アテンション・エコノミー

3月28日の朝日新聞オピニオン欄は「奪い合うアテンション」でした。
・・・インターネットの普及で、人々の関心や注目が経済的な価値を持つ「アテンション・エコノミー」はますます社会に浸透している。何が起きているのか。乗り越える方策はあるのか・・・

馬籠太郎・電通デジタルマネージャーの発言から。
・・・アテンション・エコノミーは、広告業界においてはもともと商売の要です。看板や新聞の広告、テレビCMといった従来型の広告でも、アテンションを引くということが商売のもとになっていると言えます。

ただ、デジタル広告が従来型の広告と違うところは、人々の反応のデータが取れることです。どれくらいの人がクリックしたかとか、動画であればどれくらい表示されていたかとか、ユーザーの属性ごとに細かくリアルタイムで分かります。従来型の広告だと、掲載してから反応が見られるまで割と長かったのですが、デジタル広告はフィードバックがすごく速くなってきたと言えます。
スマートフォンの普及も大きいでしょう。今までであれば、テレビを消したりラジオを消したり、雑誌を閉じたりすれば、アテンションはおしまいです。でもスマートフォンは手もとにあるので、いつでもコミュニケーションが取れる状態です。アテンションを強く引くものが出てきた場合、ずっとそれに縛りつけられた状態になってしまいかねません。

人間の時間は有限ですが、情報空間にある情報は膨大に増え続けています。だから、アテンションがより価値を持ってくるのだと思います。ユーザー側の貴重な時間をいかに割いてもらうかがポイントですし、そのための手法がいろいろと考えられています。
良いアテンションと悪いアテンションというのがあるとすれば、扇動的になったり、過度に刺激的になったりするのは、悪いアテンションでしょう。ネガティブな感情に働くものは割とアテンションを引きやすいと思いますが、アテンションを引ければ何でもいい、というような話は危険だと思います。偽・誤情報が広がってしまう恐れがありますし、そうなると情報空間自体の信頼性がどんどん下がってしまいます・・・

ベトナム国戦略的幹部研修

今日4月22日は、政策研究大学院大学での、ベトナム政府の国戦略的幹部研修講師に行ってきました。今回の対象者は地方政府幹部で、私の講義は「リーダーシップと危機管理」です。19人の方が、熱心に聞いてくださいました。

十分な質疑の時間を取ったのですが、次々と鋭い質問が出て、予定時間を超過しました。予測はできなかったのか、予算確保の方法、塩害に遭った農地の復旧、がれき片付け、保健の問題など。地方政府でそれぞれの分野に責任を持っている人ならではの、質問がありました。
的確な質問が出ると、うれしいですね。私の話が理解されているということですから。

ベトナム政府は、大胆な行政改革に取り組んでいるとのことです。中央省庁の統合と、地方行政単位の統合です。後者は、「省・郡・社」の3層構造から「省・市」と「社」の2層構造に移行し、63ある省と中央直轄市を34(28省+6市)に再編します​。なかなか大胆な行政改革です。
人口は約1億人、面積は約33万平方キロ。日本と似た状況ですから、驚くことではないでしょう。ところで、職員の配置転換、削減はどのようにするのでしょうか。

新型コロナ風評被害、ハンドドライヤー

4月5日の朝日新聞「コロナ5年 今考える」2「風評被害 根拠なく使用禁止、消えぬイメージ」。ハンドドライヤー製造販売会社社長、井上聖一さんの発言から。

新型コロナ流行時、トイレで使用禁止になったハンドドライヤー。この対策は、明確な根拠なく決まり、禁止が続いた。ハンドドライヤーの製造販売を手がける「東京エレクトロン」(神奈川県)の井上聖一社長(74)は、今も影響は続き「風評被害で、人生が大きく変わってしまった」と語る。

――今の会社の状態は?
売り上げは、今もコロナ禍前の半分ほどです。ハンドドライヤーは年間2500~3千台ほど売れていたのが、コロナ禍はほぼゼロに。2023年5月にコロナが感染症法の5類になった後も回復しきらず、去年は700~800台ほどでした。今は売り上げの3分の2が、ハンドドライヤー以外です・・・
コロナが世間で注目されるようになった頃は、ビジネスチャンスだと思ったんです。というのも、09年の新型インフルエンザ流行時には、ハンドドライヤーの売り上げが年1千台以上も増えました。新型コロナでもそうなるだろうと、韓国の関連企業に増産を指示し、中国から300台を緊急輸入しました。
おかしいなと思ったのは、少し経って「エアロゾル感染」が報じられるようになってからです。

――20年5月に政府の専門家会議は業種ごとの感染防止ガイドラインをつくるよう提言。その中の「留意点の例」に「ハンドドライヤーは止める」と記載され、各業界団体のガイドラインのほとんどに使用禁止が盛り込まれました。
レンタル解約の連絡が止まらなくなり、新規の注文もゼロに。倉庫には在庫の山ができました。
調べてみると、WHO(世界保健機関)は手を洗った後はハンドドライヤーなどを使って乾かすべきだとしていましたし、禁止したのは日本だけでした。

