本庶佑先生、政治と科学振興

日経新聞私の履歴書、6月はノーベル賞受賞者の本庶佑先生でした。26日の「総合科学会議 司令塔、学者主導に移行を 役人の美辞麗句で動く政治」から。

・・・在任中、一番重要な仕事といえば第3期(06年度から5年間)の科学技術基本計画の進捗をチェックすることだ。
私が担当する生命科学は重点分野である。予算シーズンになると、各省庁からあがってくる関連プロジェクトを「SABC」の4段階で評価する。アドバイザリーボードにおいて専門家の立場から研究の重要度を見極める。
いまでも覚えているのが「がんワクチン」計画だ。第2段階の臨床試験(治験)をやるというが、動物実験の成果しか出ていない。計画書に記されたエビデンスをみても、一例のみで似たような研究はいくらでもあった。
がんワクチンが効くのなら、国が予算をつけ国費を投じなくても製薬会社が飛びつく。口のうまい研究者が政治や霞が関と結託し、予算を分捕ろうとする例はよくある・・・

・・・霞が関のなかで仕事をしてわかったが、役人が発言権を持ちすぎる。美辞麗句を並べ、どこか夢を語るようにして政治を動かそうとする。
経済産業省の官僚が総合科技会議を仕切りだしたのがよくなかった。「オープンイノベーション」の旗を振った。企業は基礎研究にコストをかける必要はない、色々なリソースは外からとればいい、と。
経営者にとっては聞こえがいいだろうが、これは大間違い。内で研究せずに外の研究を評価できるはずがない。大手電機は基礎研究から手を引き今の衰退につながった。
米国では政府が予算の大まかな配分だけを決め、中身は学者が決めていく。総合科技会議も司令塔をうたうのなら、官僚主導から学者主導にしなければならないが、現実は逆の方向に進んだ。日本の科学技術の力が落ちぶれていくのは必然だった・・・