年別アーカイブ:2024年

大リーグ蜂騒動に学ぶ、おおらかさ

2024年5月25日   岡本全勝

5月15日の日経新聞スポーツ欄に、北川和徳・編集委員の「大リーグ蜂騒動から学ぶ、おおらかさと臨機応変な発想」が載っていました。

・・・大谷翔平(ドジャース)を目当てに大リーグ中継を見ていて、トラブルが起きた時のスタジアムの雰囲気と臨機応変な対応に感心した。蜂の大群の襲来で試合開始が約2時間遅れた4月30日のアリゾナ州フェニックスでのダイヤモンドバックス戦。球場に駆けつけて蜂を取り除いた業者のマット・ヒルトンさんが、試合を救ったヒーローとして始球式の大役も務めた。
ヒルトンさんが到着したのは試合開始予定時刻から1時間以上過ぎていた。正直に言うと、中継を見ながら対応が遅いなと思っていたのだが、現地の様子は違った。蜂(bee)にかけてビートルズの「Let It Be」(なるがままにしなさい)が流れ、ヒルトンさんは待ちに待った救世主として迎えられた。
蜂の除去に成功すると大歓声。さらに始球式に登場して喝采を浴びた。テレビの前で試合が始まらないことにイライラしていたこっちが恥ずかしくなるような雰囲気だった・・・
・・・現地の報道などによると、ヒルトンさんは6歳の息子のティーボール(子ども向けの野球)の応援中に呼ばれ、急きょ駆けつけたそうだ。裏方として表舞台を支える人々への感謝と敬意を示す文化も感じた。ちなみに、掃除機のような装置に吸引した蜂は殺処分したわけではなく、別の安全な場所で放されたという。

日本ではこうはいかないだろう。自分も試合の遅延にいらだっていたが、2時間も開始が遅れれば、蜂のせいだから仕方ないとはならず、もっと適切に対応できないのかとあら探しが始まる。誰かの責任にしないとおさまらない。蜂を取り除くやり方についても、苦情や文句が寄せられるだろう。運営側はそのすべてに真面目に対応しようとする。
そんな状況では試合を救った功労者による始球式などという発想も出てこない。「上の了解は」「問題が起きたら誰が責任を取るのか」。前例のないことや予定外の試みを実行するには、多大なエネルギーを要する・・・

・・・深刻な事態でないのなら「Let It Be」と受け流すおおらかさと、現場の自由な判断による臨機応変で柔軟な対応。それは今のこの国の社会に最も欠けているものかもしれない・・・

朝日新聞オピニオン欄「人口減時代の防災・復興」に載りました

2024年5月24日   岡本全勝

5月24日の朝日新聞オピニオン欄「交論 人口減時代の防災・復興」に、私の発言が載りました。朝日新聞が継続的に書いている「8がけ社会」の一つです。廣井悠・東京大学教授と対になっています。

・・・少子高齢化はさらに進み、2040年には働き手の中心となる現役世代が現在から2割減る。さらに制約が増していく「8がけ社会」において、地震や津波などの大災害にどう向き合えばいいのか。人口減少下の被災について考えを深めてきた2人に、防災と復興のあり方を聞く。

――東日本大震災の被災地に通って「ミスター復興」と呼ばれた経験から、過疎地の復興の難しさをどう考えますか。
「被災者に要望を聞けば『元通りにして欲しい』との声が出る。その思いに、政治家や役人が『できません』とはなかなか言えません。東日本大震災では、行政が率先して原状復旧を掲げ、災害公営住宅の建設や大規模な土地整備をしたのに、住民が減ってしまった地域が生まれています」

――なぜ、住民が思い描いた復興にならなかったのですか。
「人口減少下の地方で起きた災害だからです。日本の人口は2008年から減少に転じ、過疎と少子高齢化が進みました。被災すると都市部に移る人が増え、人口流出は加速する。集落を元に戻しても震災前の光景は戻らないのです」
・・・

――人手や財源の確保が今後ますます厳しくなる国や自治体に、どこまで対応できるでしょうか。
「個人が『移らない』という選択をしても、集落として考えた時に持続性が乏しくなる恐れがあるのは東日本大震災の事例が示しています。そして、今後は社会を支える働き手が減り、生活に欠かせないサービスの維持がますます困難になる。答えは簡単には見つからないと思いますが、能登半島の人たちには、ぜひ東北の現在地を見てもらい、新しいまちをどうするか、考えてもらいたいのです」・・・

