5月2日の朝日新聞夕刊、寺西和男ベルリン支局長の「GDP逆転 独に学ぶ、財政監視のあり方」から。
・・・昨年の名目国内総生産(GDP)で日本を抜いて「世界3位」になったドイツに高揚感はない。GDPを押し上げた主な要因はインフレだ。エネルギー高に、高齢化による人材不足が重なり、取材した企業経営者からは長期低迷が続く「日本化」を懸念する声も聞かれた。現状だけをみると、「強いドイツ」の姿は浮かんでこない。
ただ、それを差し引いても、考えないといけないことがある。経済対策で歳出を膨らませてきた日本と違い、ドイツは経済が少しぐらい弱くてもすぐに「成長のために財政拡大」とならない点だ。昨年秋から年明けにかけての出来事はその典型だった。
ドイツには基本法(憲法)で財政赤字を一定割合までに抑える「債務ブレーキ」という財政ルールがある。2021年にコロナ禍の緊急対応でルール適用を一時停止し、政府は600億ユーロ(約10兆円)の予算を確保。それが余ったため、翌年に基金に移し、別の用途に使うことにした。
だが、憲法裁判所は昨年秋、この転用を違憲と判断した。基金は廃止になり、議会では歳出削減策が議論され、補助金の削減対象になった農家はデモで反発した。
独メディアは騒動を「予算危機」と報じたが、私は議会で予算の使い道の議論を重ねる様子に感心した。
裁判所に訴えたのは転用を批判してきた最大野党。予算案を審議する議会予算委員会の委員長も慣例で最大野党が務め、財政に目を光らせる。国民の代表である議会が予算をチェックする「財政民主主義」の意識の高さを感じた。
国際通貨基金(IMF)によると、日本は名目GDPに対する政府の債務(21年)の割合は255%、ドイツは69%。数字が歩みの違いを物語る・・・