『政治はなぜ失敗するのか 5つの罠からの脱出』

ベン・アンセル著・砂原庸介監訳『政治はなぜ失敗するのか 5つの罠からの脱出』(2024年、飛鳥新社)を紹介します。

宣伝文には、次のように書かれています
「政治はなぜ常に私たちを失望させるのか? 古代ギリシャから気候変動条約、ブレグジットまで、私たちが集まると近視眼的選択の「罠」に落ちてしまう。それを回避す
べく、直感に反する最近の研究成果、例えば政治・社会的平等の増加が大きな不平等をもたらし、不平等の高まりが民主主義を促す逆説などを活用して、現実政治の罠から脱出する方法を生き生きと説明する。」

監訳者である砂原庸介教授の解説が、わかりやすいです。
民主主義、平等、連帯、安全、繁栄という5つの概念が、それぞれに罠を抱えています。民主主義にあっては、集合的な意思決定と個人の選好がが必ずしも一致しないこと。平等にあっては、結果の平等が個人の自由を求める行動によって損なわれること。連帯にあっては、人びとの連帯にただ乗りして利益を得たいと思うこと。安全にあっては、安全を守るための制約から自分だけは自由になりたいこと。繁栄にあっては、将来の繁栄を実現するために抑制すべきなのに当面の利益を確保したいこと。
よりよい社会を実現するために、いずれも集団と個人との間で、あるいは将来と現在の間での「我慢すべきこと」を、我慢できずに個人や短期的な願望を選択してしまうのです。
では、どうすればこの罠から脱出できるのか。重要視されるのが、制度と規範です。公式、非公式に私たちの行動に方向付けを与えてくれて、罠に陥ることを防ぐのです。

このように、政治の分析だけでなく、処方箋を提示するのです。砂原教授は次のように指摘しています。
「近年の政治学研究は、他の社会科学分野と同様に、方法論の精緻化が進んでいる。それによって、少しずつ因果関係を理解することができるようになっているのは確かで、特に政治制度がどのように人々の行動に影響を与えるかについての知見は広がっている。しかし、発見された因果関係が社会の中でどのような意味を持つのかは確定しにくく、得られる知見は技術的な性格が強くなっていて『このようにすべき』という指針を生み出すことが難しくなっている。そのような中で、本書の素晴らしいところは、実証研究の積み重ねの上に立ちながら、その含意を引き出して包括的な社会ビジョンを示し、そこに至る道筋を議論していくところだ。」
参考「実用の学と説明の学」「文系の発想、理系の発想