『フランスという国家』行政の再評価と再設計

ジャック・シュヴァリエ著、藤森俊輔訳『フランスという国家―繰り返される脱構築と再創造—』(2024年、吉田書店)を紹介します。

宣伝文には次のように書かれています。
「福祉国家の危機、欧州統合やグローバリゼーションの進展、新自由主義の台頭、急進的なイスラム主義とテロ、黄色いベスト運動……、そして、新型コロナ危機。—フランス社会を取り巻く変化に直面し国家はいかに適応してきたのか。
フランス行政学の第一人者が、フランス国家の歴史的な成り立ちと変遷を丹念に振り返り、新型コロナ危機が伝統的な国家モデルの復権をもたらしたと分析する」

社会の変化に対し、国家はどのように対応してきたか。そして、政治理論はそれをどのように支えてきたかが、簡潔に書かれています。内容はフランスについてですが、近代国家を生んだ国であり、他方で現代国家はどの国でも同じような課題を抱えています。フランスの経験は、日本でも参考になります。

フランスは日本と同様、いえ日本以上に、国家・行政が強い国でした。しかし、国際化と自由主義的改革で、弱くなりました。機能的に縮小するだけでなく、国家に対する「神聖性」ともいえた信頼が溶けたのです。しかし、新型コロナ危機、産業支援などで、国家の出番が増えて、その役割も再認識されています。
連載「公共を創る」と、問題意識は共通しています。私の連載も、社会の変化に応じて行政の役割が変化することを議論しています。その際に、明治以来の「追いつけ型」行政が成功し、豊かになったことで役割を終えたとしています。他方で、この本がフランスについて論じているように、先進国においても行政と国家の役割が大きく変わっています。あわせて、国民の行政・国家への信頼も低下しています。日本は、政治主導への転換に苦慮しています。フランスと共通の点と異なる点があります。それも、今後の執筆に活かしましょう。

本文は100ページあまり。簡潔な著作ですが、内容は深く、考えさせられます。行政を考える人にとっては、重要な文献でしょう。翻訳もこなれていて、読みやすいです。訳者の藤森俊輔さんは、内閣府政策統括官(共生・共助担当)付参事官です。

解(ほど)けていく国家―現代フランスにおける自由化の歴史』は、フランスにおける、この40年間の経済の自由化・市場化・国際化を解説したものでした。その延長にあるとも言えます。吉田書店は、良い本を出してくれますね(だいぶ前に読み終えていたのですが、このホームページでの紹介が遅くなりました。すみません)。