子が親を超えられない世界

5月8日の日経新聞オピニオン欄に、小竹洋之・コメンテーターの「子が親を超えられない世界」が載っていました。

・・・米国では富裕層と貧困層の格差が広がっているだけでなく、親から子にも継承されやすくなっているのだ。
その窮状を映すグラフがある。「グレート・ギャツビー・カーブ」。所得格差の大きさ(ジニ係数)を横軸、親の所得が子の所得に与える影響の大きさ(世代間所得弾性値)を縦軸にとり、主要国の位置を定めると、右肩上がりの傾向を示す分布図ができる。
右上に行くほど不平等が大きく、それが次世代にも連鎖しがちなことを示す。米ニューヨーク市立大学のマイルズ・コラック教授の研究を踏まえ、アラン・クルーガー元米大統領経済諮問委員長が命名した。格差の足かせをギャツビーの物語に重ねた格好だ・・・

・・・米国だけの悩みではない。英キングス・カレッジ・ロンドンのヨナタン・バーマン助教授が2022年の論文で、子が親の所得を超える確率を推計したところ、主要10カ国全てで低下していた。米国やオーストラリアは所得格差の拡大、その他の国々の多くは経済成長の鈍化が主因だとみる。
とりわけ低下幅が大きいのは日本、米国、フランスである。3カ国の1940年代生まれの世代は最高で9割を超えていたのに、80年代生まれの世代は6割を切る。もはや子の2人に1人しか、親の所得を超えられない計算だ。
格差の拡大や固定化は、容易に止まらない。国際非政府組織(NGO)のオックスファムによると、10億ドル(約1450億円)以上の資産を保有する世界のビリオネアは、24年時点で2800人弱。資産総額は15兆ドルにのぼる。
そんな富豪たちの資産も、いまや6割が相続、コネ、独占、汚職から生まれる時代だという。スイスの金融大手UBSグループは、70歳以上のビリオネアが家族などに譲渡する資産を、今後15年間で6兆3千億ドルと見積もる・・・

関西大学経済学部で講義

今年も、関西大学経済学部に呼んでいただき、講義してきました。100人を超える学生が、熱心に聞いてくれました。近年の学生は、真面目ですね。
私の講義は、難しい理論を話すのではなく、彼らが知らない過去のできごとと、それに対して政府・役人はどのように対応したかです。これなら、わかりやすいと思います。地震の話をするのですが、高校で地学を履修した学生は一人だけでした。
もちろん、事実と体験談だけでなく、分析的なことも入れてあります。インフラ復旧だけでは、街での暮らしは成り立たないこと。企業や非営利団体、コミュニティの役割も重要なことです。

併せて、これから社会に出る学生たちに期待すること、こうすれば悩まなくても良いよという助言もしました。それが、私に期待されていることでしょうから。新聞を読んでいる学生はいませんでした。ネットでも、見ていないようです。新聞の読み方、その重要性を話しました。通じたかな。

質疑の時間は、良い質問がたくさん出ました。かつてと違い、積極的に手を挙げてくれます。その後、大学院生との意見交換もしてきました。当然ですが、学部生とはひと味違った質問が出ました。
帰りの新幹線の中で、この記事を書いています。

人工知能時代に必要な能力

5月9日の日経新聞経済教室、高東也・大阪大学准教授の「AI時代のスキル、分散化と批判的思考が軸に」から。
・・・「スキルで雇うな、態度で雇え(Don’t hire for skills.Hire for attitudes)」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。名経営者として知られる米サウスウエスト航空の共同創業者の一人、ハーバート・ケレハー氏の格言である。
この言葉の実証的な根拠は定かではないが、ここでいう「スキル」は主に仕事に特化した専門的な認知スキルを指す。かたや「態度」はモチベーションやコミュニケーション、協調性など非認知スキルを意味していると考えられる。
対話型AI(人工知能)「Chat(チャット)GPT」の出現以来、「AIが雇用を奪う」という懸念がくすぶり続けている。最新の経済学研究によれば、職業をいくつもの業務(タスク)に分けて代替性を分析したところ、生成AIによって完全に置き換えられる職業はそれほど多くないことが分かってきた。
とはいえそれが安心材料にはならない。職自体は失われなくても、仕事の内容は大きく変化していくことが予想されるからだ。ではAIが急速に進化するこれからの時代に、私たちはどのようなスキルを身につけるべきなのだろうか・・・

・・・一方、依然として人間ならではの優位性が残る領域がある。文脈に応じた深い理解や意図の読み取り、複数の視点を統合した倫理的判断などで、AIは対応の難しさを示している。特に「行間を読む」能力や隠された意味の理解は、AIの大きな壁となっている・・・
・・・図のスキルピラミッドの枠組みで考察すると、AI時代でさらに重要性を増すのがピラミッドの土台となる非認知スキルだ。対人関係力、協働力、社会的手がかりを理解・適応するスキルが含まれる。感情の機微や非言語的サインを適切に読み取り、真の共感に基づいたコミュニケーションや信頼関係を構築する力は、人間が依然としてAIより優位に立てる領域だ。

これに対し、今後大きく変容すると思われるのが認知分野のスキルセットである。世界経済フォーラムの「未来の仕事レポート2023」によると、最も重要とされたスキルは「分析的思考」だった。分析的思考は今後5年間で72%の成長が見込まれる。このスキルに含まれる推論や意思決定の能力が最も自動化されにくいため、将来も重要になると考えられている。

