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自衛隊発足70年

2024年11月22日   岡本全勝

11月13日の関西学院大学シンポジウム「霞ヶ関は今」、黒江哲郎・元防衛次官の講演で、印象に残ったことがあります。私の受け止めであって、黒江次官の発言を正確に引用しているわけではありません。

1 自衛隊が1954年に発足して、今年で70年です。黒江次官の説明では、その半分35年の折り返しは、1989年です。この年はベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦が事実上終わった年です。これは、私にとって大いにびっくりでした。それから35年も経っているということです。
私が自治大臣秘書官の時に、竹内行夫総理秘書官(後の外務次官、最高裁判事)から「全勝君は、戦後の日本を二つに分けるとしたら、いつと思うか」と質問されて、「そりゃ、1973年の石油危機でしょう。ここで日本の高度成長が終わったのですから」と答えました。竹内先輩は「そうか、僕にとっては60年安保だよ」と言って、その趣旨を説明してくださいました。この話は、連載「公共を創る」第184回に書きました。
自衛隊70年は戦後79年とは異なりますが、戦後の日本の歩みを考える際の一つの物差しとなります。

2 もう一つは、黒江次官が防衛庁に入った頃は、所管法令が3つだけだったそうです。防衛庁設置法、自衛隊法、給与法です。組織法しかなかったのです。
これは、自衛隊の置かれた状況を反映しています。一言で言うと、自衛隊は「動かない組織」「動けない組織」だったのです。外交安全保障で何か事件が起きても、防衛庁・自衛隊の出番はありませんでした。
ソ連が崩壊し、東西冷戦が終わりました。世界に平和が訪れたら良かったのですが、重しがなくなった世界は、各地で紛争が勃発するようになりました。さらに軍隊ではないテロが頻発するようになりました。日本も「一国平和主義」を続けることができなくなり、世界の平和維持に責任を担わなければならなくなりました。

防衛庁・自衛隊に出番が回ってきたのです。この劇的な変化は、黒江次官の著書『防衛事務次官冷や汗日記』に赤裸々に書かれています。そして、防衛庁は防衛省になり、所管法令(作用法)が激増します。「防衛省所管法令」特に有事法制です。
日本の経済や政治行政にとっては「失われた30年」と総括されますが、安全保障については、「転換の30年」でした。このことは、拙稿「Crisis Management」(『Public Administration in Japan』所収)でも書きました。

上司代行サービス 管理職なり手不足

2024年11月22日   岡本全勝

11月9日の読売新聞に「上司代行サービス 管理職なり手不足 外部人材活用」が載っていました。

・・・会社の中核を担う課長や部長を外部から送り込む人材紹介の新たなサービス「上司代行」が注目を集めている。働き方や雇用形態が大きく変わる中で、管理職への昇進を断る若手社員が増えているためだ。かつては出世の登竜門であこがれの対象だった管理職に、何が起きているのか。

「上司代行」サービスを行っているのは東京都渋谷区の「Hajimari(ハジマリ)」。プロのフリーランス人材の紹介を手がけていたが、2年前から専門家を「上司」として企業に紹介するサービスを始めた。紹介先の上司に取って代わるのではなく、補佐して業務の推進や部下の育成にあたる。新入社員を指導する「メンター(教育係)」の管理職版ともいえる。
紹介する人材は大企業で新規事業の立ち上げに携わったり、組織の活性化で実績をあげたりした人ばかり。最近では大企業への紹介も増えており、中でも「代行上司に将来の管理職候補を育成してほしい」という依頼が多い。人材豊富なはずの大企業も、社外から上司を招き、将来の管理職候補の育成を委ねるほど、中間管理職の「なり手不足」は深刻になっている。
日本能率協会マネジメントセンターが昨年、従業員300人以上の企業に勤める一般社員1116人に行った調査では、77%が「管理職になりたくない」と答えている。32%は「今の仕事は楽しいが、管理職はいやだ」と答え、なりたくない理由のトップ(複数回答)は「自分には向いていないから」(52%)。以下「負荷が報酬と釣り合っていない」(30%)、「責任が重い」(26%)と続く。負担や責任の大きさから、管理職を目指す前から自分には不向きだ、と考えていることがうかがえる。

経営幹部と部下の板挟みに悩む「中間管理職の悲哀」は以前からあった。しかし、最近の管理職は、自ら現場に出る「プレーヤー」としても、部下を管理する「マネジャー」としても、以前より格段に負荷が増している。
働き方改革によって社員の残業時間は10年前の半分に減り、部下と分担していたプレーヤーの仕事を一人で背負うことが増えた。マネジャーとしてもパワハラ、セクハラに神経を使い、SDGs(持続可能な開発目標)、DX(デジタルトランスフォーメーション)、コンプライアンス(法令順守)といった職場環境の変化にも対応しなければならない・・・

社員や職員と管理職に求められるものは異なります。社員や職員の全員が管理職に向いているわけではなく、また望んでいるわけではありません。
記事には、次のようなことが書かれ、諸外国との年収比較も載っています。日本の管理職の年収の低さは驚くばかりです。
・・・にもかかわらず、日本の管理職の報酬は国際的にも低い。米コンサルティング大手、マーサー社の昨年の調査結果によると、日本の一般的な管理職の年収は先進7か国(G7)では最低で、タイや中国よりも低い。マーサージャパンの伊藤実和子プリンシパルは、「終身雇用、年功序列の考え方が残る日本企業では、管理職は給与を上げなくても辞めないと見られているのではないか。忙しくなっても報酬が増えなければ、社員が管理職になるメリットを感じにくいのも無理はない」と話す・・・

