岡義達著作集

吉田書店から「岡義達著作集」が出版されました。絶版になっていた岩波新書『政治』が読めるようになったことは、喜ばしいです。

『政治』は、政治を見る際の、見方の枠組みを示しています。「政治」は人によって意味するところが異なります。その違いはどこから来るのか、では共通するのは何か。最大公約数を探ります。
岡先生の政治学は、象徴論と分類されるものです。人と人との関係を、力や金銭ではなく、意味の共有として考えます。そして、時代を超えた共通項を剔出します。政治とは何か、政治学とは何かを考えたい人には、ぜひ手に取って、挑戦してほしいです。

前にも紹介したように、苅部直東大教授の政治学の入門書『ヒューマニティーズ 政治学』(2012年、岩波書店)の読書案内の最後に、次のように書かれています。
・・そして最後に、ある意味で大人向け、もしくはプロ向けの、「政治」に関する本を二冊。岡義達『政治』(岩波新書、1971年)と佐々木毅『政治の精神』(岩波新書、2009年)。どちらも、新書版とは思えないほどに読み口の重い本であるが、それは決して抽象的で難解という意味ではない。じっくり読み解いていけば、「政治」という営みがまとう、意味の分厚い塊がしだいに溶け出してくるように感じられるはずである・・
吉田書店は、よい本を出してくださいますね。ありがとうございます。「『解(ほど)けていく国家―現代フランスにおける自由化の歴史』
岡義達著作集2」に続く

公務員では雇えないので別法人にする

5月11日の日経新聞東京版に「東京都の財団、行政DXけん引 企業OB「官民の壁」崩す」が載っていました。

・・・東京都が民間から人材を集め、都内自治体のデジタル化を加速している。全額出資の財団法人を設立し、日本マイクロソフトや富士通の出身者らを採用した。優秀な人材には都庁幹部を上回る給料を支払う。業務開始から8カ月が過ぎ、民間出身者が行政の現場で成果を出し始めている・・・

一般財団法人「ガブテック」です。職員14人のうち3割が民間経験者です。都庁でなく別法人にしたのは、公務員の枠組みでは優秀な人材を採用できないからです。給料が公務員水準では低くて、「よほどの物好きでなければ来てくれない」のです。この法人では、職員の年収が最高で1500万円に設定しています。都庁では部長(50歳)が1300万円、課長(45歳)で1000万円程度です。

経験年数と職位で給料が決まる、警察や消防、保育などの一部職種を除き給料表が同じという仕組みは、無理になってきています。民間企業と競合する技術職にも、別の給料表が必要になるのでしょう。これも、メンバーシップ型からジョブ型への移行の一つとも考えられます。

立命館大学法学部「公務行政セミナー」講師

昨日5月24日は、立命館大学法学部「公務行政セミナー」の講師に行ってきました。去年に引き続き3回目です。約80人の学生が、熱心に聞いてくれました。
立命館大学法学部では公務員育成に力を入れていて、卒業生の22%が公務員になり、国家公務員と地方公務員が半分ずつです。

この授業では、国家公務員や地方公務員の先輩たちが話をします。私のような高齢者が話すと、自慢話と説教になりがちです。そこで、実例として東日本大震災での対応経験を、写真を見せながら話します。これは、当時小学生だった受講生に、災害を知ってもらうことと、国・官僚は何をしたかを知ってもらうためです。

後半は、そのほかの私の体験を話し(新聞記事や書いたものを配布し)、公務員になる際の心構えを話しました。日経新聞から提供してもらった、新聞の読み方も配りました。新聞各社も新聞離れを嘆くなら、もっと学生に新聞を読むこと、その効用を宣伝するべきですね。
そして質問を受けました。
タマネギの皮を増やす

