高度成長と平成経済

日経新聞夕刊連載「人間発見」、小峰隆夫さん「日本経済と歩む人生」、6月6日の記事から

・・・官庁エコノミストの先輩である香西泰さんは「高度成長の時代」という本を書いています。敗戦から1970年代まで、日本経済がどのように歩んできたかを分析したものです。
香西さんは高度成長について官僚などの一部エリートが主導したわけでないと分析し、市場メカニズムをベースに発展したと説明します。世界平和や自由貿易、海外からの技術移転がその支えになったとも強調しました。

香西さんのエコノミストとしての歩みは高度成長と共にありました。私もそのような本を記したいと思い「平成の経済」をまとめました。
昭和の経済は驚くほどうまく諸問題を切り抜けました。他方、平成の経済は「予想外に厳しかった時代」と言えます。バブル崩壊と不良債権、アジア通貨危機と金融危機、デフレ、人口減少など、経験したことのない課題が次々現れた。その対応も決して満足すべきものでは無かった。
私は悲観派のエコノミストではないですが、高度成長を終えた後の日本経済は、これでもかというほどに解決困難な問題が次々と出てくる。それも、誰かの責任ではなく国全体の課題として生じてくる。先進国に追いつく過程であるキャッチアップを達成した後の経済における宿命なのかもしれません。

急成長を遂げた後の現在の中国経済をみても、日本に似た問題が今起きているように見えます。不動産部門は過剰債務を抱えて苦しんでいます。高齢化や少子化も中国社会に影を落としています・・・

首相指示の失敗事例?その1の2

首相指示の失敗事例?その1」の続きです。

朝日新聞によると、満額減税を受けられる人は約6300万人、納税額が少なく減税とともに調整給付を受ける人が約3200万人です。そもそも住民税や所得税を納めていない世帯が、約1740万世帯あります。「定額減税「穴埋め」自治体実務ずしり 減税しきれない人 3200万人に調整給付

一番の問題は、給与支払担当者の事務負担です。減税の計算をしなければなりません。給与計算は、ほとんどの事業所でコンピュータを使っています。一度きりの減税のために、計算ソフトを入れなければなりません。そして1度で減税せず、これから毎月に分けて減税します。それを、一人ずつ確認する作業が必要になるでしょう。
次に、減税しきれない(納税額が多くない人)と納税額がない人は、その結果をもらって、市町村役場が差額を給付します。
いかに事務負担をかけるかが、分かってもらえると思います。これらの作業をする人に聞けば、恨みの声がでるでしょう。

さらに記事では、次のようなことも指摘されています。
・・・自治体を苦しめているのが、対象者を絞り込み、給付額を算定する作業だ。さらに政府が給付のスピードを重視したことも、混乱に拍車をかける。今年の所得税額が確定するのを待たずに、穴埋め額を推計して給付するルールにしているからだ。夏以降に給付を始めるが、それでも足りなかった場合は、来年、納めた税額が確定した後に対象者を特定し、追加で給付することになる。
ある自治体の担当者は言う。「算定の前提になる数字が推計値なので、『うちの額は本当にこれで合っているのか』と問い合わせがあっても『わかりません』としか答えられない」・・・

岸田首相がこの減税を指示したとのことですが、自民党、財務省、総務省の関係者が、この事情を首相に説明できなかったのでしょうか。あるいは、説明しても聞いてもらえなかったのでしょうか。
私なら首相に、給付金の方が国民に実感してもらえること、事務作業が格段に軽くなることを説明します。そして、デジタル庁や総務省と相談して、マイナンバーに銀行口座を紐付けた人には直ちに払い込み、紐付けていない人には遅れて支払う仕組みにします。「早く4万円欲しかったら、マイナンバーに銀行口座を紐付けてください」と広報します。「首相に直言 秘書官の役割

経企庁報告書に大蔵省からの抗議

日経新聞夕刊連載「人間発見」、小峰隆夫さん「日本経済と歩む人生」、6月5日の記事から。

「年間回顧の報告書をまとめた時は、不良債権問題を巡り大蔵省から激しい抗議を受ける。」
白書とは別に、企画庁は年間回顧という報告書を作っていました。93年は不良債権問題を取り上げようとしたところ、大蔵省が猛烈な勢いで公表を取りやめるよう抗議をしてくる。「企画庁が金融業を分析する法的根拠はない」「市場に影響が出た場合、どう責任を取るか」など、ものすごいけんまくでした。
彼らも銀行の経営の深刻さは知っており、神経質になっていたのです。調整と修正を経て分析は公表できました。一連の調整は役人人生で最も不愉快な経験でした。

この分析も、いま振り返れば警鐘としては不十分でした。不良債権問題は後に金融危機をもたらし、2000年代前半まで解決しませんでした。このときにやり合った相手とは最近、オンライン会議の勉強会で顔を合わせ、向こうから「あのときは迷惑をかけました」と言われました。

首相指示の失敗事例?その1

6月から、定額減税が始まりました。この政策については、問題が多いと指摘されています。いろんな人の話を聞くと、次のように整理できそうです。
一人4万円(所得税で3万円、住民税で1万円)減税になるのはうれしいでしょうが、巨額の借金を増やしていることを考えれば喜んでいてはいけないのでしょう。減税総額を上回る景気回復が起きればよいですが、そうでなければ将来の国民からは苦情が出るでしょう。

それはさておき、問題になっているのはその手法です。国民にわかりにくいこと、手法が複雑で担当者(事業所の給与支払者、市町村役場の担当者)からは恨みの声が聞こえます。
まず、4万円程度の一度きりの減税を喜ぶのは、低所得者です。しかし、4万円以上納めていない人にとっては、このような減税は効果がありません。低所得者対策なら、給付金が効率的です。
では、今回はどうするか。減税できない人、減税しきれない人には、別途給付金を配るのです。それなら初めから全員に給付金にすればよいのに。

減税の恩恵を受ける人も、実は実感がわきにくいのです。給与明細書に減税を明記するように政府は指示しているようですが、多くの人は源泉徴収は会社に任せてあって、毎月の給与明細書は見ていますが、よくわからないままに手取額を確認しています。これは源泉徴収制度の欠点です。自ら申告するなら、どれだけの税金を払うのか切実になるのですが。給付金なら、口座に4万円振り込まれる、あるいは現金でもらうと、実感がわきますよね。

なお、NHKの世論調査(6月)では「今月=6月から、1人あたり年間で、所得税が3万円、住民税が1万円減税されることへの評価」は、
「大いに評価する」7%、「ある程度評価する」33%、合計40%。
「あまり評価しない」34%、「まったく評価しない」18%、合計52%です。
この項続く

ビニール傘の消費、年間6500万本

6月1日の日経新聞「暮らしの数字考」に「ビニール傘の消費、年6500万本」が載っていました。
・・・天気がぐずつく梅雨の季節。想定外の雨でビニール傘を買う人も少なくない。ビニール傘は年間約6500万本も消費されているという計算もある。「使い捨て」の現状を変えるため、様々な取り組みが広がっている・・・

6500万本だと、日本人赤ちゃんから高齢者を含めて、2人に1本です。2023年に警視庁(東京都)に届けられた忘れ物傘は、29万本。返還率は1.4%だそうです。使い捨てに慣れてしまっているのでしょうか。地球に優しくないですね。