4月20日の朝日新聞デジタルに載った「成否分けた復興「東北の現在地を見て」ミスター復興が伝えたいこと」の要約版です。

哲学書の翻訳は理解できない文章だった

2024年5月24日   岡本全勝

朝日新聞連載「人生の贈り物」、5月14日は長谷川宏さんの第11回「ヘーゲル新訳、読書会に鍛えられて」でした。

《1992年、ヘーゲル「哲学史講義」の新訳を発表。平易で明晰な訳文は画期的と大きな反響を集める》
従来の哲学書の邦訳は生硬で不自然、何度読んでも納得できない文章が多かった。それが哲学をとっつきにくいものにしたという不満があったんです。
81年から、サラリーマンや学生の人たちとヘーゲルをドイツ語で読む会を開いていました。地域の読書会でも、東京都国立市の市民講座などでも、ヘーゲルを取りあげました。
「哲学史講義」の新訳は、彼らとの語らいで鍛えられ、背中を押されたのは間違いない。日本語としての読みやすさを心がけました。逐語訳でなくわかりにくいところは砕いて訳した。「即自」「対自」「措定」「悟性」などもあえて使わない。専門家以外はイメージを抱きにくいと考えたからです・・・

指摘の通りです。私が大学生の時代は、哲学、特にドイツ系、マルクス主義などの翻訳は、「これが日本語か」と思うような文章がまかり通っていました。当初、私は私の頭が悪いのだと思いましたが、そのうちに、これは訳文が悪いんだと気がつきました。

連載「公共を創る」第187回

2024年5月23日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第187回「政府の役割の再定義ー震災復興、政治主導の在り方と官僚の仕事」が、発行されました。前回に引き続き、東日本大震災対応の経験をお話しします。大震災対応については、本に書いたり、この連載でも冒頭に書いたのですが、今回は特に私が事務方の責任者として、幹部官僚として何を考えたかを書きました。

被災者支援の次は、公共インフラの復旧と公共サービスの再開を急ぎました。町が流され、その場所は危険なので、高台移転などこれまでにない大きな計画と大工事を行いました。これはこれで大変だったのですが、各省が頑張ってくれました。
ところが、その工事が進むにつれ、それだけでは町のにぎわいが戻らないことが分かってきたのです。生業と産業が再建されないと人は暮らしていけず、活気と人のつながりが戻らないと人は孤立するのです。そこで、災害復旧の哲学を「国土の復旧」から「生活の再建」へと転換しました。

もう一つ実務の責任者として考えなければならないことがありました。政治との関係、政治主導との関係です。
民主党政権は官僚を排除した政治主導を唱えていました。しかし、政治家には政治家の、官僚には官僚の役割があります。そして、被災者支援や災害復旧について経験と知識を持っているのは官僚です。私は「官僚の力量を示そう」と同僚や部下に話しました。大臣や官房副長官も、私たちに任せてくださいました。
自民党が政権に復帰してからは、大島理森・自民党復興加速化本部長(後に衆議院議長)の指導の下、与党提言をまとめていただき、それを総理が受け取り、政府が実行する仕組みを作りました。政治指導、政府与党が一体となって政策と事業を進めるよい形だったと自負しています。

新入社員4割が転職検討

2024年5月23日   岡本全勝

5月9日の日経新聞に、「新入社員4割が転職検討」が載っていました。

・・・新卒や入社数年の若手社員の早期退職が目立っている。新入社員の4割以上が転職を検討しているという調査もある。深刻な人手不足が続く中、有望な人材をつなぎ留められなければ企業経営は揺らぎかねない。企業は入社後に若手をきめ細かくフォローする体制を整え、抱える悩みや感じるギャップに対処する必要に迫られている・・・

就活情報サイトを運営するキャリタスが2月に実施した2023年春入社の社会人を対象に実施した調査では、4%が転職活動中で、39%が検討中です。リクルートマネジメントソリューションの2023年調査では、正社員として勤務する入社1~3年目の17.5%が自己都合退職を経験しています。

若手社員が会社を辞めたいと思う理由は、次の順です。仕事にやりがいや意義を感じない27%、給与が満足できない19%、自分のやりたい仕事ができない13%、会社の将来が不安12%、動労環境・条件が悪い12%、職場の人間関係が悪い12%です。

会社の側も対応を迫られています。就職してからの対応も必要ですが、会社を選ぶ際に十分な情報を与えることも重要でしょう。
5月13日の日経新聞夕刊「関心集める「エンゲージメント」 社員生かす経営の尺度」では、エンゲージメントは働きがいややりがいとは同意ではなく、例として仕事に対する情熱、会社に対する愛着との定義を紹介しています。日経新聞社などが2023年12月に実施した調査では、東証プライム上場企業の人事部門役職者の47%が組織上の課題に「エンゲージメント」をあげ、「生産性の向上」は41%でした。