ニュース砂漠がもたらすもの

3月14日の朝日新聞オピニオン欄「ニュース砂漠がもたらすもの」、小川明子・立命館大学教授の発言「民主主義への役割、理解を深めて」から。

―「ニュース砂漠」という言葉をよく聞きます。
「米国で、地域独自の新聞を持たないエリアをそう表現したのが始まりです。情報のデジタル化とネット広告の浸透によって購読者数や広告収入が減少し、世界中でニュース企業の経営難が進んでいます。買収、統合と記者の解雇などにより、地域発のニュースが大きく減少しているのです」
「米国では、ニュース砂漠になった地域で、ローカルな政策について住民が議論する機会が失われ、行政のコスト意識が緩んで財政状況が悪化したり、汚職が増えたりすることが明らかになっています」

―日本の状況をどう見ていますか?
「日本でも、新聞社などの支局閉鎖や記者の削減で各地の取材網が縮小しています。全国紙やブロック紙、県単位の新聞に加え、市町村単位のニュースを伝える地域紙やコミュニティー放送局も力を失い、休刊や閉鎖が続いています」
「民間の広報支援企業が昨年、都道府県と全市区町村にアンケートをしたところ、回答した自治体の約3割に記者クラブがある一方で『5年前と比べて滞在する記者が減った』という回答が4割超に上りました」

―メディアの収入減にどう対処すべきですか。
「海外では、財団の資金援助やクラウドファンディングなどに加え、個人の寄付を募集するメディアもあります。例えば英国のガーディアン紙では、購読料ではなく寄付というかたちで500円程度からの少額の資金提供を募っています」
「これからは、正確な情報を伝えるメディアをサポートし、健全な情報環境を保つためのコストを支払うという意識が大切になってきます。好きなメディアに今後も存続して欲しい、と考える人は日本でも少なくないはずです」
「公的支援をしている国もあります。韓国では、健全なジャーナリズムの振興を目的に政府によって財団が設立され、2020年には約8億円が地域新聞に支払われています」

「たとえ1人でも、自治体や公的団体は『記者がいるから』と緊張感を持つ。誰かが見ているという監視カメラのような存在がいるだけで大きな違いがあります。安定した収入のない点が共通に抱える課題です」

集団移転した地区で見えた課題

NHKウェッブが、東日本大震災で「集団移転した地区で見えた課題は」を特集しています(3月17日掲載)。

・・・集団移転先として整備された住宅地は324地区。集団移転した人たちの暮らしはいまどうなっているのか。私たちは宮城、岩手、福島の地区で大規模なアンケートを実施。174の地区から回答を得ました・・・

良かった点と悪かった点が、整理されています。
近所づきあいや町内会が、安心をもたらしています。これは、行政では提供できないものです。東松島市あおい地区が紹介されていますが、小野会長が中心になって作り上げてきたものです。市役所も、災害前から町内会支援に力を入れていました。
他方で、小規模な集落では、高齢化とその維持が課題になっています。これは、当時から心配していたことです。

・・・「現在、空き家がある」と答えた地区は174地区のうち64地区ありました。一方で、「過去に空き家になったところに被災者以外の人が住んでいる」と答えた地区は37ありました。
宮城県南三陸町では、自然豊かな環境を気に入ったなどとして移住定住センターを利用して移り住んだ人がこの10年近くで140人以上にのぼっています。地区では移住者が将来の地域の担い手になってくれることを期待しています・・・

部長なのに「大課長」 

3月3日の朝日新聞に「部長なのに「大課長」 今月の数字ばかり気にする・各論に口を出す」が載っていました。拙著『明るい公務員講座 管理職のオキテ』に書いたことです。

会社組織のなかで部長、本部長、局長などに昇進しても、マインドと振る舞いは課長のまま――。そんな会社のエライ人を「大課長」と呼び、引き起こす問題を「大課長問題」と呼ぶそうです。経営コンサルティング会社・リデザインワーク(東京)CEOの林宏昌さん(43)に話を聞きました。

―「大課長」とは?
「10年ほど前から、人事コンサル業界で使われ始めました。課長と同じような仕事をしている部長や本部長らを指します」
「課長は短期的な目標に責任を負い、部長以上は年間計画などの中長期の目標を考え、責任を担う立場。それが部長以上になっても短期成果に目線が寄り、ひたすら口をはさみます」
「『今月の数字ばかり気にする』『各論に口を出してくる』『人材育成に手がまわっていない』。そうささやかれる部長以上がいたら、それが大課長です」

―大課長がいることで起こる問題とは。
「まず、報告業務が増えます。課長が短期的成果を部長に報告するようになり、部長が課長に指示を出す。本来ならしなくていい業務です。部長以上が短期的な仕事に時間を取られるようになるため、未来に向けた戦略の練り込みや議論が減ります。課をまたいだ業務改善、1年後の組織のあり方、人材育成……。将来的に大事な仕事に手が回らず、向かう先が分からないまま仕事をすることになります」

