こどもの事故予防

日経新聞夕刊「人間発見」8月13日の週は、Safe Kids Japan理事長、山中龍宏さんの「親らが「目を離せる」社会に」でした。
・・・小児科医で「NPO法人 Safe Kids Japan」の理事長、山中龍宏さん(76)は「子どもの事故予防」に40年近く取り組む。科学的な検証で原因を究明。改善策の実行により事故を減らすことで、保護者らの責任や努力だけを追及する社会の風潮に立ち向かってきた・・・

・・・中学2年生の女子が学校のプールの排水口に吸い込まれ、当時の勤務先の病院に搬送されてきました。引き上げられるまで30分も水中にいれば命は病院では救えません。排水口の蓋さえきちんと固定してあれば良かったはずです。文部省(現文部科学省)に電話をすると「私の担当ではない」との答え。「何をバカなことを言っている」と憤りました・・
・・・1985年に起きた静岡県の中学校プールの排水口の死亡事故で、被害生徒の保護者は教育委員会宛に謝罪文を書かされていました。聞き間違いかと思いましたが、静岡の別のプール死亡事故でも、保護者が「我が子が不祥事を起こして申し訳ない」と教委に謝罪文を提出したという。そういう対応が疑問視されない時代でした・・・

明治以来、日本の役所はサービスを提供する側として仕事をしてきました。産業振興や公共インフラ充実だけでなく、教育も医療もそうです。生徒や患者ではなく、学校や病院を相手にしてきました。国民ではなく、提供者側でした。それが、公共サービスを拡充する際には効率的でした。しかし例えば、問題を起こす高校生に学校は困りますが、退学してくれると「縁が切れて」「ほっと」します。国民の側に立った役所は、消費者庁とこども家庭庁くらいです。
この問題を是正するために、提供者側でなく、国民の側に立った役所が必要なのです。私は「生活者省」の設置を主唱しています。

「公共を創る」第155回「「生活者省」設置の提言─「安全網」への転換を明確化」。「国民生活省構想」なお、国民でない人も暮らしているので「生活者省構想」に名前を変えました。

ペットボトルという言葉

先日、このホームページに「たくさんのペットボトルの空き容器」を書きました。実は、最初は「ペットボトルの空き缶」と書いたのですが、有力読者から「おかしい」との指摘を受けて、「ペットボトルの空き容器」と書き換えました。

缶や瓶には、空き缶、空き瓶という言葉があります。ペットボトルの場合は、何と言うのでしょうか。そこで、ペットボトルという言葉を考えていたのです。
英語では、plastic bottleで、PET bottleも使われるようです。ボトルとは、瓶のことですよね。すると、ペットボトルは、日本語にすると「ペット瓶」でしょうか。

日本語にするとき、プラスチック瓶、合成樹脂瓶とすれば、わかりやすかったのでしょう。つづめることが得意の日本語では、「プラ瓶」とか。でも、ペットボトルという表現が「格好良い」と考えた人がいたのでしょうね。
「ペットボトル」という言葉を使うなら、「空き瓶」がふさわしいのかもしれません。

24日追記
読者から、次のような趣旨の意見がありました。
「「瓶」は、もともと土器である瓦に属します。水筒に使う「筒」という表現が、竹製品だけどいいのではありませんか」

人の弱みつけこむテック企業

8月11日の日経新聞、トロント大のジョセフ・ヒース教授の「情報中毒から理性守れ」「人の弱みつけこむテック企業 哲学者が憂える副作用」から。

・・・ソーシャルメディア、アルゴリズム、そして人工知能(AI)。情報技術は恩恵と同時に様々な問題を社会にもたらしている。テクノロジーと適切に向き合うにはどうすればいいのか・・・

「問題は、企業が人間の弱みにつけこむことがあるという点だ。私たちの脳は大量の情報を瞬時に処理できる。だからスマートフォンの画面からとめどなく流れてくる刺激にくぎづけにされてしまう。ここに商機を見いだしたのがビッグテックの企業群だ。
これらの企業のサービスにうつつを抜かしている間に、貴重な資源である集中力が奪われてしまった。刺激に身を委ねるばかりで熟考の習慣を失った人々は非合理的な判断に傾きやすい。思考停止、他者への攻撃的な態度、そして摩擦と分断。情報技術がもたらしたそうした状況を見るにつけ、今の社会は正気を失っていると思う」

