職歴を振り返る

連載「公共を創る」で、第183回から第190回まで、私の職歴を振り返りました。幹部官僚のあり方と育て方を議論するに際して、私の経験を紹介したのです。飲んで後輩たちに自慢話をすることはありましたが、このような観点から、自分の仕事とそこで考えたことを振り返ることはこれまでなかったので、よい機会でした。

「公共を創る」という論考には少々場違いでもありますが、具体例のない抽象論は読んでいて面白くなく、説得力も少ないですよね。最初はためらったのですが、書いているうちに、これも後輩たちには意味があると考え直しました。特に、前半の自治官僚だけにとどまらず、後半に内閣官僚になって視野を広げた経験は、珍しいと思います。

私が官僚になった昭和53年(1978)から、46年が経ちました。その間に、社会も行政も官僚も大きく変わりました。その頃のこと、そしてその後の変化を知らない若者に、少しでも役に立てばうれしいです。「古すぎる」と笑われるかもしれませんが。

本庶佑先生、政治と科学振興

日経新聞私の履歴書、6月はノーベル賞受賞者の本庶佑先生でした。26日の「総合科学会議 司令塔、学者主導に移行を 役人の美辞麗句で動く政治」から。

・・・在任中、一番重要な仕事といえば第3期(06年度から5年間)の科学技術基本計画の進捗をチェックすることだ。
私が担当する生命科学は重点分野である。予算シーズンになると、各省庁からあがってくる関連プロジェクトを「SABC」の4段階で評価する。アドバイザリーボードにおいて専門家の立場から研究の重要度を見極める。
いまでも覚えているのが「がんワクチン」計画だ。第2段階の臨床試験(治験)をやるというが、動物実験の成果しか出ていない。計画書に記されたエビデンスをみても、一例のみで似たような研究はいくらでもあった。
がんワクチンが効くのなら、国が予算をつけ国費を投じなくても製薬会社が飛びつく。口のうまい研究者が政治や霞が関と結託し、予算を分捕ろうとする例はよくある・・・

・・・霞が関のなかで仕事をしてわかったが、役人が発言権を持ちすぎる。美辞麗句を並べ、どこか夢を語るようにして政治を動かそうとする。
経済産業省の官僚が総合科技会議を仕切りだしたのがよくなかった。「オープンイノベーション」の旗を振った。企業は基礎研究にコストをかける必要はない、色々なリソースは外からとればいい、と。
経営者にとっては聞こえがいいだろうが、これは大間違い。内で研究せずに外の研究を評価できるはずがない。大手電機は基礎研究から手を引き今の衰退につながった。
米国では政府が予算の大まかな配分だけを決め、中身は学者が決めていく。総合科技会議も司令塔をうたうのなら、官僚主導から学者主導にしなければならないが、現実は逆の方向に進んだ。日本の科学技術の力が落ちぶれていくのは必然だった・・・

市町村アカデミーで講義

今日7月2日は、市町村アカデミー「管理職ステップアップ講座」で「目標設定と職場のマネジメントの実践」を講義しました。毎年、担当しているのですが、今年は内容を絞り込みました。
担当教授と相談して、3時間のうち1時間15分を私の話とし、休憩を挟んで班別討議、そしてそれを発表して、私が助言をする形にしました。

講義は、表題に即した内容とともに、班別討議の材料となるような素材を提供することを心がけました。すなわち、「よい課長になるためには」とともに、「困ったことも起きる」を説明しました。
班別討議も盛り上がりました。よい課長への気づきとともに、困った場合が取り上げられるのです。これから管理職になる人たちです。悩みは共通しています。なかなか正解のない悩みもあります。

退職した元職員の再雇用

6月24日の日経新聞夕刊に「退職者カムバック、自治体も 都庁「アルムナイ」募集開始 公務員離れに危機感」が載っていました。ところで、「アルムナイ」という言葉は日本語に置き換えられませんかね。やはり、英語に憧れているのでしょうか。「元職員」ですよね。例えば「元職員再採用」ではだめでしょうか。

・・・中途退職した元職員を再雇用する「アルムナイ採用」が自治体で増えている。長野県や静岡県が2023年度に導入し、東京都も24年度から始めた。売り手市場で公務員人気に陰りがみえるなか、中途退職者を即戦力として見直す動きが自治体にも広がってきた。
都は「都庁版アルムナイ採用制度」と銘打ち、4月から中途退職者の再採用を始めた。1年以上の勤務経験があれば応募できる。選考は筆記試験を免除し、書類選考と面接のみとした・・・

・・・アルムナイは卒業生や同窓生を意味する英語で、人事分野では中途退職者を指す。転職は裏切りとする風潮がかつては強かったが、最近は組織風土や業務に熟知した即戦力として評価する企業が増えている。
アルムナイ採用の導入は企業が先行しており、リクルートの再採用代行サービスの利用企業は1月時点で100社超と1年前の4.5倍になった。
生え抜きを重視する傾向が強かった自治体でも都のように導入例が出てきた。19年度以降、茨城県や神戸市、大阪府寝屋川市などが開始している。

いずれも育児や介護を理由にした退職者に限定せず、転職者を対象に含めている。選考は新卒採用や中途採用で課す筆記試験を免除し、小論文や面接のみとする例が多い。復職後の給与は退職前の職級に準じて決める。
これまでも中途退職者を再雇用する制度を設ける自治体はあったが、出産や育児、介護などで職場を離れた女性の復職支援という意味合いが強かった。育児休暇制度が充実したこともあり、制度の利用もごく少数にとどまっていたとみられる。
転職者に門戸を広げたことで、応募が増えた自治体もある。北海道は21年度に育児や介護などやむを得ない理由での退職者限定で再採用を始め、23年度から転職者を対象に含めた。技術職と専門職に限っていた募集職種を行政職に広げたこともあり、21~22年度に4人だった応募者は23年度に17人まで増えた。
自治体でアルムナイ採用の導入が相次ぐ背景には、地方公務員のなり手不足への危機感がある。安定した就職先として人気の高い公務員も、求職者優位の「売り手市場」で採用に苦戦している・・・

北日本新聞に出ました。

7月1日の北日本新聞に、林・氷見市長との対談が載りました。能登半島地震からの復興についてです。発災から半年が経ちます。

6月中旬に氷見に行って、液状化被害の市街地を見せてもらい、その後に対談に臨みました。
大きな被害を受けた地区もあるのですが、市全体ではありません。液状化対策をすれば、現地での再建ができます。また、半数の世帯が現地に残ると回答していることは、心強いです。
災害復興と聞くと、多くの人は土木工事の困難さを想像しますが、実はその前の意見集約が難しいのです。出ていく人、残りたい人、自力では再建できない人、考えがまとまらない人、様々です。その意見がまとまれば、工事は進みます。
林市長は土木が専門で、液状化も区画整理もよく通じておられます。巡り合わせでしょうね。