11月12日の朝日新聞オピニオン欄、御厨貴先生の「少数与党時代の新秩序」から。
――下野した2009年以来となる自公過半数割れを受けて、少数与党の石破内閣がスタートします。歴史的にどのような意味を持つのでしょうか。
「15年ぶりといった時間軸では捉えられないことが起きようとしているのではないでしょうか。私には1955年の自由党と日本民主党の『保守合同』によって自民党が結党した時以来となる、日本政治の大きな変化の時を迎えていると思われてなりません。『石破政権は短命で終わる』とか『国民民主党は与野党のはざまで埋没するだろう』といった冷笑的な見方ではなく、久しぶりに日本の政治が創造的に変わるチャンスが訪れたととらえるべきです」
――自民党が力を持つ「55年体制」が揺るがされていると。
「政治家も官僚も学者もジャーナリストも、55年体制があまりに長く続いたので、それを所与の前提として考えがちですが、永遠に変わらない条件ではないのです。これから始まるのは新しい政治の手法、秩序、体制の創造過程だと思って見つめるべきです」
「実は、自民党は結党以来、このような少数与党政権を経験したことはないんです。2度下野をしましたが、それ以外の時期は衆院で多数を維持して政権を運営しました。ですから事前に与党で大事なことを決め、野党との関係は国会対策による日程調整で対処するということが70年近く続いてきました。内閣不信任案がいつ可決してもおかしくない、という緊張感のある国会の状況は誰も経験していません」
――これまでにも自民党は他党と連立を組んで難局を乗り切ったことがありました。過去とは何が違うのですか。
「全く違うと思いますよ。・・・
今回は何が違うのか。これまでは緊急時の連立相手になってきたのは、河野洋平氏や小沢氏など、かつて自民党に所属していたリーダーが率いた政党でした。ですから『表と裏』の使い分け、腹芸といった自民党経験者の仲間うちならではのコミュニケーションが可能な相手だったのです。あえて加えれば、政権を奪還するために組んだ94年から98年の社会党(のちの社民党)と新党さきがけとの連立でも、さきがけという自民党を離党した武村正義氏や田中秀征氏といった政治家が結成した政党の存在が重要でした」
「ところがいま協力を求めている国民民主党は玉木雄一郎代表をはじめ、国政で自民党に所属したことのない政治家の集団。これまでのパートナーとはまったく違う存在です。自民党と常設の協議機関すら設置しない。すべてを公開でやろうということでしょう。立憲民主党などの野党とも同じように協議をするという方針です。これまでの連立の経験や与野党の国対政治の発想は通用しません。これは自民党にとって恐怖だと思います」
――石破首相のことをかつて「伝道師だ」と評していました。
「細川護熙元首相のようなさっそうとした、スマートな人物ではありません。とても疲れて見える日本のおじさんです。でも30年以上混迷を続け、国際的にも埋没と地盤沈下が止まらないこの国そのもののような人物なのです。当面、この人物が日本の指導者として、米大統領に返り咲くトランプ氏をはじめ世界の指導者と会うのを見守ることになります」