年別アーカイブ:2024年

『「反・東大」の思想史』

2024年8月30日   岡本全勝

8月18日の読売新聞書評欄、尾原宏之著『「反・東大」の思想史』を取り上げた、苅部直・東京大教授による「東大の権威 抵抗の系譜」から。

・・・かつては毎年、東大入試の合格者発表の直後に、複数の週刊誌が特集号を出して、全員の氏名と出身高校を堂々と載せていた。個人情報保護法のなかった前世紀の話であるが、自分の受験生時代から疑問に思っていたことがある。ふだん受験競争の弊害を説き、東大卒業者が多いとされる官僚への批判を繰り返しているリベラル派の週刊誌・新聞が、どうして「東大」ブランドへの信仰を 煽あお るようなまねをするのか。

「東大」の権威の解体を唱えたり、「東大生も実務では役に立たない」と豪語したりするのに、本音の部分では東大を頂点とする大学の順位づけを信じている。この意識の二重性が、近代史を通じて日本社会にはしっかりと根づいているのである。まさしく思想史の問題だろう。

本書で尾原宏之はこの課題に果敢に挑んでいる。そもそも明治国家が近代化を進めるために、東大を頂点とする大学制度を作る過程と並行して、それに対する批判も声高に主張されていた。私学による高等教育を確立しようとした福澤諭吉の慶應義塾大学や、「民衆」に語りかける政治家とジャーナリストを養成した、大隈重信の早稲田大学。また、知識偏重の打破をめざす大正期の自由教育運動や、「インテリ」による指導を拒否した労働運動。「反・東大」の潮流もまた、無視できない勢力を同時代にはもっていた。
だがそうした動きも挫折や妥協に終わり、反対に東大の側が新しい知的潮流をとりこんで、みずからの権威を維持することになった・・・

連載「公共を創る」第196回

2024年8月29日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第196回「政府の役割の再定義ー転換を迫られる公務員の人事政策」が、発行されました。

まず、ここまで述べてきた官僚育成論を整理しました。管理職と幹部官僚とは役割が異なること。企業幹部と幹部官僚に求められる能力の違い。幹部官僚はそのための育成が必要なことなどです。

ところが、実態は急速に変化しています。優秀な若者が必ずしも官僚を目指さないこと、採用されても早期に退職する者が増えてきたこと、さらに日本でも転職自由社会が到来し、日本の労働慣行であった新卒一括採用、人事課による配属決定、年功序列、終身雇用が崩れつつあることです。
それは民間企業だけでなく、公務員の世界にも押し寄せてきています。これまでの人事政策は、革命的転換を迫られています

これまでは、公務員制度改革が議論されてきたのですが、制度が前提としていた実態が大きく変化し、いかに運用していくかが課題となってきたのです。
それを引き起こした「黒船」は、「転職が不利にならなくなった」ことです

コロナ対策マスク調達、文書なし

2024年8月29日   岡本全勝

8月23日の朝日新聞が「アベノマスク「文書見たことない」 省庁職員証言「意思決定は口頭」「余裕なし」」を伝えていました。

・・・新型コロナウイルス対策で政府が配った布マスク(通称・アベノマスク)をめぐり、神戸学院大の上脇博之教授が業者との契約過程を示す文書の開示を国に求めた訴訟で、調達に当たった省庁職員ら3人の証人尋問が22日、大阪地裁であった。職員らは「関連文書は見たことがない」と口をそろえた。

マスクは2020年4月に安倍晋三首相(当時)が各戸配布を表明したもので、国は400億円超をかけて約3億枚を調達した。だが約8300万枚が残り、国会などで無駄が指摘された。
出廷したのは「合同マスクチーム」のメンバーら。統括した厚生労働省の職員は「いかに早くマスクを確保できるかが課題で、チーム内の意思決定は口頭だった」と証言。「この職について30年で最も過酷で多忙を極めていた。過労死ラインを超える勤務が慢性的に発生する極めて異例な状況だった」とも述べた。

上脇教授側から「公文書管理法の趣旨に沿って契約過程を文書で残すべきだったのでは」と問われると、「結果責任を果たすためにもプロセスに時間を割く余裕はなかった」と強調した・・・

知図その2

2024年8月28日   岡本全勝

先日書いた「知図」を読んだ読者から、指摘を受けました。
「KJ法も、これではないですか」

そうですね。
KJ法は、川喜田二郎さんが考案した、思考の整理方法です。たくさん集めた情報をカードに記述し、カードをグループごとにまとめて並べます。そこから、一定の法則を見いだしたり、問題の解決を見つけます。(ウィキペディア

学生時代に『発想法』(中公新書、1966年)を読んで、考えを整理する際や、原稿の骨子を作る際に利用しています。『明るい公務員講座 仕事の達人編』でも紹介しました。
知図とよく似た方法です。違いは、KJ法が思考の整理方法(過程)なのに対し、知図はできあがった配置図(結果)であるということです。

酷暑対策補助金の不十分な説明

2024年8月28日   岡本全勝

8月15日の朝日新聞夕刊、三浦惇平記者の「(取材考記)説明ちぐはぐ 補助金再開、理由は酷暑だけ?」から。

・・・政府が「酷暑乗り切り緊急支援」と称して、電気・ガス料金の補助を再開させた。岸田文雄首相自らが記者会見で表明した肝いりの政策だ。ただ、急ごしらえ感は否めず、「酷暑対策」は後づけにも映る。

補助は、8~10月使用分が対象だ。8月は標準世帯の使用量だと、電気(400キロワット時)が1600円、ガス(30立方メートル)が500円ほど安くなる。
首相と側近議員が主導して決めたとされ、場当たり的で「バラマキ政策」との見方も出た。いったんやめた補助を復活させることに、制度を所管する経済産業省は、妥当性を示すのに苦心したようだ。それは、ちぐはぐな説明にも表れていた。

補助はもともと、ロシアのウクライナ侵攻に伴う燃料の高騰を受けた対策として2023年1月に始まった。ただ、燃料価格が落ち着いたとして、今年5月に打ち切った。斎藤健経産相は「予期せぬ国際情勢の変化などにより国民生活への影響を回避するため緊急対応が必要になった場合」に再開を検討するとした。
だが首相が再開を決めたのは、その1カ月後。とても「予期せぬ国際情勢の変化」が起きたとは言いがたい。一方、斎藤氏は以前の対策とは目的が違うとして、「再開ではない」と主張するが、補助の仕組みも予算枠も同じだ。

首相が言う「酷暑対策」だとしても、疑問が残る。
今年は7月から全国各地で猛暑日が相次いだが、支援が始まったのは8月から。都市ガスも対象とすることにも、違和感がある。経産省の担当者は、ガスの冷房を使う商業施設があることを理由として挙げるが、家庭向けは夏場に需要が減るからだ・・・