日経新聞「私の履歴書」、尾身茂さんの第4回(3月4日)「3つの密」から。
・・・世界保健機関(WHO)は2020年3月11日、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を宣言した。諸外国が講じた公衆衛生上の対策はまちまちだった・・・
・・・急激な感染拡大が起きて医療が逼迫すれば救える命が救えなくなる。医療崩壊は絶対に回避しなければならない。そうした思いから専門家会議は3月9日に「感染拡大の防止に向けた日本の基本戦略」をまとめた。
社会・経済活動への影響を最小限にしながら感染拡大防止の効果を最大限に引き出すにはどうすればよいか。その一つが「クラスター(集団)対策」だった。
感染が確認された人が過去に訪問した場所などを調べ、共通項を見つけ出しクラスターの発生源を突き止める。そして次のクラスターの発生、つまり感染の連鎖を断ち切る。そのための調査が「後ろ向きの積極的疫学調査」だ。
実はこの調査を通じ、押谷仁さんと西浦博さんが重要な点を突き止めた。換気の悪い「密閉」、多くの人が集まる「密集」、近距離での会話や発声といった「密接」の「3つの密」が重なった場面で感染が広がるという・・・
・・・クラスター対策などにより、パンデミック初期には急激な感染拡大は防げたが、3月後半の3連休を控え、リンクのわからない感染者が増えてきた。オーバーシュート(爆発的な患者の増加)の懸念は払拭できず、新たな策を講じなければならなくなった。
3月19日の提言書を巡って国と専門家との間でこんな攻防があった。西浦さんがこのまま何もしなければ、人工呼吸器の台数を超えるほど感染が拡大する地域が出てくるとのデータを盛り込もうとした。すると「そんなものを入れてどうするんだ」と厚生労働省の担当者が猛反対した。
推計データによって不要な不安を国民に与えるべきではない。国はそう考えたのであろう。一方、私を含め専門家は、データを基にした結果はありのままに国民に伝えるべきだと思った。
巨大地震の情報発信にも似たところがあるのかもしれないが、災禍におけるリスクコミュニケーションの難しさである。
西浦さんと厚労省との話し合いの結果、西浦さんのデータは専門家会議の見解として盛り込まれた。そして同時に提言書の最後に緊急事態宣言の発動の可能性にも初めて言及した・・・