働き方の多様化、週休3日

4月28日の日経新聞に「週休3日選べる世の中に」が載っていました。
・・・週休3日をうたう企業や自治体が少しずつ出てきているが、社会に定着しているとはいえない。そこで、決意も込めて社名にした。
「株式会社週休3日」
永井宏明さん(48)が代表を務める、人材紹介などを手掛ける会社だ。求職者を週休3日で勤務可能な会社にマッチングしたり、働き方の見直しを進める経営者を支援したりしている。
仕事と家庭、趣味のバランスに苦労した経験に加え、「なぜ多くの会社が週休2日なのか」という疑問が、起業を後押しした・・・

ご本人は、週1日勤務や4日勤務などを経験しました。
・・・施設長に就くと職員の人手不足に直面した。そのとき思い出したのが、かつての自身の働き方だ。「週5日働けず、あきらめている人に届くかも」。募集の際に「週3日休めます」と掲げると、数えるほどだった応募が次第に増えた。人手が確保され職員も明るくなったような気がした。
ひとり親世帯や、介護などに向き合う人からの応募が多かった。家庭環境が落ち着くと「週休2日にしてください」と申し出る人もいた。元から在籍していた社員も、余裕がないときは週休3日に切り替え、離職率は大きく下がった・・・

・・・持続可能な働き方の仕組みと確信した。16年に退職し、「株式会社週休3日」を起業した。
滑り出しは大赤字だった。医療機関や福祉施設などと提携したが「週休2日で働いてきた今の従業員が『不公平』と強く反対している」と断られ、紹介先がゼロに。資金が底をつきかけた。
そんなとき、調剤薬局から相談があった。薬剤師が採用できず、従業員が疲弊しているという。週休3日という働き方を打ち出していけば応募が増えると提案したところ、導入を決めてくれた。
地方の調剤薬局を中心に依頼が増え、今は薬剤師業界の人材紹介を柱に事業展開している・・・

週に何日働くか、また一日に何時間働くか、何時から何時まで働くか。一律に週休2日、8時半から17時までと決めつけず、多様な勤務形態があっても良いですよね。労働力不足の時代に、子育て中の夫婦や、一日中働くのはいやだという高齢者に適した勤務形態を用意して、労働参加してもらうのです。
画一的な「勤務」は、学校や企業などで普及しました。自営業などでは、比較的自由な勤務ができました。企業で画一的な勤務を強制できたのは、夫が働き妻が家庭を守るという性による分業だったからでしょう。学校でも、画一的な授業時間についていけない子どももいます。

70歳の半分は35年

勲章をもらって、70歳になったことを実感しています。60歳が還暦で、かつては人生の大きな区切りだったのですが。私は60歳の頃は復興庁勤務で、仕事の最中でした。

明るい公務員講座 仕事の達人編』(195ページ「人生を企画する」)で、「概ね20歳ごとに人生を区切るとわかりやすい」と説明しました。
最初の20年は学生で、人生の準備期。次の20年は、仕事を覚え役に立つ時期。40歳が人生の折り返しです。次の20年は、仕事で組織や社会に貢献する時期、60歳で引退して、次の20年は「余生」とです。
退職年齢が引き上げられて、この数字も少し伸ばす必要があります。

先日、取材を受けた記者は36歳とのことでした。「なんや、私の半分か」
それで考えてみたら、70歳の半分は35歳。私が生まれたのは昭和30年(1955年)で、それから35年後は平成2年(1990年)でした。今年は平成で言えば37年です。私の人生前半はほぼ昭和後期で、後半は平成だったのですね。バブル経済崩壊が平成3年(1991年)で、見事に日本社会の変化に対応しています。
36歳の記者は、日本の元気だった時代を知らないのですね。

紙の教科書、電子の教科書

4月25日の読売新聞「デジタル教科書の拡大」から。
・・・中央教育審議会の作業部会が、紙と同様にデジタル教科書を「正式な教科書」に位置づけることを提起している。作業部会では、国民や教育関係団体からの意見を踏まえ、今秋までに結論をまとめる見通しだ。デジタル教科書の特性について、識者3氏に聞いた・・・