「動画共有サイトやネットショッピングのサイトは消費者の検索・閲覧履歴を学習し『おすすめ』を繰り出してくる。次々に表示されるコンテンツには中毒性があり、気がつくと見入ってしまう。これを1日に何時間も眺めていたら、人生の長い時間をオンラインで過ごすことになる」
「人間の認知の特性を研究したテック企業は様々な手法を用い、時間や注意力という私たちの貴重な資源を収奪する。だからネットを見続けるのがよくないことは誰だってわかっているが、弱点につけこまれあらがえない。まずこの現実に目を向ける必要がある」

知図

「知図」とは、私のつくった言葉です。いくつもの事柄を、頭の中や紙の上で地図のように並べて、それらの位置づけを理解するのです。
生物の系統樹を思い浮かべてもらうと、わかりやすいでしょう。バラバラなものを、何らかの基準で結びつけ、並べるのです。トランプの札も神経衰弱ゲームの際にはバラバラに(裏返して)置きますが、7並べゲームだと数字の順に並べます。すると、どの札がどこにあるかがわかります。

地図の利点は、道路や建物や山や川の位置を示す際に、言葉で示すよりわかりやすいです。それと同様に、ある基準で並べてつなぐのです。それを、頭の中や、紙の上に表示すると思ってください。知識の地図なので、知図です。分野ごとに分類し、それらの関係を理解することもあります。西欧哲学・思想家の歴史、音楽の歴史と分野、絵画の歴史と分野などです。

頭の中には、いろんな記憶がバラバラに入っています。それらを、連想によって次々と引っ張り出します。その連想の要素は、その時々によって異なります。ある花を見たときに、同じ色の花を思い出すこと、同じ種類の花を思い出すこと、季節を思い出すこと、その花にまつわる思い出を思い出すこと、その花が載っていた本を思い出すこと・・・
これが上手な人が、記憶力がよい、引き出しをたくさん持っている人なのでしょう。「位置づける」「頭という限りあるキャンバス

念のために、インターネットで「知図」を検索したら、次のような項目が出てきました。市川力著『知図を描こう!』(2023年、岩波書店)。「全国の小中高校の探究授業や住民参加の地域活動で注目を浴びる「知図」。知図とは自分が歩いて見聞きしたコトやモノ、感じたことを一枚の紙に自由に描く自分なりの「発見の記録」です」。これは、各自がつくる地図ですね。
知図その2

官僚の給与の低さ

8月9日の日経新聞「公務員給与、若手に重点 深刻な官僚離れ対応 賃上げ率なお民間と差」から。

・・・「キャリア官僚」と呼ばれる総合職を志望する学生は大手企業と併願するケースが多い。例えばトヨタ自動車の初任給は24年4月入社の新入社員(学部卒)から25万4000円、日立製作所は25万円とそれぞれ大幅に引き上げた。
国家公務員も総合職の23万円という初任給だけみれば大企業並みの水準だ。それでも全体の賃金水準はなお隔たりがある。

就活生に人気の高い総合商社5社の平均年収はいずれも1500万円を超え、三菱商事は23年度に初めて2000万円台(平均42.7歳)になった。日立も国内従業員の平均年収が935万円(平均42.9歳)に達する。
人事院によると、勧告を適用したモデル給与では35歳の本省課長補佐の年間給与(ボーナス含む)は756万8000円だった。官舎などの福利厚生があり、単純には比べられないものの、著名企業との比較では心もとない面がある。
人事院は新卒採用と並んで経験者の中途採用を重視する。中途採用でも民間との競争が激化しており、不利になる可能性がある。
勧告は民間給与との均衡を重視する。具体的には従業員50人以上の企業の給与水準をみて決める。キャリア官僚を志す学生らが比較対象とするような大企業との給与差を十分に反映できない制度上の限界がある・・・

公務員の給与は、民間の平均を見て決めます。その際の対象が、従業員50人以上の企業です。しかし総合職(かつての上級職)は、東大をはじめとする「有名校」出身です。大銀行や大会社などに就職した大学時代の友人と比較すると、情けなくなります。公務員の方は、難しい筆記試験もあります。
もちろん、若手が職業を選ぶ際には、給与などの待遇だけでなく、仕事のやりがいがあります。しかしその点でも、近年は低下しているようです。このままでは、優秀な若手は官僚を選ばないでしょう。