連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第194回「政府の役割の再定義ー幹部官僚に必要な能力と企業幹部との違い」が、発行されました。今回は、幹部官僚の役割と育成を考えるために、民間企業の幹部養成と比べてみます。
企業幹部は社長と取締役会、幹部公務員は首相と大臣という、組織の最高責任者の下で任務を果たして評価を受けます。組織の「幹部」という点で、共通するのです。共通しているのは、組織の維持とその組織が社会での役割を果たすという目的の下、「政策の立案や商品の開発」と、そのための「組織・職員管理」を任務としていることです。
このうち、後者の組織・職員管理は官と民とで大きな違いはないでしょう。一方、前者の政策立案においては、組織の目的の相違から、異なる部分があると考えられます。幹部官僚は、対象とする業務が公平性や公益性を求められる公共業務であることから、「目指すべき価値」「受ける制約」「必要とされる能力」に違いがあるのです。
「目指すべき価値」は、国民全体の福祉向上を考えること。「受ける制約」は、法律に従い、公平性が求められることなど。「必要とされる能力」は、その政策分野の専門家であること、 政策立案に際して実現可能性と与える影響を考えること、政策実現に際しては、内閣内や与党内での手続きを考えることなどです。
幹部官僚に必要な能力に、もう一つ重要なものがあります。政治的文脈を読むことです。幹部官僚が政策を考える際には、白地で考えるわけではありません。案件が社会で生まれた新しい課題であったり、大臣から下りてきた案件であったとしても、これまでの政府の政策体系や、大臣や内閣の政策選好との整合性を考える必要があります。これが、企業幹部から幹部官僚に転職した際に、最も困難な能力かもしれません。
その上で、それらの底には、「志」と「やりがい」の違いがあるのではないかと思います。