7月25日の朝日新聞オピニオン欄に、砂原庸介・神戸大教授の「候補者知る経路 多様化を」が載っていました。
・・・7月上旬に投開票された東京都知事選挙では、想定以上の立候補やそれに伴う選挙ポスター掲示場の枠不足、そして貼られたポスターやNHKの政見放送での人々の関心を集めようとする過激さが物議を醸した。現職候補が公務を優先するとして、都民への露出が「控えめ」であったこともあり、期待された政策論争よりも、場外乱闘のようなやり取りが目立つ選挙であった。
そこでなされる「政策論争がない」という批判はもはや定番だが、候補者も有権者も、政策に関心がないというわけではない。今回の都知事選に限らず、たとえ注目されていない候補者でも何らかの政策に対する熱い思いを持っていることがほとんどだ。候補者たちのことをよく知れば、その中に自分の考え方を一番代弁してくれる政治家がいるかもしれない。そして、そう考えて選挙公報を読むことに挑戦する有権者も少なくないだろう。
そんな有権者にとって、候補者を選ぶ重要な手がかりの一つは、候補者の所属する政党についての情報だ。政党間で競争が行われる傾向がある国政に対して、地方自治体の選挙では無所属候補が多く、さらに同じ政党に所属する候補者同士が競争することもあり、政党名を選択の手がかりとしにくい・・・
・・・選挙は、政治家を選ぶことで、政治の選択肢を絞り込むプロセスだ。そして、日本の選挙の特徴の一つは、極めて短い選挙運動期間で、投票を行う有権者が自ら情報を探して選択する傾向が強いところにある。しばしば批判されるが、マスメディアは選挙の公平性を理由に選挙期間中に個別の候補者を深掘りする報道を避けるし、候補者の側も短い期間で有権者に浸透するため、とにかく名前を連呼することが多い。その結果、特に地方自治体の選挙で、有権者が自分自身で候補者に関する情報をつかみ取って投票しなければならなくなる・・・
・・・しかし、そうであれば有権者が多様な情報にアクセスできるような経路が開かれるべきだ。選挙運動期間をもっと長くとることは必須だろうし、戸別訪問や集会などで候補者を具体的に知ることができる機会を設けるようなことも重要だ。都知事選でポスターや政見放送が広く注目されたのは、反対に言えば多くの人にとってそのくらいしか選択肢を絞る手がかりがなかったことを意味したのではないだろうか・・・