所管省が知らない政策決定

首相指示の失敗事例?その2」の続きにもなります。するとこれは「首相指示の失敗事例?その3」です。
6月25日の読売新聞「電気・ガス補助に戸惑い 首相 事前調整不足」から。
・・・ 岸田首相が表明した8~10月使用分の電気・ガス料金への補助に、政府・与党内から戸惑いの声が上がっている。物価高が続く中、首相は21日の記者会見で「即効性のある対策」として打ち出したが、補助は5月使用分で打ち切ったばかり。事前調整も十分に行われておらず、「場当たり的」との批判も出ている・・・

・・・補助の再開は、自民党などからの要望を踏まえ、首相官邸主導で検討が進められた。首相周辺は「物価高を上回る賃上げを実現するため、今すぐにできることを考えた結果だ」と意義を訴える。19日の党首討論で、立憲民主党の泉代表が「補助の復活」を首相に提案し、「野党第1党も反対しない」との感触が得られたことも後押しになったという。
ただ、与党内の議論も行わないままの打ち出しには、唐突感は否めない。所管する経済産業省幹部の一人は、首相の記者会見当日まで知らされていなかったといい、「燃料価格は一時に比べ、落ち着いている。このタイミングで再開するのは想定外だ」と困惑を隠さない・・・

26日の朝日新聞「補助再開、急ごしらえ露呈 「酷暑乗り切り」なのに7月は対象外 「バラマキ」身内から批判」から。
・・・岸田文雄首相が「酷暑対策」として再開を表明した電気・ガス料金の補助に、政府与党内で困惑が広がっている。一貫性を欠く補助再開に「政権の延命策か」といぶかる声があがるほか、自ら旗を振る脱炭素社会実現の政策にも逆行する。唐突な表明も「調整不足」の批判を招いている。

「国会開会中に議論すべきだった」「行き当たりばったりだ」
25日の自民党政調全体会議。出席議員から首相の判断に指摘が相次いだ。身内から公然と疑問が呈された格好だ。
電気・ガス料金の補助は5月使用分でいったん終了。わずか3カ月後の再開に何があったのか。
複数の政権幹部によると、木原誠二自民党幹事長代理や村井英樹官房副長官ら首相に近い政治家が、補助再開のシナリオを描いた。官邸内には「あくまで激変緩和のために始めた制度だ」と再開に慎重な意見もあったが、最終的に首相が決断したという。
だが、政府の決定をこれほど短期間で覆すのは異例だ。内閣支持率が低迷する中、秋の自民党総裁選や次の衆院選など政治日程をにらんだ「バラマキ」との見方が広がるのは無理もない状況と言える。
急ごしらえの再開は、ちぐはぐさも目立つ。「酷暑乗り切り緊急支援」としたのに、真夏の7月は対象外。「手続きに要する期間を踏まえた」(林芳正官房長官)とするが、政策目的と効果の整合性が問われかねない。
情報管理を優先し、根回しが遅れた感も否めない。自民党幹部の一人が首相から電話で告げられたのは、会見当日の朝。前日に連絡を受けた財務省幹部は「完全に延命策。付き合いきれない」と吐き捨てた・・・

市町村アカデミー研修動画2

市町村アカデミーでは、今年度から研修動画を配信しています。4月の第1期では、私も登壇しました。7月1日から第2期を配信しています。

今期は、次のお三方にお願いしました。
「未婚化から見る統計データに基づく有意性の高い少子化対策とは」天野 馨南子さん(株式会社ニッセイ基礎研究所生活研究部人口動態シニアリサーチャー)
「ナッジを活用した政策イノベーション」特定非営利活動法人PolicyGarage
「文化芸術の意義と活用」平田 オリザさん(劇作家・演出家)

天野さんは、少子化問題で鋭い指摘をしておられ、その分野の第一人者です。平田先生は、演劇部門での有名人です。ナッジは、市町村職員の間では大きな関心を持ってもらっています。この方々の講義を、無料で受けることができるのです。引き受けていただいた先生方には、感謝します。
今回も配信早々、たくさんの方に見てもらっているようです。第1期分も、好調です。
各人が好きな時間に、また少しずつ見ることもできます。便利です。
パスワードは、各自治体の人事課など職員研修担当課に送付してあります。市町村職員の方は、担当課に問い合わせてください。