酒井邦嘉・東京大教授の発言
・・・人間の脳の特性を踏まえると、学習に最も適しているのは紙媒体だと言える。
人間の脳は、いつ、どこで、誰が、何をしたかをエピソードとともに覚える。紙の教科書であれば、どのページのどこに書かれていたかの位置関係や、手触りといった様々な手がかりがあり、内容を深く記憶することが可能になる。
NTTデータ経営研究所や日本能率協会マネジメントセンターと行った共同研究では、紙の手帳に予定を書き留めると、スマートフォンなどの電子機器を使う時よりも短時間で記憶できた。手帳に書き込んだ内容を思い出す時の脳の状態は、電子機器より、言語、視覚、記憶に関わる領域の血流が増え、活発に働いている様子が確認された。

海外の研究でも、紙の方が脳の働きを促し、理解度を深めることが判明している。
スウェーデンのカールスタード大学などが行った実験では、大学生を二つのグループに分け、パソコンの画面と紙とで、同じ内容を読んだ際の理解度を比較した。一つのグループは電子ファイルにした文章をパソコンの画面で読み、もう一方は印刷した紙で読んだ。読解テストを実施したところ、紙で読んだグループの方が成績が高かった。紙の方が、与えられた情報を脳の中で関連した記憶と結びつけ、よりよく理解することができていた。
ノルウェーでも高校生を対象とした同様の実験が行われ、こちらでも紙で読んだグループが良い成績を上げた・・・

・・・国は学習用端末を配備し、教育のデジタル化を急ピッチで進めようとしている。だが、デジタルの利点は教育において、むしろ裏目に出ることが多い。
最近の教科書にはデジタル教材につながるリンクが多く載っているが、情報過多となり、逆効果だ。リンクがある度にそのまま読み進めるかどうかの判断を迫られる結果、思考を巡らせながら読むことができなくなり、理解の妨げとなる。
検索機能や動画の視聴など、様々な機能があるほど便利にはなるが、その一方で思考力や創造力が奪われ、人間は脳を使わなくなってしまう。
偉大な科学者たちは紙の本とノートで学び、革新的なアイデアを生み出してきた。子どもたちの脳の成長を促すためには、紙を使用した質の高い教育が欠かせない・・・

アンデルス・アドレルクロイツ、フィンランド教育相の発言
・・・フィンランドの一部の都市では、デジタル教科書から紙の教科書へと回帰する動きが出てきている。紙の本の重要性が再認識されているためだ。
デジタル化社会を見据え、児童生徒一人一人にノートパソコンを配布するなど、教育現場ではICT(情報通信技術)を早いうちから導入してきた。子どもの学習意欲やICTスキルを高めることが期待されていた。
だが残念ながら、世界の15歳の学力を測る「PISA(国際学習到達度調査)」の成績は、低迷傾向にある。初回の2000年にフィンランドの読解力は世界トップとなったが、直近の22年は14位と、この20年間で徐々に順位を下げてきた。数学と科学の分野も、それぞれ同様に下降線をたどっている。

読解力が低下した背景には、紙の本を以前に比べて読まなくなったことがある。社会や教育の場でデジタル化が進み、子どもたちの読書量が減った。それにより、集中力を維持できず、長文の内容がつかめないなどの悪影響を及ぼすようになったとみられる。
読解力は他の教科の成績と強い相関関係があり、全ての学びにつながる最も重要な力だ。政府は子どもたちの基礎学力を向上させるため、7歳~12歳を対象に「読む」「書く」の授業時間を増やすことを決めた。
子どもには、紙の本を読んでゆっくりと考えさせる教育的アプローチの方が有効だと考える。完全に教材をデジタルに移行した学校もあるが、今後は全ての子どもたちが紙の教材を使えるようにしたい・・・

日本語の表記1

日本語を表記するのに、何種類の文字と記号を使うと思いますか。通常は、ひらがな、カタカナ、漢字ですよね。NHK(日本放送協会)サイトの「やさしい日本語 日本語の文字」にも、次のように書かれています。
「日本語には3種類(type)の文字があります。ひらがなとカタカナと漢字です。」

