ川崎市・武蔵小杉駅近くの「小杉町3丁目町会」は3月末、役員の高齢化などを理由に解散した。会長を務めた五十嵐俊男さん(82)は「自分たちが元気なうちに整理しよう」と決めたという。
周辺はかつて工場や個人が営む商店が集まり、40~50年前は町会に850世帯ほどが加入していた。祭りや餅つきを企画し、野球部の活動などを通じて住民が親睦を深めた。
バブル経済の崩壊後、工場が移転した跡地に超高層マンションの建設が相次いだ。一帯の再開発で住民の多くは転出するかマンションへ入居し、町会は加入世帯が半減、コロナ禍以降は地域の清掃や防犯パトロールをやめた・・・」

・・・総務省によると、町内会や自治会などは23年4月時点で全国に約29万5000ある。同省の調査では、600市区町村の20年度の加入率は71・7%と、10年度に比べて6ポイント余り低下していた。東京都内では40%を切る区もある。
国や自治体は町内会の維持を後押ししている。公共サービスを補う役割を期待するからだ。
一般財団法人「地方自治研究機構」によると、加入や維持などを主眼にした条例のある自治体は3月現在、30以上ある。4月に条例を施行した宇都宮市は活性化や防災力向上のための事業向けに補助金を交付し、地域社会への関心を高めてもらうイベントも開催する。
不動産業界と連携して売買・賃貸契約時に加入を呼びかけたり、加入率向上や負担軽減に関する業務にあたる「地域おこし協力隊」を募集したりする自治体もある。愛知県刈谷市などは、デジタル化を推進する自治会に対して補助金を交付する。
総務省も、市町村による加入促進の支援経費などについて地方交付税措置を講じている。

国などは、町内会を補完しつつ、住民自治を充実させる「地域運営組織」という仕組みに注目している。小学校区程度の範囲で、町内会やPTA、消防団などが参画し地域課題に対応する。893市区町村に8193団体(昨年度)ある・・・