事故をきっかけに世界に追いつく

正月に起きた、羽田空港での飛行機衝突炎上事故。国土交通省が、再発防止策を決定しました。それに関する、6月23日の読売新聞「羽田事故 対策5分野 国交省 正式決定へ」から。

・・・ 国交省関係者によると、1月以降、検討委で議論してきた新たな対策案は、〈1〉管制交信でのヒューマンエラー防止〈2〉滑走路誤進入の注意喚起システムの強化〈3〉管制業務の実施体制の強化〈4〉滑走路の安全の推進体制の強化〈5〉技術革新の推進――で構成する。

事故からまもなく半年。国土交通省は再発防止策の取りまとめにあたり、滑走路の安全に関わるハードとソフト、すなわち「人、運用、技術」のバランスを念頭に、一体的なリスク低減を図った。新たな取り組みが、別のリスクを生まないことにも配慮したという。
対策の大半は、欧米やアジアの航空当局や国際機関の状況を丹念に調査し、日本の先を行く取り組みを導入した形だ。ただ、裏を返せば「悲惨な事故を機に、諸外国への遅れをやっと取り戻そうとしている」との厳しい見方と反省の声は、国交省内にもある・・・

むやみに謝るのはやめよう

カスタマーハラスメント(これも和製英語のようです)が問題になっています。客がお店に対して理不尽な言動や不当な要求をすることです。暴言を浴びせられたり、無理難題を言われたりします。時には暴行も加えられます。同様な問題として、役所にあっては、行政対象暴力があります。住民だけでなく、議員から暴言や無理な要求を受けることもあります。
役所や企業に非がある場合に、苦情を言ったり代わりの商品を求めることは正当な要求でしょうが、度を超えた苦情や要求は問題です。そして、その場を穏便に済まそうと妥協すると、さらに無理な要求を重ねてきます。

「お客様は神様です」という台詞を誤って理解し、それを転用していることが指摘されています。これは三波春夫さんの言葉ですが、「自分の完璧な歌をお客様に届ける、お客様を神様とみて神前で祈る時のような気持ちで歌を歌う心構えを表したもの」だそうです。それが、「お客様は神なんだから、何をされようが我慢してつくしなさい」というような間違った解釈で使う人が出てきました。朝日新聞「カスハラ問題で引用される「お客様は神様です」の誤解 三波春夫さんの真意は別次元」。

私はこの背景に、日本社会の「すぐに謝る」文化があるのではないかと考えています。例えば、電車の車内放送です。遅延すると「遅れて申し訳ありません」と放送があります。しかし、遅延の原因には鉄道会社の責任によるもの(例えば車両の故障)とともに、鉄道会社ではどうにもならないもの(例えば踏切事故、地震による停車)があります。ところが後者であっても、「申し訳ありません」とわびるのです。乗客から「困るじゃないか」と文句を言われたとき、前者ならお詫びしなければならないでしょう。しかし後者なら「私たちではどうにもできません」としてお詫びする必要はありません。何でもかんでも謝ることが、客を勘違いさせます。
「ひとまずお詫びしておけばよい」という安易な考えが、客を増長させていないでしょうか。

人工知能、「記憶力の良い研修生」

7月4日のiJAMP(時事通信社)に、塩光献・アブポイント日本法人代表取締役社長が「生成AI、現状では「記憶力の良い研修生」」を書いておられました。いくつも納得できる指摘がありますが、次の文章を紹介します。

・・・生成AI(人工知能)の登場は大きなことではあったが、職場では現状は「非常に記憶力の良い研修生」に例えられている。覚えは良いのだが、社内業務においてやって良いことといけないことがまだしっかり判断できない状態だ・・・

後段の「やって良いことといけないことが判断できない」は、重要な指摘だと思います。教えないと、善悪の判断を機械はできません。