しかし、違います。この文中にもtypeとあり、NHKも通常は日本放送協会とは言いません。アルファベットなしでは、日本語は書くことができません。日常の文章、例えば新聞ではNHKと表記します。日本放送協会自体が、そのように書いています。国語辞典では「エヌ・エイチ・ケー」と書いて、検索します。
巻末にアルファベット単語が並んでいる辞書も多いです。かつては、英単語をカタカナにして文章に入れたのですが、最近はアルファベットのままで文章に入れることが増えています。例えば、SNSとか。一度その視点で、新聞を読んでみてください。

「日本語は、漢字仮名交じり文で書く」と教えられましたが、変更する必要があるでしょう。「漢字仮名アルファベット交じり文で書く」と。
携帯電話で文章を打ち込む際に、わかります。文字の変換で、ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベット、アラビア数字を選択します。このほかに記号や符号、ローマ数字もあります。

ところで、JRも悩む単語です。JR東、JR東海など個別の会社は、東日本旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社という漢字表記があるのですが、JRは漢字と仮名に置き換えることができないのです。
ウィキペディアには、「日本国有鉄道(国鉄)の分割民営化により1987年に発足した鉄道事業者の統一的総称。6つの旅客鉄道会社と1つの貨物鉄道会社などから構成される。全体としてJRグループ(JR-GROUP)とも呼ばれる」とあります。もう38年も前の話で、若い人は国鉄を知りません。このような説明で通じますかね。
変な日本語、カタカナ語」「カタカナ語乱造者

事業の中止を提言する

日経新聞私の履歴書、5月は、磯崎功典・キリンホールディングス会長です。5月13日の第12回「LAホテル事業 全日空との協業中止提言 損失回避へ役員を説得」から。日本を代表する大企業で、こんな状況なのですね。いえ、日本を代表する企業だからこそ、日本文化を反映しているのでしょう。詳しくは原文をお読みください。

・・・1991年。米国留学とミズーリ州での実地研修でホテルの経営を学んだ私が、直後に任命された仕事が「LAプロジェクト」だった。
キリンビールが米ロサンゼルスで進めていたホテル開発プロジェクトの担当となったのだが、採算的に無理のある計画だったので、駐在事務所の上司に中止を進言した。
「会社が決めたことなんだから、君は言われた通りホテルをつくって運営すればいいんだよ」と言われた・・・
・・・ホテル業を学んだ成果が早速生かせる仕事だ。計画を精査するとともに、事務所の目の前にある建設予定地に足を運び、「このホテルは成功するのか?」と自問自答しながら定点観測を繰り返した。総工費は200億円を超す見込みで、コンセプトは正しいのか、コストと収益のバランスはどうか、客室稼働率はどうか、いいスタッフが集まるか……。熟考した末、「中止した方がいい」と確信した。
冷戦が終わり、軍事産業が盛んだったカリフォルニアは不景気で、街にホームレスが溢(あふ)れていた時代。経営環境が激変したのに、まずは建設ありきで社内は進んでいた。

同じ事務所で働く上司が動いてくれないなら、私が本社に中止を提言するしかない。上司に了解を取り、当時はメールがなくFAXで送った。
担当役員が日本から飛んできた。困った表情で「経営会議で決まりメディアにも出たこと。全日空という相手もいるんだから無理を言うな。俺の立場にもなってくれ」。役員はそう言って帰国したが私は納得いかず、その後も本社にFAXを送り続けた。

キリンで一番ホテルを知っている私が、失敗することを分かっていながら見て見ぬふりをするわけにはいかない。建設がスタートすればもう戻れない。ホテル経営がいかに大変か、ミズーリ州の実地研修で身に染みている。米国は労働組合が強く、簡単に合理化できない。開業後に撤退となれば、膨大な損失がでるはずだ。会社が大変な重荷を背負うことが目に見えていた。
執拗に言い続けたからか、ついに担当役員が全日空側の幹部に見直しを提案した。すると思わぬ答えが返ってきたという。「実は我々もその言葉を待っていたんです。ホテル事業は難しく旅客事業に集中したい」。全日空側の本心としてはプロジェクトを中止したかったのだが、自らキリンを誘った手前、やめようと言い出せなかったようだ・・・