2位に続いたスキルは「創造的思考」で、分析的思考よりも速いペース(73%)で成長し、今後ますます需要が高まると予測されている。また「テクノロジーリテラシー」も急成長中の中核スキルであり、特にAIを有効活用するための能力が重要になっている。
これらの分析的思考や創造的思考は高度な専門性を発揮するための土台となる「基礎的認知スキル」である。学習や仕事をする際の情報処理や思考を担う汎用スキルであり、AIリテラシーも基礎的認知スキルの上に構築される。
このような現状を踏まえると、暗記や計算を重視した従来の教育システムを見直し、分析的思考や創造的思考を育成する教育モデルへのシフトが求められる・・・

人口は減っているが就業者は増えている2

人口は減っているが就業者は増えている」の続きです。記事では、労働者不足も取り上げられています。そのような報道もたくさんあります。自治体でも、職員不足に悩んでいます。
機械化やITの活用で労働者は減ると思うのですが、なぜ、労働者不足になるのでしょうか。この点についても、識者に聞いてみました。原因は、「職種のミスマッチ」のようです。

人手不足は、典型的には「介護や看護や保育」「建設や運輸や警備」など、「エッセンシャルワーカー」と言われる方々が圧倒的に足りていません。他にも、IT人材など求められる「人財」が足りていないということもあるのですが。
建設「就業」者は、令和4年平均479万人ですが、ピーク時の平成9年から30%減少しています。高齢化にもかかわらず、介護職員は、令和5年度に、調査開始以来初めて減少に転じました。
建設業も無人化施工を進めたり、介護分野も効率化に努めたりしているのですが、この分野は、労働集約型の産業であり、人手不足の解消にはなっていないのです。

製造や建設などの現場が人手不足に苦しむ一方で、事務職は求職者が求人を大きく上回っています。
ここ30年で高卒就職者は7割減ったのに対し、大卒就職者が4割近く増えたことも原因のようです。大卒は先輩たちのように事務職を目指し、高卒が就いたような作業現場を選ばないのです。しかし、求人側はそんなに事務職場が増えるわけではありません。

悩みの原因、時間管理

5月10日の朝日新聞別刷りbe「フロントランナー」は、中島美鈴・臨床心理士の「夢かなえる「時間管理」」でした。詳しくは記事を読んでいただくとして。3ページ目の「精神論ではなく、仕組みを整えればいい」から。
ご本人が、発達障害のひとつ、注意欠如多動症(ADHD)と診断され、それに特化した認知行動療法と出会います。「考え方のくせ」ではなく、整理整頓や計画立てなどの「行動」と「環境調整」を訓練する内容でした。「困りごとに合わせて、仕組みを整える。できないのは、脳の特性が理由であって、その人が悪いのではない。そして、対処法がある」。それを、広めておられます。
ここでは「時間管理」と書かれていますが、私が言う「段取り」(「明るい公務員講座」)と共通するところがあります。

――なぜ、時間の管理に着目を?
自治体職員や大学の相談室、医療機関、主宰する心理相談所などで、心の悩みを聞く仕事を続けてきました。離婚、解雇、友達との絶縁などの困りごとって、実は時間管理が原因で起こることが多いのです。
例えば、遅刻が多い、書類が期限までに仕上げられないなどで解雇。生活リズムが整わず、家事や育児が回らなくて離婚。友達に借りたお金を返すのが遅くなったりLINEの返事が遅すぎたりして絶縁……。先延ばしや時間管理の問題で行き詰まっている人は多く、高学歴や、社会的に地位のある仕事をしている人たちにもいました。

――時間管理ができる人と、できない人の違いはどこにあるのでしょうか。
目に見えない「時間」という概念をあつかう時間管理は、脳の働きの中でも一番高度なものです。
時間管理は、脳の「実行機能」がうまく働くとできて、四つのステップがあります。まずは「スタートする」、次に「計画を立てる」。そして、時計などを見ながら「進捗をモニタリングする」。最後に「脱線を防止する」。この四つがすべてそろわないと、時間管理はできません。
ADHDの特性があると、この実行機能がうまく働かないことがわかっています。日常生活への支障が大きいと診断につながります。ただ、ADHDの場合、薬を飲んで集中力を増すことはできても、時間管理のように高度で複雑なはたらきを改善するには限界があります。
どこが苦手かは、人それぞれです。でも、どこでつまずいているかがわかれば、手を打つことができます。

――どのように対処するのでしょうか。
例えば、スタートが切れないなら、最初のステップを小さくします。計画を立てる時は、まず自分の時間を把握するところからはじめます。それから、やるべきことを書き出してToDoリストにしたら、それを何月何日の何時にやるのか、まで決めて手帳に書き込みます。未来の自分に予約を入れる。ここがすごく大事です。
やり始めたら、スマホのアラーム機能などを使って時間を確認します。脱線しやすい人は、カフェなど自分が集中できる環境で取り組むことも一つの方法ですね。
苦手なのは、性格ではなく脳の特性のせいですから、精神論ではなく、仕組みを整えればいいんです。「自分を責めないで」と伝えたいですね。