――なぜ禁止になったのだと?
当時はまだ新型コロナは未知のウイルスで、社会の不安が大きかったのは分かります。それでも、専門家が何の実験も検証もせずに禁止を勧めたことには今でも憤っています。禁止になると死活問題になる会社があることを全く考えていなかったのでしょうね。
国を訴えようと顧問弁護士に相談しましたが、費用と時間がかかりすぎるので諦めました。まず、ハンドドライヤーが感染につながらないことをアピールするため、実験をしました。

――その結果は?
ハンドドライヤーを介して手から手にウイルスが移ることも、風でウイルスが飛散することもないというものでした。会社ホームページに報告書を載せ、誰でも読めるようにしました。

――政府は22年10月になってようやく、ガイドライン見直しのポイントに「ハンドドライヤーは、使用できる」と明記しました。
5類移行の検討が話題になった頃から、少しずつ注文が入るようになってきました。ただ、移行後にどっと増えるかと思ったらそうはなりませんでした。悪いイメージが定着してしまったのだと思います。

催し物の経済波及効果2

催し物の経済波及効果」の続きです。記事を読んだ知人から、次のようなことを教えてもらいました。

総務省が「産業連関分析のための各種係数の内容と計算方法」(「平成27年(2015年)産業連関表(-総合解説編-)」第5章)を公表していて、その最後に「第8節 産業連関分析上の留意点」(19ページ)が載っています。そこに、次のような記述があります。

(1) 発生した最終需要の源泉は問わない
波及分析は、与件データとして需要額を与えることから始まるが、その需要額が何によってもたらされたかは考慮しない。
家計を例に取ると、一部の支出が増加した場合は、所得に変化がなければ、他の支出が減少する。その減少は、いわばマイナスの経済波及効果をもたらしているといえる。もし、貯蓄を取り崩して消費を続けたとしても、貯蓄の減少は投資の減少を通じて、マイナスの経済波及効果をもたらす可能性がある。
産業連関分析は、あくまで生産・分配・支出の循環の一部分を切り取った分析であり、その他の部分は、変化がないことが前提となっている。

(2) 波及の中断等
次に掲げるような場合には、波及の中断等により、短期的には、分析結果ほどの波及が生じないことがある。
ア 需要が生じたとしても、部門ごとに当該需要に応えられるだけの生産能力が常にあるとは限らない。発生した需要が生産能力を超えている場合、実際には、波及の中断が生じる場合がある。
イ 需要が生じても、過剰在庫を抱えている部門においては、過剰在庫の放出で対応することが考えられ、その場合には、期待する程の波及効果が生じない可能性がある。
ウ 需要の増加による雇用者数の誘発についても、現状の人員の範囲で時間外勤務の増加で対応した場合、雇用増には結びつかない場合がある。

(4) 波及効果が達成される時期
産業連関分析において、波及効果がいつの時点で達成されるかは明確にされない。

とのことです。
「家計を例に取ると、一部の支出が増加した場合は、所得に変化がなければ、他の支出が減少する」
「需要の増加による雇用者数の誘発についても、現状の人員の範囲で時間外勤務の増加で対応した場合、雇用増には結びつかない場合がある」
私の疑問そのものでした。
まあ、ええかげんな数値なのですね。政府が発表した大阪・関西万博の経済波及効果もこの方法を取っていると、3兆円という数字は鵜呑みにしてはいけませんね・
催し物の度に、研究所などが経済波及効果を発表します。それらも、これと同じなのでしょうか。すると、それらの数字は信頼性を失っていくでしょうね。

小中学生が使う情報端末

3月23日の朝日新聞「「1人1台」はいま 上」「学校端末でゲーム、戸惑う現場」から。
・・・小中学生が学校で使う1人1台の情報端末で、授業中や休み時間にゲームをする子がいる――。朝日新聞教育班にそんなメールが届きました。実態と対処法について、2回に分けて報告します。まずは実態から。

メールの送り主は、さいたま市で学習塾を経営する吉田雅人さん(74)。塾生の小学生から、学校で使う端末で児童が自由に使えるプログラミング学習ソフトを開くと、本格的なゲームが体験できるようになっていると聞いたという。
「使用が長時間になり、端末への『依存度』が高まっている。最近、子どもの読解力や表現力が落ちていると感じており、関係がないか、心配している」
この小学生たちに話を聞かせてもらった。
さいたま市立小4年の女子児童(10)によると、クラスの担任の若手教員は余裕がなさそうな様子で、休み時間は不在にすることが多かった。児童らは、休み時間に果物を用いたパズルに似たゲームなどをするようになり、やがて、端末を使う授業の際にこっそりやる子が出てきた。このソフトは教材として使用を推奨しているものだけに、担任は発見しても強く注意できなかったようで、歯止めはかからなかった。
担任は授業にこなくなった。その後、別の教員が授業を担当するようになり、プログラミングソフトでのゲームは禁止に。ただ、自習が多くなる日もあり、漢字や計算などゲーム形式のドリルに夢中になる子もいるという・・・

・・・さらに、別の小学校の6年の女子児童(12)によると、端末の利用を制限するフィルターを解除する方法が児童の間で広がっている。なかには解除したうえでオンラインゲームをする子がいるという。
文章を書く宿題をする際、多くの子が生成AIを利用しており、でてきた文章をほとんど変えずに提出する子もいる・・・