小野寺拓也・田野大輔著『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(2023年、岩波ブックレット)を、積ん読の山に見つけて読みました。
宣伝文には、次のように書かれています。
「「ナチスは良いこともした」という言説は、国内外で定期的に議論の的になり続けている。アウトバーンを建設した、失業率を低下させた、福祉政策を行った――功績とされがちな事象をとりあげ、ナチズム研究の蓄積をもとに事実性や文脈を検証。歴史修正主義が影響力を持つなか、多角的な視点で歴史を考察することの大切さを訴える」
本書では、それらの「俗説」を取り上げ、「その政策がナチスのオリジナルな政策だったのか」「その政策がナチ体制においてどのような目的を持っていたのが」「その政策が「肯定的な」結果を生んだのか」という3つの視点から検討します。
どの政策も、ナチス独自で考えたものではなく、既にドイツや他国で試みられていたものであること。各政策が、それぞれに適切な目的を持っていたこともあるが、次第に戦争へと利用されること。フォルクスワーゲンも、国民には1台もわたらなかったように、かけ声倒れが多かったことを、説明します。
ヒットラーと側近も、国民の支持を獲得するために、様々な国民向けの政策を、大胆に実施します。もっとも、それが持続し、成果を出すところまで行っていないのです。
誤解を恐れずに言うと、その目的や結果を別にして「既にドイツや他国で試みられていたものを、ナチスが大々的に実行した」ことは、評価されてもよいと思います。それができないのが、通常の政治ですから。「だから独裁政治が良い」とは言いません。
ブックレットなので、100ページあまりで、読みやすく、お勧めします。