―なぜ、そうなってしまうのでしょう。
「課長は、部長は、本部長は、局長は『何をする人』なのか。その違いがぼんやりしているからです。『部長になった。で、何をしたら?』となってしまい、これまでやってきたことの延長をしようとして『大課長』になるのです」
「評価マニュアルなどには役割が書かれているんです。でもほぼ無視されています。日本企業の多くは、実態に即した役割整理をきちんとする必要があると感じます」

―管理職を選ぶ過程には問題はないのでしょうか。
「日本の企業は、平社員の中のトッププレーヤーが評価されて管理職になっていきます。ただ、管理職に求められるのはマネジメント。名プレーヤーが名監督ではないのと同じく、営業力がピカイチな人がマネジメント能力もピカイチかというとそうとは限りません」
「さらに、『あいつ頑張っているから』で選ぶ。『管理職のお年頃だから』『(管理職にしないと)かわいそう』でも選ぶ。結果、就けるためのポストを作ることもあります。多くは組織が小割りになってうまくいきません」

約8割が管理職になりたくない時代

約8割が管理職になりたくない時代だそうです。日本能率協会マネジメントセンター「77%が「管理職になりたくない」

しかし、この議論の立て方が、間違っているのではないでしょうか。
採用された社員や職員が全員、管理職になれるわけではありません。かつては、管理職になる社員・職員と、そうでない社員・職員は、採用もその後の配属と出世も異なっていました。上級職と中級職や初級職です。学歴と採用試験で、明確に分かれていました。典型は、軍隊です。将校と兵とは、はっきり区別されています。全員が管理職を目指すと、人事課も困るでしょう。
また、社員や職員が全員、職場に全てを捧げているわけでもありません。別に生きがいを持っている人、趣味を優先する人、家族の事情などで職場だけを優先できない人もいます。

大学卒が増えて、学歴による区分が機能しなくなり、他方で「平等主義」によって「差をつけない」ふりをしてきました。多くの人は出世したいでしょう。しかし、管理職は誰もができるような仕事ではなく、本来はそんなお気楽な仕事ではありません。
管理職を目指す競争は、本人の技能を磨く上でも有用であり、組織としても活性化するという利点があります。しかし、いずれ全員が管理職になれないことがわかります。その際の本人と会社側の対応が難しいのです。
冷たいことを言うようですが、それが現実です。

なおこのほかに、管理職とは名ばかりで、業務も変わらず負担が増えるだけ、給料も上がらないといった問題もあるようです。魅力がなければ、目指しませんわね。

アイケンベリー教授、世界秩序の変遷

アイケンベリー教授、トランプ現象」(米主導の国際秩序 揺らぐ)の続きです。

・・・トランプ現象は世界秩序の危機と連なっています。
世界秩序は、20世紀のナチスの台頭・第2次大戦・ホロコースト・広島長崎原爆という一連の危機を経て、米欧民主諸国が国際主義に基づいて構築したのが起点です。戦後の東西冷戦の産物でもあり、西側「自由世界」内部の秩序でした。その成果を幾つか挙げると、第一に米国を盟主とする北大西洋条約機構(NATO)を創設して集団防衛体制を敷いたこと。第二に貿易は自由放任ではなく適度に管理したこと。第三に敵国だった日本とドイツ(当時は西独)を陣営に組み込んだこと。日独は共に非核大国の道を進み、西側の支柱になります。第四は仏独が和解し欧州統合に踏み出したこと。第五は国際通貨基金(IMF)や世界保健機関(WHO)など多国間機構を作り、国際協調を実践したこと。西側は旧来の「帝国の秩序」を脱し、「無政府状態」に陥ることもなく、繁栄を享受します。1989年に冷戦が終わり、91年にソ連が解体すると西側秩序は世界秩序へと一気に拡大します。

しかし21世紀に入ると、この秩序は揺らぎ始める。発端は2003年の米国のイラク戦争。米国はイラクの大量破壊兵器保有を理由として、仏独などの反対を無視して侵攻し、イラク政権を打倒しますが、大量破壊兵器は存在せず、自らの威信を傷つけてしまう。次は08年の米国発の世界金融危機。米国の新自由主義路線が頓挫します。そして中国の台頭。米国は01年、「中国は経済成長すれば、民主化する」と信じて世界貿易機関(WTO)に迎え入れたのですが、見込み違いでした。経済大国化した中国は民主化に向かわず、米国に対抗してきた。実は西側秩序が世界秩序に変容した時、危機は内包されたといえる。自由民主主義・国際主義の価値観が世界で共有されることはなかったのです。

ロシアのウクライナ侵略は戦後秩序の破綻を示しています。ただ地政学上、より重大な脅威は中国の挑戦です。戦後80年の世界は歴史的転換期を迎えたといえます。
人類の運命を左右し得る転換期に米大統領がトランプ氏であることに私は危惧を覚える。喫緊の課題は国際主義の原則を確認し、西側の結束を固めることですが、同氏は関心を示さない。むしろ帝国的勢力圏の拡大を企てているように見える・・・