地方自治法改正、国の指示権

2024年11月21日   岡本全勝

月刊『地方自治』2024年11月号に、牧原出・東大教授が「改正地方自治法における国の一般的な指示権はどう作動するか?」を書いておられます。
この春に成立した地方自治法改正に関するものです。「地方自治法の一部を改正する法律の概要
個別法の規定では想定されていない事態のため個別法の指示が行使できず、国民の生命等の保護のために特に必要な場合(事態が全国規模、局所的でも被害が甚大である場合等、事態の規模・態様等を勘案して判断)、国は地方公共団体に対し、指示ができることになりました。新型コロナウイルス感染拡大での混乱などを踏まえた改正です。

地方制度調査会での議論を経て法律となったものですが、地方分権に反するのではないかとの疑問も出されていました。どのような場合なら認められるか。それが難しいのです。事前に予測できることなら、個別の法律に規定しておくことができます。まさに想定外の事態の際に発動されるので、事前想定が難しいのです。この論考は、それを説明しています。

他方で、批判的な議論もあります。
坪井ゆづる編『「転回」する地方自治-2024年地方自治法改正(下)【警鐘の記録】』(2024年、公人の友社。自治総研ブックレット)

幸福度の底は48.3歳

2024年11月21日   岡本全勝

11月2日の日経新聞に「「幸福度の底」は48.3歳 日本も」が載っていました。いろいろな要因が分析されています。ここでは、その一部を紹介します。

・・・「48.3歳」が近年注目されている。世界各国で年齢と幸福度の関係を調べた研究で、48歳前後が幸福の底になることが分かった。日本では就職氷河期世代に当たるが、幸福度はやはり低いのだろうか。

米ダートマス大学のデービッド・ブランチフラワー教授が145カ国のデータから幸福度と年齢の関係を分析したところ、幸福度はU字型の曲線で推移し谷底の平均年齢は48.3歳だった。
内閣府の「満足度・生活の質に関する調査報告書2024」からも、40〜64歳のミドル層の生活満足度の低さが明らかだ。20年は40〜64歳と39歳以下の差は0.03だったが、24年には0.32に広がった。ミドル男性は「家計と資産」「子育てのしやすさ」の満足度が23年から低下した。

子育てが大変なのだろうか。「残酷すぎる幸せとお金の経済学」を書いた拓殖大学教授の佐藤一磨さんによれば、13歳以上の子がいると既婚女性の生活満足度は低くなる。子宝とはいえ、子どもも数が多いと負に作用する。お金がかかることや夫婦関係の不満が背景にある。
20年国勢調査では当時40代だった夫婦の8割が子持ちだ。人口動態調査を遡って父母の平均第1子出産年齢を調べると、現在48歳の女性は2005年前後に29歳で、男性は07年前後に31歳で、第1子が産まれていた。子どもはいま17〜19歳で、母親の幸福度が下がる年代と重なる。
この分析では父親のデータはないが、一般に男性の方が幸福度は低く出る。中でも35〜49歳の子持ち男性の幸福度は2000〜10年代に低下したという。「共働き増加で家事・育児負担が男性にものしかかるようになった。男性が大黒柱という考えもまだあり板挟みになっている」と佐藤さんは分析する。
一方で、配偶者の有無別で見ると最も幸福度が低いのは独身男性だ。20年の国勢調査によれば現在48歳の男性の未婚率は調査時点で27%。10歳上の21%から増加していることも見逃せない・・・

・・・苦労を重ねてきた世代に希望はないのだろうか。
幸福学を研究する慶応義塾大学教授の前野隆司さんによれば、勉強のように自分を成長させる活動は幸福度を上げる。意外なことに、学ぶ人の幸福度は旅行や芸術鑑賞に熱中する人と同じくらい高いという。前野さんはさらに高齢期に向けた幸福の条件として、複数の人間的なつながりを持っていることも挙げた。
内閣府の20年度の国際比較調査では、日本の単身高齢者は調査した4カ国中「人との会話がほとんどない」が最多の25%だった。生きがいを「あまり感じていない」「まったく感じていない」も計29%で最も多く、孤独・孤立対策が政策課題にもなっている・・・

コメントライナー寄稿第20回

2024年11月20日   岡本全勝

時事通信社「コメントライナー」への寄稿、第20回「日本を支えた意識の劣化」が11月18日に配信され、19日にはiJAMPにも転載されました。

最近の電車で座っている人たちは、居眠りをしているか、スマホを操作しているかで、全く周囲に関心がないように見えます。足の悪い人が乗ってきても、席を譲ろうとしません。災害時の日本人の助け合いは、世界が称賛しています。他者への思いやりと共助の精神が弱くなると、安心・安全な社会は壊れます。

資源に恵まれない日本が、世界有数の経済成長を遂げたのは、向上心と勤勉のたまものです。この30年間の経済停滞の大きな理由は、この向上心と積極性の低下でしょう。発展途上時代は「努力すれば暮らしは良くなる」という社会の現実と通念が、国民を勤勉へと駆り立てました。しかし成熟社会になると、向上心や挑戦心は低下したようです。

これまでの日本の強みは、このような他者への信頼と向上心であり、関係資本と文化資本いわゆるソーシャルキャピタルでした。
昨今の無関心の広がりは関係資本の劣化であり、新しいことへ の消極性は文化資本の劣化です。このままでは、先祖から引き継いだ強み を、私たちは子どもたちに引き継ぐことができません。そして日本は 弱くなります。