大リーグ蜂騒動に学ぶ、おおらかさ

5月15日の日経新聞スポーツ欄に、北川和徳・編集委員の「大リーグ蜂騒動から学ぶ、おおらかさと臨機応変な発想」が載っていました。

・・・大谷翔平(ドジャース)を目当てに大リーグ中継を見ていて、トラブルが起きた時のスタジアムの雰囲気と臨機応変な対応に感心した。蜂の大群の襲来で試合開始が約2時間遅れた4月30日のアリゾナ州フェニックスでのダイヤモンドバックス戦。球場に駆けつけて蜂を取り除いた業者のマット・ヒルトンさんが、試合を救ったヒーローとして始球式の大役も務めた。
ヒルトンさんが到着したのは試合開始予定時刻から1時間以上過ぎていた。正直に言うと、中継を見ながら対応が遅いなと思っていたのだが、現地の様子は違った。蜂(bee)にかけてビートルズの「Let It Be」(なるがままにしなさい)が流れ、ヒルトンさんは待ちに待った救世主として迎えられた。
蜂の除去に成功すると大歓声。さらに始球式に登場して喝采を浴びた。テレビの前で試合が始まらないことにイライラしていたこっちが恥ずかしくなるような雰囲気だった・・・
・・・現地の報道などによると、ヒルトンさんは6歳の息子のティーボール(子ども向けの野球)の応援中に呼ばれ、急きょ駆けつけたそうだ。裏方として表舞台を支える人々への感謝と敬意を示す文化も感じた。ちなみに、掃除機のような装置に吸引した蜂は殺処分したわけではなく、別の安全な場所で放されたという。

日本ではこうはいかないだろう。自分も試合の遅延にいらだっていたが、2時間も開始が遅れれば、蜂のせいだから仕方ないとはならず、もっと適切に対応できないのかとあら探しが始まる。誰かの責任にしないとおさまらない。蜂を取り除くやり方についても、苦情や文句が寄せられるだろう。運営側はそのすべてに真面目に対応しようとする。
そんな状況では試合を救った功労者による始球式などという発想も出てこない。「上の了解は」「問題が起きたら誰が責任を取るのか」。前例のないことや予定外の試みを実行するには、多大なエネルギーを要する・・・

・・・深刻な事態でないのなら「Let It Be」と受け流すおおらかさと、現場の自由な判断による臨機応変で柔軟な対応。それは今のこの国の社会に最も欠けているものかもしれない・・・

朝日新聞オピニオン欄「人口減時代の防災・復興」に載りました

5月24日の朝日新聞オピニオン欄「交論 人口減時代の防災・復興」に、私の発言が載りました。朝日新聞が継続的に書いている「8がけ社会」の一つです。廣井悠・東京大学教授と対になっています。

・・・少子高齢化はさらに進み、2040年には働き手の中心となる現役世代が現在から2割減る。さらに制約が増していく「8がけ社会」において、地震や津波などの大災害にどう向き合えばいいのか。人口減少下の被災について考えを深めてきた2人に、防災と復興のあり方を聞く。

――東日本大震災の被災地に通って「ミスター復興」と呼ばれた経験から、過疎地の復興の難しさをどう考えますか。
「被災者に要望を聞けば『元通りにして欲しい』との声が出る。その思いに、政治家や役人が『できません』とはなかなか言えません。東日本大震災では、行政が率先して原状復旧を掲げ、災害公営住宅の建設や大規模な土地整備をしたのに、住民が減ってしまった地域が生まれています」

――なぜ、住民が思い描いた復興にならなかったのですか。
「人口減少下の地方で起きた災害だからです。日本の人口は2008年から減少に転じ、過疎と少子高齢化が進みました。被災すると都市部に移る人が増え、人口流出は加速する。集落を元に戻しても震災前の光景は戻らないのです」
・・・

――人手や財源の確保が今後ますます厳しくなる国や自治体に、どこまで対応できるでしょうか。
「個人が『移らない』という選択をしても、集落として考えた時に持続性が乏しくなる恐れがあるのは東日本大震災の事例が示しています。そして、今後は社会を支える働き手が減り、生活に欠かせないサービスの維持がますます困難になる。答えは簡単には見つからないと思いますが、能登半島の人たちには、ぜひ東北の現在地を見てもらい、新しいまちをどうするか、考えてもらいたいのです」・・・

4月20日の朝日新聞デジタルに載った「成否分けた復興「東北の現在地を見て」ミスター復興が伝えたいこと」の要約版です。