地方税偏在とその対応

1月30日の朝日新聞オピニオン欄に、砂原庸介・神戸大学教授の「「標準的なサービス」超える自治体施策 東京都の留学助成から考える」が載っていました。
・・・東京都の小池百合子知事は、大学生などを対象に海外留学の費用を助成するという方針を1月に明らかにした。保護者などが都内在住であることなどを条件としつつも、所得制限なしに助成が行われ、1年間で最大300万円を超える規模になるという。
このような方針は、広く若年層に海外生活を経験する機会を提供する一方で、東京に住んでいるかどうかで得られる機会に差異がもたらされる。もともと多様な機会に恵まれやすい東京出身者とそうでない地域の出身者の格差が拡大する可能性もあるだろう・・・

・・・このような差異はなぜ生まれるのか。直感的には東京の財政力が強いからだ。確かにその通りだが、この差異が何を意味するのか、もう少し考える必要がある。一般に日本の自治体には、国が作成する地方財政計画のもとで積み上げられる「標準的なサービス」のための支出を可能にするような収入が確保されるしくみがある。自治体の収入としてまず地方税などから計算される自治体の標準的な収入があるが、足りない場合には「標準的なサービス」のための支出との差額を地方交付税で埋めることとされているのだ。
東京都の場合、標準的な収入が、「標準的なサービス」のための支出に必要な額を大きく超えている。そのために、地方交付税交付金を受け取らずに「標準的なサービス」を提供できるだけでなく、それを大幅に超えたサービスの提供も可能だ。そして日本では法人税の一部も地方税とされているので、景気が良くて税収が増えるとサービスを提供する余地がより大きくなる。

他方、個人が支払う税金を考える場合、所得や固定資産に対する比率という意味で、地方税の負担が住む地域によって大きく変わるわけではない。たとえば個人への所得税であれば、だいたいどこに住んでいても所得の10%が税となる。ということは、個人から見ればどこでも同じように地方税を払っているのに、多くの自治体では「標準的なサービス」が提供されるのに対して、東京のように法人税が多い自治体では、はじめから標準を超えるサービスが可能になるのだ。
これまで日本では、「標準的なサービス」に多くの内容が含まれ、それを通じて国が地方を強くコントロールすることに批判もあった。地方分権を強調するなら、国と地方の役割分担を見直して標準とされる内容を整理し、東京をはじめとした一部自治体だけでなく、全ての自治体が同じように標準を超える部分について検討できる仕組みを考えていく必要があるのではないか・・・

 元交付税課長としては、意見を述べなくてはなりませんね。
この論考は、東京都が独自の政策を行う財源があることを指摘していますが、その奥にあるのは、地方団体間の税収格差です。

指摘された点は、検討する価値があります。交付税制度は地方団体の税収格差を調整する仕組みとしては、良くできたものです。かつての課題は、まずは財源不足団体対応でした。しかし、財源不足団体の不足分を埋めることはできても、財源が超過する団体から税収を奪うことはできません。東京都のような団体の超過分を減らすには、地方税制を変える必要があります。

20年前の三位一体の改革で、所得課税を3兆円地方税に移しました。これは地方団体間の税収格差を縮める効果がありました。さらに進めるなら、偏在の大きい法人課税を地方税から国税に移し、偏在の少ない個人所得課税を国税から地方税に移すという国税と地方税の税源交換が考えられます。これについては、「地方財政の将来」神野直彦編『三位一体改革と地方税財政-到達点と今後の課題』(2006年11月、学陽書房)所収と、「三位一体改革の意義」・「今後の課題と展望」『三位一体の改革と将来像』(ぎょうせい、2007年5月)所収に書いたことがあります。これらも、古くなりましたね。

地方税制(総務省自治税務局)と交付税制度(自治財政局)の両方をまたいで、検討する必要があります。学者の方々の提案も期待されます。