12月2日の日経新聞ダイバーシティ欄「女性差別撤廃委の勧告生かせ 夫婦別姓議論、当事者の声を」から。
ジェンダー平等に向けた日本の政策は十分か。国連の女性差別撤廃委員会が10月、日本政府を8年ぶりに対面審査し、改善勧告を出した。選択的夫婦別姓や同性婚の導入など、勧告の内容は多岐にわたる。日本はどう受け止めればいいのか。委員会のメンバーである亜細亜大学の秋月弘子教授に審査の意義や今後の課題を聞いた。
――審査はどう進められるのか。
「女性差別撤廃委員会には、各国から選ばれた女性分野の専門家23人が所属しており、1回の会期で8カ国の審査を分担する。委員は1人あたり最低でも4カ国ほどの審査を担当するのが通例だ。国別の作業部会に十数人の委員が組織され、その国から提出された報告書を読み、情報を得る」
「審査の対象となる国からは、前回の審査からの進捗状況を説明する報告書が提出される。市民団体などからの報告書も受け取り、課題を多角的に把握する。報告書は平均して1国あたり20〜30ほど。事前に課題と現状を精査し、対面での審査に臨む」
――日本は勧告に対する対応が不十分だという指摘もある。
「選択的夫婦別姓の導入についての勧告は4度目で、それでも変わっていないというケースは珍しい。勧告に法的拘束力がないと指摘する声もあるが、委員は人権分野の世界的な専門家であり、その指摘は重い。国際的には、勧告が出た以上は履行する努力が当然のことだと認識されている」
「日本でジェンダー不平等の状況が放置されていることは、海外からはしっかりと認識されている。日本が冷笑されてしまう立場であることも、政府は認識しなくてはならないだろう。改善の取り組みをスピードアップしない限り、世界の標準が見えなくなり、孤立してしまうリスクをはらんでいる」
「人権を侵害された個人が、人権条約機関に訴えられる『個人通報制度』を定める選択議定書を批准していないことも課題だ。人権に関する問題が起きたとき、当事者の声を受け止め、救済する国内人権機関を設置することも欠かせない」
――今後、日本にどのような変化が必要か。
「ジェンダー不平等が深く根付いている現状を変えるには、強い法や政治の力が必要。ただ、女性議員が少ない日本では、なかなか法制化も進まない。10月の衆院選の当選者のうち、女性の割合が15.7%と過去最多になったが、世界平均の27%に比べればまだ少ない。国会での女性の少なさは、委員会のメンバーからもよく驚かれる」
「選択的夫婦別姓について指摘を受けた際、『国民の議論が必要』との政府代表団の回答があった。日本の国会議員の大多数は男性のため、国会の議論だけではバランスを欠く。パブリックコメントや当事者団体からの声も入れるなどして、『国民の意見を反映した』議論を期待したい」